第百六話
「これはこれは、ブルーニー殿、マリオン殿、良くぞ参られた」
眉なしが俺達に対して『殿』だとよ。それほど恐れられているのか、ただの社交辞令なのか。
「突然の訪問に対応していただきありがとうございます」
「ありがとうございます」
まぁ挨拶ぐらいはマナーは必要だよな。
「それでこの度はどういった要件で」
要件を説明してたら紫ババァと同じになるので省略。
眉なしは紫ババァと違ってダイクン派を取り込んだり、見逃すつもりがないようで俺達がダイクン派を支援するのは認められないとのこと。
ニューギニア特別地区での受け入れもかなり渋られたが下手すると紫ババァと組む可能性を遠回しに伝えると容認した。
紫ババァがダイクン派を取り込むと色々な意味でヤバイからな。
ジオン・ズム・ダイクンを慕う民衆は今もまだ多い、それの過激派と現政権のNo.2とが結びつく、普通に考えれば難しいかもしれないが……シャアを担ぎあげよう、なんて話になるとあり得る。
まぁさすがにそこまで眉なしが察しているとは思えないけどな。
紫ババァと同じ方法でアナハイムの侵食率も聞いてみたが3割と思ったより侵食されていなかったのには驚いた。
ちなみに眉なしは素直に答えてくれた。
どうも眉なしはアナハイムが闇商人であることを早いうちから見抜き、影響力を最小限に抑えたようだ。
「アナハイムの人材、技術、施設には驚かされるがアレほどの大企業は薬にもなるが毒にもなるので付き合い方を考えねばならん。私はブルーニー殿達とは良好な関係を気づきたいと思っているのだ」
つまりアナハイムと対抗するのに協力しましょうって話か、正直願ったり叶ったりだ。
でも、性質上は俺達も死の商人なんだけどいいのかね?まぁ俺達は第三国なんだから若干違う。
俺達は企業兼国家でジオンや連邦と規模こそ違うが対等の立場だ。
それに比べてアナハイムは企業であり国家に守ってもらっている弱者という形にも関わらず実質強者なので国家からすると必要ではあるが同時に疎ましい存在でもある。
こういう立場の違いによって今の言葉が出たわけだ。
「もちろんだ。少し前に頼まれた食糧の輸入量は増やしてもらっていい、空気の輸出量を増やそう」
「それにサイド5の再建すれば更に貿易は盛んとなるでしょうし、ジオン公国とはこれからも友好関係を築いて行きましょう」
「頼もしい味方ができて嬉しいよ」
……まぁ外交に友情なんてなく、あるのは自国の利益を追求だけなんだけどな。眉なしもその辺は理解してるだろうけどね。
「そういえば少し前に兄弟喧嘩したらしいな。ほどほどにしておけよ。俺達がどちらかに参戦、なんてことになればどちらかの首がリアルで飛ぶハメになるぞ」
「……私に味方をしてくれるないのかね」
「それとこれとは話が違う。アナハイムとは違ってどちらも上客だから失いたくないのさ。なにより派閥争いじゃ大義がない、俺達は傭兵だが大義なき戦いはしないぞ」
どの口が言う、草不可避って弾幕が見えた気がするが気のせい。
俺達はジオン、連邦、日本に雇われたがジオンはスペースノイドの独立、連邦はコロニー落としの怨嗟と叛徒の鎮圧、日本は民意(民主主義だからね)と、俺達が参戦してきた戦いはお互い大義があった……という建前で派閥争いには不参加。
眉なしは、傭兵風情が何言ってるみたいなこと思ってるだろうけど、俺達からすれば余裕が無い国家のくせに派閥争いを続けるお前らの方が間抜けだらかな。
「わかった。心に留めておこう」
あ、聞いてるふりしてやがるな。絶対守る気ないぞ。
こりゃ帰りに紫ババァに注意をしておこう。
「それとできればだがアプサラスIVを売ってくれないだろうか」
「俺達2人か死神の鎌以外はろくに使えない兵器だから売れないな。機密とか以前に兵器として3流なんだよ、あれ」
正直売ること自体は問題ない、元々ジオンから得た技術がほとんどだからな、精々サイコミュのコンパクト、高性能化がぐらいだろう。
ジオンで作ることも資材さえ用意できれば製造は可能だが……使えない兵器は売る気にならん。
「しかし戦果は恐ろしいほど上げているようだが」
「それはパイロットの違いだ、上海では死神の鎌が操縦しているからな」
アプサラスが有用に見えて困る。
「とりあえず売る気はない」
「残念だ」
眉なしとの謁見も終わり、再びサイド5に到着。
帰りもアナハイムの刺客と思しき宇宙海賊が絡んできたが丁寧に排除、これこそメシウマ。
フィッシュボーンの格納庫に入らなくて、はみ出した分は俺の胃袋の中へ。
せっかくの休日でゆっくりできないが襲撃があるならあるで俺達は一向にかまわない。むしろどんと来い。
「さて、ジオン公国と本格的に貿易を行うにあたって今の警備部の規模では追いつかなくなる可能性が高いので拡張するしかないでしょう」
「ああ、最近アナハイムも遠慮がなくなってきたからな。これほど直接的に攻撃を仕掛けてくるというなら警備部の増強も吝かではない」
「じゃあ養殖ニュータイプの増員させますね」
今の警備部の主力は養殖ニュータイプで、連邦やジオンなどの精鋭と五分の戦いができる。
一部ではファンネルを飛ばすほどのニュータイプになっているようだが、残念ながらサイコミュ搭載モビルスーツの開発はまだ成功してないため、従来のモビルスーツで戦っている。
こうなるとサイコガンダム級の大きさでもいいから新しいモビルスーツを開発させるべきか?
しかしIフィールド無しだからそれほど強いとも思えない。
「養殖ニュータイプは合計100人まで増員するようにマリオンズに指示、操縦技術の訓練も並列して行うように」
「了解」
こうして恐怖のマリオンズブートキャンプ開催が決定。
最近はシローやシーマ様、黒い三連星などモビルスーツに乗る幹部もニュータイプ化して死ににくいようにしようか悩んでるんだが……どうしたものか。
『こちらNo.15、特に急ぎではないですが南中国から新たな依頼が来てます』
念話はいつも突然に。
『今回は戦線に参加依頼ではなく、人道的見地による脱出兵の保護をお願いしたいそうです』
なるほど、いい手だ。
戦線に参加するのを渋っていた俺達だったが、人道的見地なんて言われたら断ることができないな。
「わかった。マリオンズ2名、黒い三連星、ゼロをヴィエーチルで向かわせろ。対戦国には俺達が非戦闘員であることを厳重に伝えろ。もし攻撃されたらアプサラスIVを投入しろ」
『了解しました』
中国の内乱はあくまで派閥争い、眉なしにも言ったがあまり派閥争いには乗り気じゃない。
それは日本も同じだろうな。だから積極的に参加は避けてるんだろうね。
だが、今回の依頼で人助けという大義を用意されたので人助けはやることにする。
中国人なんて助けたくないんだが……死神の陽炎はあまりイメージが良くないので慈善事業も偶にはいいよね。
本当はブルーパプワの支部が南中国に開設段階で介入する大義はあるんだけど……そこまで中国を救いたいとはそれほど思わなかったんだよ。
「これで俺達を攻撃するようなバカがいるようだと、第2次オペレーション・メテオだな」
「でもオペレーション・メテオは相手の本拠地がわかってないと効果が薄いですよ?」
「重要拠点を落として周ればそれなりの戦果は上げれるだろ」
でも護衛機は欲しいよな。
ギニアスが言った通りアプサラスと同行できる空母は必要かもな。
ジオングの設計図でサイコミュの小型化へのブレイクスルーになれば以前新年会で言ってたアプサラスVの構想実現も可能になる……かもしれない。
「どうせなら戦場までは以前私達をアプサラスで運ぶ時に付けたコンテナで運んで、ギニアスさんが考えた構想でSFSを載せればいいんじゃないですか?」
「なるほど、モビルスーツじゃなくてSFSを載せることによって収納せずにそのまま撤退するわけか」
それなら味方のモビルスーツを見捨てることにもならないか、整備はできないが補給はSFSで運べばある程度解決する。
「うーん、でも整備ができないのは痛いな。発想はいいと思うんだが」
「そもそもアプサラスVの整備はハロに任せるんですからSFSに整備用ハロを載せておけばいいんじゃないですか?」
「……確かに」
え、ジオングの設計図ってアプサラスVフラグだったのか?でもどれだけスペースが確保できるかが問題か。
「とりあえず、これでギニアスのやる気が更にアップだな」
「ですね。ムラサメ研究所の尻も叩かないといけませんね」
そういや最近日本政府がニュータイプ研究に着手し始めたってムラサメ研究所にいるマリオンズから聞いた。
アプサラスの活躍があまりにも衝撃的だったらしいな。
ムラサメ研究所からニュータイプの資料と判別する装置を買い取って兵士達に試しているとのことだが……素質があるのは正規兵じゃなくて、ニート部隊ですって……教えてあげるべきだろうか?どういうリアクションするかぜひ見てみたい。
日本製ニュータイプ専用モビルスーツとか胸熱なんだけど、少し協力するかな。
ヤマトのいくつか製造方法がわからない部品の製造技術とエルメスの設計図の交換あたりで……アプサラスIVは日本からの依頼で作ったのに設計図は渡してないんだよ。使えない兵器の設計図をもらっても仕方ないって言ってさ。
日本がサイコミュの研究してくれたら小型化が一気に進みそう……と思うのは元日本人だからだろうか?