第百五話
秘密基地でのんびり過ごして座標をマリオンズに伝えて、定期的に様子を見てもらうようにして移動を開始。
今回の目標は……グラナダだ。
もちろん紫ババァと話すためであるが、俺達の本体で乗り込むといらない騒動が起きそうなのでフィッシュボーン1隻を借りて向かう。
ちなみにサプライズのつもりで相手方には伝えていない。
紫ババァに直接会えなくても壺さんぐらいなら会えるだろうと踏んでいるが……壺さんも偉くなったんだっけ?
「そこんとこどうなの?」
「…………」
サプライズが成功したようで紫ババァは目を見開いて驚いて……?なんかビビってね?
俺達、別に怯えさせるようなことをやった覚えは……いっぱいあったわ。
それにしてもマリオンちゃんの共有は交渉事なんかには強いな、相手が思ってることが大雑把にだが感じ取れるんだから。
「それで今回は私に何のようだ」
「実はそちらから寄越してもらったダイクン派以外の者と会う機会があってな。受け入れと支援して欲しいと申し込まれた」
やはり気になるようで紫ババァはピクッと反応した。
「受け入れは了承したが支援は保留にしている」
「どうするつもりだ」
「支援しようと思っているが勘違いするなよ?あくまでコントロールするために、だ」
「……なるほど、それで私に容認して欲しいと」
「別に容認しなくてもいいが、その場合ダイクン派がどう行動するのか知らんけど」
半分脅しだけど、残り半分は事実なんだよねー。正直に言えば所詮対岸の火事だし、地球領は守るけどさ。
どうも、眉なしも紫ババァも扱いづらい兵士などを地球領に押し付けてる感じすらあるからな。
敵対行動に取れなくもないぞ?
「……兵器などの武器を支援しないのなら認めよう」
「元々兵器を支援するつもりはないから問題ない。夢に敗れた人達にも居場所となれる、それがニューギニア特別地区だ。覚えておくといい」
「利用する機会がないことを祈るが、覚えておこう」
そういえば……
「ここのアナハイム侵食率はどの程度なんだ?まさか5割は言ってないよな」
「侵食率とは言い得て妙だな。……まさか民間企業にそれほど踏み込ませるわけないだろう」
ダウト、本当にマリオンちゃんチートすぎる。
それにしてもアナハイムは5割以上の影響力を持ってるのか、さすが宇宙世紀のラスボス。
「8割」
「何を言っている」
うん、このあたりらしい。
……もうほとんどアナハイムじゃねぇか!!
「それほど厳しい状態なのか」
「何を言っているかわからんが……正直愉快な気分ではないな」
これでもし、紫ババァが眉なしに活用なことがあった場合、俺達の優位点である国家も手に入れることになる。
元々月はアナハイムの根城——以前にも言ったが公式設定では支社となっているがこの宇宙世紀では既に本社を上回っているので支社なんて言えるものじゃない——なのだから不思議ではなかったけど、力の差を改めて感じる。
「それに皮肉なことに宇宙海賊同士が争っているおかげで治安も回復し、私達の負担も減っているというのだから困ったものだ」
話の流れ的に不自然だ、つまりこれは俺達とアナハイムが暗闘していることを察していると言いたいわけか、それで助かっているとも。
「確かに皮肉だな。これからも賊は賊同士潰し合うのが理想か」
「うむ、当面はそうだ。最終的には貴様に駆除を依頼することになるかもしれんが」
「問題ない。駆除は得意だからな」
最近は繁殖も得意になってきたけどな……細菌だけに。
機体温度は正常のはずなのに寒いだと?!
「この後、眉な——ギレンにも挨拶に行った方がいいかな」
「そうしてもらわなければ困る。私ばかり贔屓されていては叛意ありと見做されても仕方ない」
だよなー……ぶっちゃけ眉なしのところは会うまで時間がかかりそうだから面倒なんだけどなぁ。
「私の方でアポを取っておこう」
「そうやって地味にポイントを稼ぐんですね。わかります」
「政治とはそういうものも大事なのだ」
まあね、俺達も割りと気を使ってる……よな?イマイチ記憶に無いが。
「会見するのはいいとして、公式のものにするか?それとも非公式か」
「んー……どっちでもいいんだが、堅苦しいのはちょっと嫌なんで非公式で」
「わかった。そう伝えよう」
こんなコスプレイヤーが会社の社長とか、普通だったら信用性0だよな。
俺達のことを知っているのは俺達の強さを知っている奴等だけでいい。
それにしても次はサイド3かー……まぁ観光と思って気楽に行くか。
「そういや、今回俺達がここに来てることをアナハイムは掴んでる様子は?」
「特になにか言ってきてはいないが……アナハイムの耳はいいからもう伝わっているだろう」
それだけ内部にアナハイムが浸透しているのか、俺達が接触した人間の数なんてたかが知れてるのに……これは本格的に妨害しないと飾り紫ババァの実質アナハイムになりかねん。
さて、俺達がいるということを知ってアナハイムはどういう反応が返ってくるかな。
ちょっと楽しみだったんだが————
「まさかこんな安直な方法で来るとはね」
「ですね。おそらく私達のデータが欲しいんでしょう、私達はオーパーツ以上の存在ですし」
だからって、武力行使はないだろ。
宇宙海賊という形ではあるが、明らかにアナハイムが放った刺客だろ。
リックドムに偽装したドムIIを宇宙仕様にしたリックドムII、ゲルググM、ジムカスタムやジムキャノンなど総数30機。
脅しや要求なしに攻撃してくるあたり宇宙海賊が本業じゃないのかもしれないな。
フィッシュボーンが破壊されてはサイド3に辿り着いた時の言い訳が面倒(モビルスーツで長時間移動なんて普通は無理)だから速攻で決めさせてもらう!
「本邦初公開!ファンネル実践しよう!」
「いっけぇ、ファンネル達!!」
「ちょ、俺の台詞、じゃないかマリオンちゃんと共有してるから扱えるだし……でも割り込みはいけないと思いまーす!」
「今度から気をつけまーす」
そんな締まらない会話の中、ファンネルは出撃して猛進する。
4つのバインダーからそれぞれ4つ射出、つまり16機のファンネルが宇宙海賊に向かう。
さすがに注目されてる中のファンネルの射出だったために敵も反応して迎撃の態勢を構えをとるが俺達がコントロールするファンネルがそれほど甘いわけもなく、そして俺達自身も動かないなんてことはなく、次々落として瞬く間に食材へと変貌する。
「結局様子見の際に撃たれた1発以外はまともな射撃になるようなことはありませんでしたね」
ファンネルは思った以上に使える。
原作では主役級に対してあまり活躍しないため有用と分かってはいてもどこか少し不安があったが今回のことで少しの不安が晴れた。
やはりニュータイプに対してでない限りはかなりの殲滅力だ。そしてマリオンちゃんの共有で神がかったコントロールで全機コクピット焼きになっているのも拍車を掛ける。
ただ、真に怖いのはアプサラスIVが宇宙に出てきた時、と言うのも証明してしまったわけだが、それは気にしないでおく。
「マリオンちゃんさまさまだな。まだニュータイプとして未熟な俺でもこれほどやれるとは」
「いえいえ、それほどではありませんよ」
お互いを讃えながら食材と化したモビルスーツをフィッシュボーンに詰め込んでいく。
10機ほどオーバーしたので異次元胃袋の中に収納した。
いやーやっぱり鮮度がいい食材は一味違うね、燃料変換率も1.5倍増えてるし。
「俺達はやはり戦場にいないといけない生き物なのかもな」
「まぁ人間もアレだけ食べ物があるのにレーションやインスタント食品に頼ることがあるんですから世の中我慢も必要ですよ」
……いつの間にかマリオンちゃんが大人になってる……とうとう非処——
「痛!コクピット内で——ちょ、マジ痛い!」
「ブルーニーさんがふざけたこと考えるからいけないんです」
「ごめんなさい」
今のは俺が悪かった。
マリオンちゃんのごきげんを取りながらなんとかサイド3に到着。
到着して降りたら既に迎えが来てた。さすがにこれぐらいのことはするか。
「ん?おお、えーっとセシリア・オルコットだっけ」
「セシリア・アイリーンです」
もちろん冗談、モビルスーツ乗りじゃなくてIS乗りとか……ガンダムキャラ全員TS化とかちょっと見てみたい気も……そうなると、誰が主人公かな?
「お久しぶりです。ギレン様の懐刀と言われるセシリアさんが案内役とは贅沢ですね」
「懐刀なんて過大評価、ありがとうございます」
過大評価ねぇ、ニューギニア特別地区で言うシーマ様のように調整役をしているって話だし、何気に眉なしが尻に敷かれてるとも聞くが……本当なんだろうか。
ただ、ここでマリオンちゃん式読心術を使うのは躊躇われる……若い女の子にそんなことするのは紳士として失格だ。
……え?紫ババァには遠慮してないだろって?……答えは自分で言ってるだろ、ババァって。
サイド3、ズム・シティ。
なんというか、中世期の匂いがするというのが第1印象、そして割りと人口は少なそうだとも思う。
ひょっとしてズム・シティは富裕層専用コロニーにしてあるのか?なんという無駄……ああ、そういやコロニー内には重力制御の関係上、背が高い建築物は禁止されているから……いや、なら1軒の敷地面積を減らせよ。
やっぱり富裕層専用コロニーなんだろうな。
サハリン家は当初、余裕でここに居たらしいがギニアスが跡を継いだ時ぐらいからギリギリしがみついていたと聞いたがこれを見ると納得できるな。
1度ここで暮らせば普通のコロニーはゴミゴミしていて暮らせないかもしれない。人間ってのは贅沢になれるとなかなかレベルを下げれないからな。
そして通りを走ることしばらく、今まであったものより一際豪華な邸宅が目に入った。
アレがザビ家の本邸か……ニューギニア特別地区に建てたデギン邸に似てるな、いや似せたんだろうけど。