第百四十七話
サイコヴィエーチル、前線投入。
はにゃーん様達を西の戦線に移動させ、サイコヴィエーチルの初陣。
精鋭に配備させたのだが……うん、これは酷い。
どれぐらい酷いかというと守る側のロシアが連邦の基地を取っちゃうぐらい酷い。
西の戦線はベラルーシとウクライナがロシアと繋がりがあるためにカザフスタン同様実質中立となっていて連邦が主な拠点として利用しているのはバルド三国とフィンランドだ。
今回落としたのはバルド三国の1番上の国エストニアの前線基地で、連邦駐留のために基地建築しまくって好景気になってるバルド三国を恐慌に叩き落とすことになった。
「攻勢に出てたわけじゃないんだよな?奇襲でもなく?」
「はい、ただ全てを撃破して進んだらこうなった、と言ってますね。ハマーンさんは」
「……じゃあクリスとリリーナからは?」
「一応ハマーンさんの証言とは間違いありません。ただし言ってないこともあったようですけど」
「ですよねー」
「クリスさんは『サイコタイプの高性能っぷりに調子に乗っていた反省している』とわかりやすく反省してましたね。リリーナは『ハマーン様、ご乱心』と詳細は不明ですが——」
「中二病の発作が重度に来したわけだな」
「通信記録を取り寄せて聞きましたけど……酷いですよ。間違いなく黒歴史です。ブルーニーさんも聞きます?」
「……いや、止めとく」
はにゃーん様が黒歴史を消し去るためにアクシズ落としとか月光蝶(黒歴史とだからね)とかされたら嫌だからな。
ただし、脅し用にバックアップはとっておくべきだろう。常考。
「実際はともかく、旧北朝鮮領に続いて前線基地を奪い取れたことでロシアの士気はうなぎ登り、龍にでもなりそうな勢いですよ」
「士気の上がり過ぎは死亡フラグだと思うけどな」
そもそも勝っているのは死神の衣だからな?調子に乗ったらヤバイってわかってるよな?
「ロシアが大攻勢作戦を立案中だとか」
ちょ、どっかの自由惑星同盟より馬鹿なの?死ぬの?
あっちは百年以上戦争して念願の宇宙要塞落としたんだから攻勢を仕掛けたいってのはわかるが、こっちはまだまだ戦争序盤だっての。もう少し慎重にしろよ。
「マハラジャ、なんとしても止めろ。これを切っ掛けに負けるようなことがあったら俺達のせいにされる可能性がある。もし聞き入れない場合は死神の衣はロシアから撤退すると言っておけ」
「わかりました」
そして今回の連邦の敗北でティターンズに本格的に参戦するよう声がかかり、近いうちに本腰入れて動き出すとイーさんから聞いた。
連邦にでかい貸しを作ることができたと喜んでいた。
この情報はロシアにも入っているはずなんだが……所詮中国の一部地域を制圧しただけの組織だから舐めてるのか?
「ティターンズ戦で死神の衣を当てにされるとバランスが難しくなりそうだよな」
実際イーさんから連邦に貸しは作れたが俺達と戦うかもしれないのは憂鬱だと言ってたし。
「ですね。あまりティターンズを弱らせると私達敵にもあまり美味しくありませんね」
最近はティターンズと俺達VSエゥーゴとアナハイムという感じになってきているため、あまりティターンズに弱体化されると困るんだよな。
朝鮮半島攻略作戦でエゥーゴにはそれなりの被害は出せたからある程度は許容できるかもしれないがアンチ死神派を増やすことになると考えると……難しい。
ところで……
「この雑誌に載ってる連邦のエース達って」
「独立戦争時に私達が取り逃がしたスナイパー部隊ですね。まだ現役で頑張っているようですよ」
やっぱりあいつらか、と言うか原作にも出てないモブなのに頑張ってるな。大手雑誌の表紙を飾るほどになるとは。
ロシアも随分手を焼いているようで、やはり長射程は強いなーとは思うがこれは連邦だから成り立つ可能性が高い。
スナイパーライフルはその性質上連射ができない、つまり狙うんのは自然と大物になる。
モビルスーツ、戦艦、輸送船などだがこれらを狙うには制空権と安全地帯の確保が大事で、それらが確保できないと爆撃や数で押されて潰されてしまう。
島津の戦術捨て奸でもあるまいし、殺される前提の策は現代では士気や世論の関係で使いづらいからな。
もしそういう戦術ができるならかなりの脅威だろう。
「1人で撃破数500機到達とかオールドタイプとは思えないな。むしろニュータイプじゃないからニュータイプで察知しづらいからより優秀かも」
「スカウトしたいんですけど、連絡もろくに取れないんですよね……まぁできても断られそうですけど」
こいつらなら死神の衣の支援も任せられると思うんだが……そう、上手くいかないか。
ただ気になることがある。
それは彼らがスナイパー部隊という役割で、矢面に立たないことから普通に白兵戦をしている兵士達からは卑怯者呼ばわりされていることだ。
訓練を受けた兵士であってもやはり人間に変わりない。金や酒、タバコに恋愛など争いのもとは多いが生死が関わるなら余計に厄介で、これに付け込んで引き抜けないかと思っているんだが。
「継続して調べてくれ、というかもしかして連邦はこちらの意図を気づいて隠蔽してる可能性もあるか」
「あり得ますね……そういえば私達って現役の彼らを引き抜かなくても引退してから引き抜いたらいいのでは?」
「……言われてみればそうだな」
ヒールをバラすことが前提になるが、若返らせることができるんだから慌てなくてもいいのか。
しかし幹部でもない人間にヒールをバラすのは度胸がいる。
「まぁ最終手段としてはいい。でも戦場で死ぬ可能性もあるからなるべく早くしたいのが本音だけど」
「ですね」
8月下旬、ティターンズ進撃開始。
しかも大胆にもベラルーシを通っての進撃だ。
警戒していたルートと違ったためロシアは防衛ラインの構築が送れて随分侵入を許す形となっている。
しかし本当の目的はモスクワでもなければ防衛の突破でもない。
本当の狙いは戦線を乱し、囮になることにある。
防衛ラインを形成するためには西の戦線から戦力を引く抜くしかない、上手く分断されたもんだ。
しかも日本が本格参戦を決定、エゥーゴと共に旧北朝鮮領奪還せんと激しい攻撃を仕掛けてきている。
日本はどうも箍が緩くなっちゃってるな。こうも簡単に戦争参戦とか何考えてんだ……しかも急先鋒が——
「貴腐人の党がなんで煽ってんのかね」
「おそらくフラウさんが戦争に参加してご自身の利権確保するつもりでしょう」
あー、なるほど、今までに足りなかった資金やパイプを作ろうってのか。
このまま日本にエゥーゴの影響力が色濃く残るのはいただけないんだがどうにかならんかね。
「とりあえず世論を動かして貴腐人の党が利権のために人殺しを推奨していると流してみるか」
「デタラメでもありませんから多少は効果があると思います」
日本の先陣を切っているのがフラウ本人だというのがなんとも嫌な予感がする。
まぁエゥーゴはいい加減人材が乏しいのにアポリーロベルトという準エースを失ってるから戦力ダウンしてる……と思ってたんだけど。
「まさか本当にアルビオン、シナプスと不死身の第四小隊はエゥーゴについたか」
コウとキースの2人はまだ未発見、あちらは新人だしガンダム開発計画は既に別物になっているからあてにならない。
アポリーロベルトの代わりにスターダスト組かー……明らかにスターダスト組の方が厄介そうだ。
ただし、報告にあったがどうもシャアとの相性はそこまでいいわけではないらしく、連携が上手くいってないようだ。
そこを突けばなんとかなるか?旧北朝鮮領のロシアはなんとか領土を守っているものの被害が結構シャレにならないレベルになっているようだ。
幸い自陣な上、反日感情が作用して住民はロシアに協力的でパイロットの喪失は思ったより少ないのが救いだな。
それに俺達からの兵器譲渡も簡単に行われているので持久戦には向いてる。
もっともそんなに甘い相手なわけもなく、日本とエゥーゴで黄海に機雷を設置して海上封鎖を実施しようと動き、それを阻止せんとロシアが地球領から買い取ったズゴックII部隊が激突して両軍に多数の死者が出ている。
一応ロシアが辛勝してシーレーンは封鎖されずに済んだが戦力は激減、さすがに海中では自陣など関係なく戦死者が多数出てしまう。
それはエゥーゴと日本もそれは変わらず、パイロットの死亡率はかなり高いため人材不足に悩まされつつある。
「そういや俺達には必要ないから忘れてたが脱出機構がまだないのか」
「脱出機構ですか、それは初代ガンダムのようなコアファイターですか?」
「いや、強いていうなら究極に丈夫にしたボールを埋め込むような感じだ」
「なるほど、それなら水中でも関係なく使えますね。パイロットの生命は戦争の勝利を左右しますから」
ガンダムは伊達じゃない!とか言って惑星に押し付けてオーロラみたいなものを出しながら押し返そうとするイメージが離れないから不吉で仕方ないけどな。多分俺だけなんだけどさ。
「もしかすると救難者救出という仕事も受注できるかもしれないしな」
「捕虜でお金を毟り取ると評判が悪いですけど、救出で稼ぐのは受け入れやすそうですね。まぁ戦場の中パイロットを回収するにはなかなかリスキーですから死神の衣とマリオンズぐらいしか向いてませんけど」
敵軍に捕虜になるぐらいなら俺達に捕まった方がいいというのは現役軍人100人に聞いたら90人ぐらいはそう答えるから可能性はあると思う。
「クーンの販売が伸びないのも問題だ。ロシアは地球領からズゴックII、エゥーゴと日本はアクアジムIIってな」
「私達のクーンはスペックはズゴックIIやアクアジムIIを上回るんですけど、地上で使えない分売れないんですかねー」
水中型の次世代機も開発させるべきかな。