第百四十八話
とうとう連邦から奪った前線基地を取り返された。
死神の衣も抵抗したが元々連邦が先に陣を整えていたので地の利を知り、効率のいい兵站破壊により補給が途切れ途切れになってしまったので全滅する前に後退することになった。
やはり死神の衣にしてもマリオンズにしても俺達と違い補給が必要な点がどうしようもない弱点。
兵站の維持は規模の問題もあって死神の陽炎ではなく、ロシアに任せていたんだがそれ以上の数を持って押し潰されてしまった。
ティターンズが動いたことによって輸送部隊の護衛が減ってしまったのが主な原因だ。
これを狙ってやったんだろうから敵ながらあっぱれ。
まぁ死神の衣の敗北ではないからこれだけのんびりしてるんだけどね。
撤退戦の際に敵のαタイプを300機ほど沈めてくれてるから面目は保たれてるはず。
「さすがに兵糧攻めはキツイですね。やはり私達独自の輸送部隊を設立すべきでしょうか」
100人、100機を前線で戦い続けるための物資を輸送する労力は間違いなく赤字。
「名声獲得がメインとなってきてるから赤字は目を瞑るとして問題は方法か」
「ジャジャ丸を実戦投入してはどうでしょうか、シミュレーション結果では単独輸送も可能と出てますが」
マハラジャの言いたいことはわかるがジャジャ丸無双はマリオンズいてこそのデータだということを忘れてるだろ。
「そうでした。普通のニュータイプでは護衛が必要なんでしたな」
わかってもらえて何よりだ。
マリオンズが参戦できないのだから単独輸送ができないんだよ。
早くギニアスに一般向けアプサラスであるVIを完成してもらいたい……のだが最近はアプサラスVにご執心らしくて困る。
「支援砲撃機は完成が見えてきたんだけどなぁ」
それほど新しい技術は多くない機体だから完成はそう難しいことではない。ならなぜまだ完成してないのか、それは最近開発チームに蔓延している思考の偏りにある。
マリオンズや死神の衣があまりにも優秀なので万能機が長らく求められた。俺達自身が機体としては万能機であることも拍車を掛けたようだ。
開発チームはニュータイプ専用機を開発するのに少なからずニュータイプに関してのデータを見ているため支援砲撃機の必要性があるのか疑問でイマイチやる気がないのが開発の遅れになっている。
そんな状態でもこのぐらい7ヶ月ぐらいでできるんだから大した技術が使われていないことがわかるだろう。
「VIが完成して実績を積んだりしたら連邦やジオンから発注依頼が来ませんか」
……ありえるな。と言うよりアプサラスVIに対抗するためにアプサラスVIとかイタチごっことかいうレベルじゃない。
国内と死神の陽炎のみに配備するようにしないと常日頃からアプサラスが飛び回る世界になりかねないな。
そんなものを喜ぶのはギニアスぐらいだ。
「とりあえず死神の衣は後退に成功、被害もろくにないってのはいいことだ」
「その代わりティターンズに派遣しているニュータイプがサイコタイプを操りロシアに深刻な損害を与え続けているという情報が入ってきてますが」
ティターンズは死神の衣とは違い、養殖ニュータイプ1人とオールドタイプ3人で小隊を組んで、養殖ニュータイプが相手を崩して他の3人が各個撃破していくという戦術のようだ。
まだ出荷してそんなに経っていないのによく使いこなしているところを見るとやはりニュータイプを戦力にすることを早い段階から決めていたのかもしれない。
「サイコタイプの活躍が目覚ましいようでニューギニア特別地区、そしてブルーパプワの名が上がりますね」
「その反面死の商人というレッテルが貼られるのですが」
「それは今更ですよ」
その通り、元々傭兵なんだから気にしない。
「ですが最近アナハイムの手の者がマスコミを使ってブルーパプワに対してネガティブキャンペーンを展開しています」
ち、俺達が1番対処し難いやり方をしてきたか。
今まで工作員や諜報員などを送り込んできていたがマリオンズによって随時排除してきたのが裏目に出たか。
「ニューギニア特別地区では統制できても世界的には無理か……いや、ニューギニア特別地区内でも統制しない方がいいか、どうせ隠し切れないんだから統制すると逆に真実味が増すか」
「そうなるでしょう。真実の刃ほど強い武器はありません」
「ならこちらもアナハイムに対してネガティブキャンペーンを実施しましょう!」
それが無理なんだよなぁ……いや、正確に言うと無理じゃなくて効果が薄いだな。
ブルーパプワはマスコミ業界にもいくらか進出しているがそれはあまり規模は大きくない……まぁ今の時代ではありえない『模造しない』を銘打ってる出版社を作ってるからそこにアナハイムのことを徹底的に書かすとしよう。
もちろん模造なしで。
まだまだ知名度が低い出版社だからどの程度効果があるやら。
「んー……テキトーにドムIIとかハイザックとかを空から落としてみるか」
「は?」
「いや、奇怪な事件事故ってのは結構ネットやマスコミに取り上げられるだろ?となると突然降ってきたモビルスーツとか話題になる。そしてそのモビルスーツの詳細が調べられる……すると」
「全てがアナハイム製のモビルスーツなわけですから何かあると注目する、と」
その通り、結構金が掛かるがだからこそ効果がある。
なにせ本来は会社というのは金を集めたがるものだから、まさかこんなことするとは誰も思わない。
「ブルーニー様ー」
とうっ、という掛け声と共に飛び込んできたのはセラーナだ。
もちろん接近には気づいていたがいつものことだからスルー、最近はマリオンちゃんも根負けして偶に小言をいう程度になっている……まさか愛が覚めたとかじゃないよな?!
そして慌てるのはもちろんマハラジャである。
「セラーナ!今は仕事中です!後にしなさい」
「まあ、もう報告も大体終わったしいいだろ……まだなにかあったりするか?」
「最後に1つだけ……セラーナはやらんからな!」
マリオンちゃん、代わりに一言。
「ごめんなさい。こう言う時どんな顔すればいいのか分からないの」
おお、生ボイスいただきましたー!
ついでに爆笑してればいいと思うよ。
9月中旬、予想していたようにロシアから追加注文があった。
αタイプ5000、ドップブースター30000、消耗具合から考えると少ないが、生産フル稼働が解除できないのは痛い。
かなり無理したスケジュールに従業員が疲労が溜まり、不満の声が大きくなってきた。
軍機に関わる仕事は急に作業員を雇い入れるわけにはいかない。
他の優先順位が低い仕事をバイトに任せてみたりして効率化を図っているが、どの程度効果があるやら。
「ザンジバルの納入がやっと終わったと思ったのに次から次へと……」
「前もってオーストラリアへの投資を増額してあらたに工場を作ったのでもう少し改善されるかと」
この戦争が終わったら一気に仕事がなくなって不況真っ逆さまになりそうで怖い。
宇宙航行資格の話し合いが片付いたので輸送艦やプライベート艦の需要が見込めるから多少はマシになると思うけど。
「……?ブルーニーさん、ハマーンさん達が移動しているようですよ」
「そんな作戦聞いてないが」
「この方角は……平壌?いえ、護衛機の数を見るに北京でしょうか」
まさか北京に奇襲を掛けるつもりか、確かに今なら北中国攻略に躍起になっているから可能かもしれない。
でもさ、北京を落としたとしても抑えるためにかかる労力を無視してないか?。
北京は中国の首都だから人数も発言力も今まで抑えた都市などより断然強い。
下手したら毎日デモとかうんざりするようなことになる可能性が高いし、最悪クーデターがあると思うんだが。
「東中国に圧力をかけて連邦に動揺を走らせるのが目的なんだろうけど、成功するわけがない……と言えないのがなんとも言えないが、少なくても長時間占領するのは難しいだろう」
それにしてもなんでこのタイミングで?連邦はなんとか抑えているし、ティターンズも国内を好きなようにさせてしまったいるがモスクワには辿り着いていない……もしかしてザンジバルが10隻無事に就役したからか?
輸送にザンジバルを使おうって腹か、ジェット・コア・ブースターなんかに狙われて落ちそうで怖いんだが……こちらに相談なしで進攻したのはよろしくないな。
もしこれが大量発注の見返りの無茶だというなら大統領に本気のげんこつ100発は見舞ってやるかな……終戦まで現政権が持つならだけどね。
それより全うな作戦組めよ、まったく……それとはにゃーん様も了承しちゃダメだろ。
「ハマーンさん達以外にもロシアの部隊がいるようなので本格的に攻めるようなのが救いですね」
使い捨てのコマにされなかっただけマシ……なのかな。
「ザクII改キャノンが前線に出るらしいですが大量の屍にならなければいいですけど」
「マジか、さすがにザクII改キャノンは時代遅れだろ」
まぁ攻撃さえ通ればいい……わけねーだろ。Eパックの消費も速くなって死神の衣がピンチになった……なんてことにはならないことを祈る。