第十七話
ちょっと物騒な海水浴から帰ってきたらシロー達に身体を洗ってもらった。
何やらブーブー言ってたが働かざるもの食うべからずの精神で説いたら納得してくれた。決してうっかりミサイルを目の前に落としてしまったせいではない。
世の中誠心誠意で語り合えば道理は引っ込むものなのだ。
ちなみに身体を洗ってもらうのは思った以上に気持ちよかったがなかなか手間が掛かるのがネックだな。
マリオンちゃんに洗ってもらうにしても男2人で相当時間掛かったからキツイだろうし。
「そういえばベトナム料理と言えばフォー…なんだかカミーユが反応しそうな料理だよな」
『カミーユ?女性の名前ですよね…ブ、ブルーニーさんが浮気?!』
「浮気ということは本命がいるってことになるんだけどその辺どう思うマリオンちゃん。ちなみに前半の発言は本人に言ったら色々と大変なことになるから注意ね」
『私じゃないんですか?』
いや、まぁ、その——
『あ、基地が見えてきましたよ』
ええー…ここで投げっぱなしっすか?
『じゃあ着陸するのでシローさん達にも伝えてください』
…実はマリオンちゃんも自分で言って照れてるな。
さて、本格的原作破壊…はホワイトディンゴの皆さんを殺しちゃった時点で壊れてるか。
基地に着いて一言。
「めっちゃ警戒されとる」
『多分私達の戦果を知ってるんだと思います。あっちの司令は四面楚歌に背水の陣が掛け合わさったような状況でしたら余裕がなかったので目を瞑ってたんでしょうね。どうもこの基地は戦時特有の緊迫感がないのも理由かと』
ああ、なるほど、ここって基地ではあるけどその実研究所みたいなもんだもんな。最高責任者がギニアスだし。
そういえばギニアスって唯一デギン・ソド・ザビ派っぽいキャラだから実は優遇されてるっぽいね。
ちなみにどういう根拠でデギン派と推理したかというとアプサラス計画がデギンの裁可で行われている。ほとんど息子達が中心が主導しているにも関わらず唯一デギンの名前で進められている計画なのだから繋がりがあると見るのは自然だろ。
マリオンちゃん交渉中…交渉中…
『騙されました。ここにサハリン兄妹は居ないそうです』
「なんとぉ?!」
『どうやら極秘の任務に就いているらしく何処にいるかは話すことができないみたいです』
よく考えればアプサラス計画を担う基地が公になってるわけないよな。
つまりこの基地は中継地点というわけか、偽情報を流すとはあの司令もなかなか悪どい…いや、もしかしたら司令が偽情報を掴まされたのかもしれないか。
まさか俺達を捕まえようって腹じゃないよな?
もしそんなことしようものならここを更地にするぞ。
『どうしましょう。ジオンにシロー達を預けてはどうなるか分かりませんし…』
「まさかサハリン家の妹御に捕虜を会わせたい、なんて言えんし…これは困った」
こっそり会いに行こうにも場所が何処か分からない以上不可能、ジム改のジェネレーターが輸送されるのを尾行するのもいいけど確実性に欠ける。
どうにかできないものか…
「こういう時によく言われる言葉、逆転の発想……俺達があっちに会いに行くの反対、つまりあっちから俺達に会いに来てもらう、か」
『なるほど、それなら極秘である基地の所在が分かるわけでなし、アイナさん本人が来れなくても近い人が来られる可能性が高いですね…いえ、そう仕向けるんですね』
なんだかマリオンちゃんが気合い入ってるなーアイナとそれほど仲が良かったんだろうか。正直顔見知り程度の知り合いにこれほど労力使うの面倒なんだけども…マリオンちゃんの為だから仕方ない。
マリオンちゃんが必死に交渉してる姿萌え〜…ただし若干怪しいオーラを感じる。
声は聞こえないけど、なんだか交渉している兵士が押されてるのが分かるし周りの威圧するように半包囲している兵士達も逃げ腰気味になってる。それでいいのかジオン兵。
『ブルーニーさんブルーニーさん、勝訴です!話を通してくれるって言ってます』
「ネゴシエイターマリオン、ここに爆誕だな」
『それほどでもないですよー、これでドロドロ昼ドラ展開…ゴホン、アイナさんが幸せになれたらいいですね』
おい、なんかとんでもない本音が漏れたぞ。それにアイナさんがってシローはどうでもいいのかよ。
もしかしてまた日本のドラマの影響か?日本のドラマってそんなに悪影響を及ぼすものが多いのか?
何にしても目的達成まであと少し、どうなるかは分からんけども。
『早速連絡してもらえたようで来てくれるそうですよ』
「お、マジですか。こりゃお別れも近いな」
『そういえば少し調べてみたんですがどうやらジオンは情報伝達が遅いらしく連邦のモビルスーツの情報が行き渡ってないらしいです』
あー、多分ザビ家の紫ババァのせいじゃね?あの人、先見性はあるのに基本バカだから眉なし(ギレン)とか傷の男(スカーではないドズルである)の足を引っ張って利権貪る事に専念しすぎ。
もしや紫ババァ、連邦のスパイなんじゃ…と思えてくるぐらいだ。
いや、ここでも逆転の発想をしてみる。紫ババァは実はそれほど政治に興味がないけど周りが勝手に暴走している?ん…ないこともないかな?って程度か、実は紫ババァの周りは連邦のスパイだらけとか…ああ、こっちはあるかも。足元がお留守だぜ、的な。
2日ほどして待ちに待った人物が現れる、ジム改のジェネレーターを持ち逃げされたら困るんで引き渡さなかったかいがあったようだ。
もっとも俺達この2日はミデアに引き篭もってたけど暇ではなかった。
マリオンちゃんが基地のメインコンピュータにハッキングして色々調べてくれてたからそれらの情報をまとめるのに忙しかったのよ。
それとやはりというか原作とは多々違う点が発見された。
例えば、ザクの発展。
平たく言うと軽量型ザクが現場で開発されたらしい。
前面装甲の厚みはそのままで側面装甲を減らして機動力を上げたもので、その背景にはビームライフルの導入率が上がったことによって装甲の必要性が減ったことによるものだ。
そしてそれにつられるようにグフ、ドムも装甲を減らしていて機動力も同時に上がっているっぽい。
若干の生産コスト削減によりモビルスーツ自体の数も増えてる…のかな?
他にもザクのシールドが外されたり、ビームコーティングの研究も急いで行われているらしい。
後、前回プレゼントしたビームライフルだけど、劣化コピーに成功してドムに装備ができないかテスト中らしい。
まぁ、それは置いといて——
「あれがアイナ・サハリンか…美人だな、マリオンちゃんには勝てないけど」
「もーブルーニーさんはお上手なんだからー」
「いやいや本当のことしか言ってないって、マリオンちゃんマジ天使」
「恥ずかしいです」
とかイチャイチャしてたら拡声器で呼び出し喰らった。サーセン。
マリオンちゃんが実体化して下へ降りていく。
おや、あの独特なパイロットスーツ…もしやパイナップル改めノリス・パッカードさんですか?ランバ・ラルに続いてグフの知名度を向上させた人だね。
ノリス無双はなかなか08小隊の物語中で一番の華だと思う。
「シロー?!」
「アイナ?!」
感動のご対面、涙なしでは見れないな。あいにく俺はモビルスーツだから涙流せないけど…もしかしたらオイルなら流せるかもだけど。
ケンタッキーとパイナップルは固まってるけどね。
そりゃ自分の可愛い孫(のようなもの)と今まで共にしてきた上司兼戦友が目の前でラブラブな雰囲気(なぜか変換でき……てる)を醸し出してたら混乱するよねー。
「ア、アイナ様これはいったい」
「ど、どういうことですか隊長」
なかなか楽しそうなカオスっぷりだ。
アイナは若干恥ずかしそうに、シローは魔術回路を一から作る時みたいに冷汗ダラダラって感じ。
そういえば今は08小隊の物語では何話目なんだろうか、山脈で混浴露天風呂した後なのか前なのだろうか?このリアクションからすると後のような気がするけど。
まぁ、いい雰囲気なんだからどうでもいいか。問題はギニアスさんの狂いっぷりだよな。
パイナップルは問題ないだろうし、ケンタッキーも何だかんだ言って協力しそうだし…あ、でもギニアスも実はアイナのことを駒か何かのように見てる節もあるから案外スルーしたりしてな。
余談だけどマリオンちゃんのパイロットスーツには変声機がついてるから声でアイナにバレることはない。
まさかミノ粉が機械まで再現できるとは思いもしなかった。
「あらら、せっかくいい所なのに連れて行かれちゃったか」
『残念ですね。でもアイナさんの想い人ってのは本当だったんですね』
「ん?もしかして信用してなかった?」
『半信半疑でした。その情報、何処から手に入れたんですか?』
「この身体になる前にアニメで観た…って言ったら信じる?」
『信じます』
マリオンちゃんの俺に対する信頼度の高さが凄いな。間髪入れずに答えたよ。
「今の言ったことが真実なんだけどな」
『そうなんですか。ある種の未来予知ですね。でも随分変えてしまってるんでしょ?』
「正解、元々俺という存在がいないし、マリオンちゃんの相棒はユウ・カジマだったんだ。後ニムバスってやつかな」
『なるほど、通りでもう一人の私がユウさんを気に入っていたのはそれが理由でしたか、ニムバスという方は確か以前会ったことがある…ようなないような?』
「この件は追々話すとして——おろ、シローが男前になって帰ってきたぞ」
『本当ですね』
顔に青アザが2箇所ほどできてるな。
それでも4人に険悪ムードがないのは良かった良かった。
「これで一件落着っと、あの雰囲気だから荷物は引き取ってくれそうだしまだ依頼が片付いてないから早々にお暇しますかね。あ、しばらくはジオンに協力するつもりだから宣伝もしといて」
『了解です』
こういう時のために名刺でも作ったほうがいいかな。でも本業にするつもりはないんだけど…
ただ、俺達はこれが後になって面倒事になるなんて思いもしなかった。