第百七十二話
ニューギニア特別地区の民衆は終戦で浮かれている。
かれこれ1週間ほどお祭り騒ぎとなっているが、これには理由がある。
実は産業を軍需に偏らせすぎて戦後不況に陥りそうだったから終戦記念ということで国自体の消費を一時的に増加させることにより民需への切り替えをスムーズにさせる狙いがある。
軍需から民需に切り替えるのに難しいのは利益の落差が激しくて会社が耐え切れなくなるからだ。
それを少しでも軽減するための政策なのだ。
「今回の戦勝国は間違いなく私達だねぇ」
「間違いないな。ただ、不満があるとすればアプサラスの活躍がなかったことか」
「結局アンタはそれかい」
シーマ様とギニアスがそれぞれ4人がけソファーに腰掛け、ワインを片手……なんとなく絵になるな。
床に置かれている虎の毛皮のカーペットは俺の趣味に合わないけど、シーマ様の趣味だから仕方ない。
と言うか大阪のおばちゃん?
「シーマ様……」
「お、悪いね。じゃあ私も」
「ありがとうございます」
そしてシーマ様の傍らで酒を注ぐガイア、配膳するコッセル。
元々今回久しぶりに活躍したシーマ様達のために1本100万ぐらいするワインを飲み放題にしたんだが、何処からか匂いを嗅ぎつけたギニアスがシーマ様達の合意で参加。
この後アイナも来る……ただしシローはサイド5責任者としての勉強のため不参加だけどな。ディスられてる?気のせいだ。それに俺がディスってもアイナさえ居れば奴は英雄にも勇者にもなれるだろ。
『ガオ!ガイ!ガー!』
うん、勇者王になったな。
多分空耳だけど。
「んー!!スピリタスは効きます!」
マリオンちゃんもお酒を飲んでいる……いや、もうお酒じゃなくてアルコールに近いんだけどな。度数96をビールと同じように飲むとか、もう……ね?言葉がない。
ちなみにこのお酒、火気厳禁です。タバコとか吸っちゃダメだぞ?吸っちゃダメだからな?
はにゃーん様やリリーナ、サラなどの未成年組は今頃我らが作ったオタクの聖地にいるだろう。
オタクの聖地と名乗るだけあってBLも存在するがセキリティをガッチリ固めて徹底隔離されていて未成年の立入禁止や重度の腐人を他区に侵入させないようにしているから未成年にも優しい作りになっている。
もちろん18禁系統も同じ処置をしているぞ。その代わり両方共に内容の規制は緩くしてるけどな。
「もっとも私達の被害もそこそこあったようだがね」
「……アレだけの劣勢を破って戦死者30人程度というのは少ないが、部下が死ぬのはなれないもんだね」
死神の衣の被害はシーマ様率いていた部隊で30人、ガイアの部隊で10人。
この被害のほとんどはビックトレーを撃破し、その後の破れかぶれになった連邦によるもの。つまり勝利が確定した後に受けた被害だ。
勝利を確信した瞬間の隙、敵意がない流れ弾など経験の浅さがモロに出た形だ。
これで死神の衣の総戦死者は203人となった。
連邦もロシアも韓国も日本も10000人以上の、ティターンズとエゥーゴは5000人以上の戦死者が出ていることや国力比からしても雀の涙と言っていい数字だ。
6月(現在3月終わり頃)には1000人を突破する予定だが痛いものは痛い。
それと驚くことにニューギニア特別地区内の民達の意識に変化があった。
連邦に攻められるロシアをみて、ニューギニア特別地区もそのうち連邦に攻められるのではないかという危惧が生まれた。
これで人口減少になったなら大問題だったが、逆に、人口増加……というわけではないが志願兵の増加があった。
不景気でもないのに志願兵が増えるとは何事、と思ったが志願理由はニューギニア特別地区を守るためというものである。
どうやら俺達ブルーパプワは思っていた以上に民衆に評価されていたようだ。
そのおかげで死神の衣どころか死神の陽炎自体が増員されることになったわけなんだが……愛国心は嬉しいけど国内生産落ちちゃうんだよなぁ。
兵隊って何1つ生産せんから……まぁ治安がよくなると前向きに考えよう。軍人が治安を乱す事例は星の数ほどあるけど。
「死神が出なくなって死人が余計に出るってのはネットで使われるネタだっけ」
「ミリタリー系の掲示板でよく使われるネタですね。大体事実というのが皮肉ですね」
死神の衣がいくら優秀とはいえ、所詮は死を恐れる人間である以上は迂闊なことをすれば己の生死に関わるため、よほどのことがないと捕虜を取れない。
生身の人間をバルカンで挽き肉にするほどではないにしても動かないモビルスーツが死んだふりをしているのではないかとのコクピットを潰す程度には警戒している。
それでも勝った後に10人以上の死者を出しているのだから警戒しすぎてはいないようだし、捕虜を積極的に捕る方針にはできない。
「私も賛成です。人が死ぬことは悲しいことですけど他人を救うために仲間や社員が死ぬことはもっと悲しい」
「来たか、アイナ」
満を持してアイナ登場……いや、言ってみたかっただけで別に普通に部屋に入ってきただけだけどな。
「まぁ!本当にこんな良いワインを開けたんですか」
「私達の戦勝祝いだ。あんた達には日頃から世話になってるからねぇ、特別にお裾分けだ」
「ありがとうございます」
せっかく楽しく飲んでるんだからもう1本ぐらいなにか開けるかな。360万円するウイスキーを取り出す。
「えらく太っ腹じゃないか、無茶な仕事でも回されるんじゃないだろうね」
「そうじゃないが」
チラッとアイナの方に視線をやるとシーマ様は俺の意図を察したようで「ああ」とつぶやく。
ウイスキーを渡してシーマ様は1つ頷いて一言。
「ガイア、コッセル、ちょっと付いて来な」
「了解」
「お伴します」
普通なら「なぜ」や「どこへ」と疑問を投げかけるもんだが、疑いなく付いていくあたりは忠誠心の高さか、3人は部屋から出て行く。
アイナとギニアスは3人の突然の行動に首を傾げている。
それにしてもシーマ様はよく眼球がない俺の視線を察することができたな。
「ブルーニーが私達に話でもあるのかな」
おっと、ギニアスは気づいたか。
最初はこんな予定ではなかったんだけど、シーマ様がせっかく気を利かせてくれたんだからこのチャンスを活かすべきだよな。
「ああ、これから話す内容は今までの、それこそ軍機や国家機密なんて比にならないほどの秘密で漏らすぐらいなら自害しろというぐらいのものだが……聞くか?ちなみに当分は聞かなくても支障はないぞ」
「それは逆に言えば将来的には支障があるということだろう。私は聞いておこう。それにあの様子だとシーマは知っているようだし……アイナはどうする」
「もちろん聞きます。ナンバーズはそのことを?」
護衛に立つマリオンズを気にしているようだが、それも込み込みの話だから問題なし。
「大雑把に言えば、ナンバーズはマリオンちゃんで2人が体調不良がないのはマリオンちゃんの超能力のおかげで何もかもマリオンちゃんのおかげ」
「日本語でおk」
まさかのマリオンちゃんからのツッコミだと。
改めてマリオンちゃんが説明すると……おや?ギニアスの様子が……Bボタンで進化キャンセルできるかな?
「つまり妙に疲れづらいし睡眠不足にしてはいつも通りに考えれていたのは……」
「いつまでも妊娠できなかったのは貴方達のせいだったんですね……1発殴っていいですか。答えは聞いてません」
「やった側としては申し訳ないとは思うが、少し落ち着け。俺を殴ってもいいけど硬いぞ。マリオンちゃんを殴るつもりなら死ぬ覚悟で、な」
悪いとは思うがマリオンちゃんを殴らせるつもりなんてない。
元々俺の指示だしな。
「ちなみにブルーニーさんを殴るとお返しに私の100%パンチをお見舞いします」
あれ、これじゃあどっちにしても死刑確定じゃね?
「それとナンバーズがマリオンだというのがイマイチ分からないのだが、クローンか何か——」
面倒なので目の前でフュージョンと影分身をしてみせると2人はポカーン状態になった。
まぁヒールは大きな怪我とかないとわかりづらい部分はある。だから、見た目でわかりやすいマリオンズが効果的だろう。
もっともフュージョンしてもマリオンちゃんはマリオンちゃんだけどな。ゴテンクスとかベジットにはならない……というかブウ編って悠長にしすぎだろ。セル編でもいいかげん微妙だったがブウ編は本当に——
「ブルーニーさん、変な方向に思考が流れてますよ」
「おっと、そうだったな。それでこれからはしばらく世界も安定するだろうからアイナへのヒールは控えるから頑張って子作りしてろ」
「……忘れてるかもしれませんけど、シローがサイド5に単身赴任するんですけど」
あ、忘れてた。
「大丈夫ですよ。子作りは1、2日でできると聞きました」
マリオンちゃん、誰に聞いたのかな?……後で〆るから教えてくれないかな?かな?
妙なところで感覚がズレてるのは人間ではないからなのか、それとも教育に問題があるのか……後者だったらショックだな。
まぁそれは後にするとして、さすがに妊婦を1人にするのはちと可哀想か。
しかし妊娠すれば宇宙に上がれないし、だからってアイナを宇宙に移すのは論外、短期ならともかく長期間空けられると障害が出る。
「ならこれからアイナの代理になりそうな人材の育成に力を入れて、それからでいいか?」
「……ハァ、しかたありませんね。確かに今、私が抜けると支障がでますし」
子供作ってくれれば俺達も人質にできるしな。(ゲス顔
いや、さすがに冗談だけどな。そもそも人質なんて無くてもどうとでもできるし。