第二百三十二話
日付が変わろうとした時、とうとうシロッコに限界が来た。
機体を乗り換える以外に休憩なしというのはやはり無理があり、撃破こそ免れたが操っていたβタイプは頭、両腕、片脚を失いはしたがハーレムパーティが割って入ったことで命からがら帰還することができた。
シロッコに代わってクワトロをジェリドとマウアー、ロベルトをライラが相手する。
ジェリド達が割って入った時にマウアーとクワトロの戦いを見た時にシロッコが「ほう、あの女もいいな」と懲りもしない呟きがマウアー本人に聞こえなかったのは幸いだったかもしれない。
「この赤い奴、強い?!」
「ジェリド、迂闊に攻撃を仕掛けずに生き残ることを優先」
「ああ!わかっている!」
前衛は女の後ろに隠れるなんてできるか!という男の意地でジェリド、後衛という名のアタッカーをマウアーが務める。
赤いアッシマーに乗るクワトロは本来ならこの2人の相手などそれほど苦にならず、そう時間を掛けずにジェリドぐらいなら討ち取ることぐらいできただろう。
しかし今は補給の際に休憩を挟んでいるとはいえ、独立戦争時と違って補給効率も良くなっており極短時間の休憩であるため、ジオン時代ですら経験のない長時間の戦闘をした後ともなれば疲労の蓄積具合も未経験の域に突入している。
そのため既にアッシマーの追従性の良し悪しなど関係なく、操縦する腕が重くなっている。
「これはどうにもならんな。リリィとレコアに交代してもらう——」
「お、なんか中ボスっぽいキャラ発見」
「赤、といえば赤い彗星だが……」
「パーソナルカラー、強化サイボーグ以上の敵だと想定して取り掛かりましょう」
「「了解」」
ここに更にβタイプ3機……エマ、フォルド、ルースのパーティが加わり、さすがのクワトロも顔を引き攣らせる。
ロベルトに限って言えばライラと互角の勝負を繰り広げていて、これ以上の増援があれば嬉しくない未来が訪れるだろう。
ただし、クワトロは少しだけ活路を見出した部分もあった。
「あの変態とは違い、そこまで飛び抜けて腕があるというわけではないようだな」
ニュータイプっぽい気配はマウアーからしか感じず、これならば、と周り部隊を使っても足を引っ張られることはないと周囲にいた部隊を指揮し、連携することで対抗する。
暴徒兵の練度は低いが物量というのはやはり大きい。周囲にいたアッシマーが18機に襲い掛かられればいくらティターンズの精鋭でも肝が冷える。
その中にクワトロが混ざっているのだからタダでは済まない。
暴徒兵が攻撃を仕掛け、すぐさま1機を撃墜したルースだったがその影からクワトロがライフルを撃つ。
辛うじてシールドで受けるが元々普通のビームライフルを受けるために設計されているため、アッシマーの高出力ビームに1発ですら耐え切れず融解し、腕が肘から先がなくなったが、なんとかそれだけで被害が済んだ……今のところは。
「ルース!テメェッ!!」
「迂闊に前に出ては……フォルド中尉!」
周りを気にせず、ウェイブライダー状態でクワトロへと突き進む。
もちろん自身への攻撃は回避しているがそれもいつまで保つか……と思った矢先に右翼の根本にビームが当たりバランスを崩す。
その隙を逃すわけもなく、止めを刺そうとクワトロがライフルを向ける……が、その瞬間ルースの姿が消えた。
「ったく、世話が焼けるやつだ」
ピンチを救ったのはジェリドであった。
「年下のくせに生意気言ってんじゃねぇよ。ジェリド!」
「助けてもらっといて礼も言えないのか!お前はとっとと帰ってろ。こっちはそれどころじゃない」
機体が大破しないかという速度で横から突っ込んで吹き飛ばし、助けたのかダメージを与えたのかわからないほどの衝撃を受けたにも関わらず言い争う2人……無駄に元気である。
それは強化サイボーグが戦場に長らく出てきていないことに起因する。
ジェリド達は強化サイボーグ対策チームとして結成されていたために、強化サイボーグが捕捉できなければいつでも駆けつけれるように待機するしかなかった。つまり今までたっぷり休憩していたのだ。
実のところティターンズが捕捉できていなかっただけで強化サイボーグは戦場に出ていたりする。
ただし、今まで3機編成だったところを個体数が少なくなってきたので単機で混戦している場所へ投入して目立たないように撃墜数を稼いでいたのだ。
ブレックスは強化サイボーグ対策チームの存在を知らなかったが結果的に功を奏した形となった。
「にしても、この数の中であの赤いのの相手をするのは危険だな」
フォルドが文句を言いつつも戦線から離脱する姿から学んだわけではないが、クワトロの存在が危険なことを再認識した。
そして序盤で仕留め切れなかったことを後悔したがすぐに頭から追い出す。
どう考えても短い時間で仕留められるとは思えなかったからだ。
そしてクワトロは早々に2機撃破こそできなかったが撤退させることに成功したのは僥倖だと汗を拭いながら思う。
たとえ、暴徒兵4人しか残らなかったとしても。
さすがティターンズの精鋭と言えるだろう。
「さて、そろそろ私は後退させてもらおうか」
後は任せたぞ、とリリィとレコアと20機の友軍に声を掛けて撤退した。
ちなみにロベルトはライラと激闘中のため置いて行かれた。
戦場全体で見れば、いつの間にかエゥーゴ有利となっていた。
主な原因は強化サイボーグが一般兵に紛れて被害を拡大していることと長丁場となったことによる予備兵力の差だ。
戦闘時間が長くなったことでエゥーゴの兵数の多さが疲労度軽減につながっていて、ティターンズはその逆で兵数が少ないために疲労度が重くなる。
しかし、それももうすぐ終わりを迎えるだろうとジャミトフはわかっていた。
「閣下、予定通りだそうです」
「ふむ……肉眼で見えているな」
はるか上空に光って移動する物体、それはアナハイムの通商破壊を行っていた部隊を載せたHLVだ。
そして逆転の一手でもある。
「切り札というのはこういう時にこそ切るのだ」
少し離れている場所に不時着するが、予め高速輸送艦を配備しているのでそう時間は掛からず、エゥーゴ後方から奇襲を掛けてくれるだろう。
「もし気づかれたとしても奴らに防ぐことができるかな」
50分後、その言葉は現実となる。
「さすがだな。この戦果ならば安い買い物だったな」
エゥーゴの後方から攻撃を仕掛けた通商破壊部隊は奇襲には失敗。
しっかりとエゥーゴのモビルスーツ隊が迎撃に動く……が速度を落とさず突破するβタイプ。
元々後方にはあまり部隊を配置しておらず、戦線から無理やり引き抜いた部隊を迎撃に向かわせた……つまり艦隊が丸裸状態になった。
そして虐殺は始まった。
ミデアを手当たり次第撃破しつつ、アーガマとラーディッシュに向かう。
慌ただしくミデアから修理中であろうアッシマーやSFSにも乗らずに飛び出すR・ジャジャなどは悉く撃破されていく。
その戦いぶりはまるで——
「さすが死神の陽炎から購入したニュータイプ達だな」
ジャミトフよ。これをティターンズの成果としていいのか。