第二百四十一話
11月後半、とうとうアクシズの行方がわからなくなった。
ミノ粉って便利だけど不便だな。
本来ならアクシズの観測ぐらい簡単にできるはずのにミノ粉を散布されていると捕捉できない……そこを否定するとガンダム自体を否定することになるから仕方ないんだけどさ。
ジオンの民衆は特に気にしてないか、逃げ出した卑怯者という認識だが上層部はそうはいかない。
アクシズは元々木星から来る輸送船団の中継地だ。
無くなればそれだけ補給に困ることになる上にモビルスーツの動力源である核融合炉に必要なヘリウム3は木星産がほとんどを占めているので輸送船団が滞れば問題になることは明らかだ。もっとも1番焦るのは木星だろうけどな。
木星の物資はほとんどがアクシズを経由して送られているらしいから、それが一時的にでも途絶えたとなればジオン以上の死活問題だ。
それにジオンはアクシズが何かしらの犯罪行為をすれば責任問題となるので頭を悩ましていることだろう。
いっそアクシズがジオンに攻めてくるなら話は簡単なんだろうが……それが判明するまで2年は掛かるからその間は気が気でないだろう。
これは本格的に新たな戦乱の火種っぽいな。
ジオンが負けたりすると色々とやりにくくなるから協力するのは吝かではない……相手が連邦ほどの金があるとは思えないから自動的にジオンになるだけなんだけど、やっぱりテロの味方なんてあまりしたくない。
……金を払われたら仕方なく味方するけど、世論が面倒なことになりそうだ。
「最近ジャンク屋さんで目覚しい業績の会社があるそうですよ」
どっかで聞いたような?
「確かビュッフェ・コンツェルン?」
へー、立食パーティをメインに展開する会社っぽいなぁ。
……ぜってぇちげぇし。
「……ブッホ・コンツェルンじゃないか?」
「そう、それです!」
ですよね。
と言うかとうとうF90、F91の足音が聞こえてきたな。ジョブ・ジョブは死んでるけど。
そういや俺達も廃品回収業してるけど、影響はなかったんだな。
「ブッホさんは他のサイド周辺を牛耳ってますからね。サイド5の廃品だけでは大して関係しないと思いますよ」
「それもそうか」
でも私設軍を設立するのは難しいだろうな。
ジオンが健在でスペースノイドが冷遇されることもなければ情勢不安も少ない……アクシズのことはあるけどすぐに影響があるわけでない。
つまりよほどの理由がないと私設軍なんて保有することを認められるわけがない。
それ以前に貴族主義という意味ではジオンがそれに近いんだけど……独裁主義色が強いから相容れないかな?
「なんにしても注意はしておくべきか」
「じゃあマハラジャさんにお願いしておきますね……あ、そういえばMIP社からモビルスーツの共同開発の打診があったようです」
「MIP社か」
可変モビルスーツの登場で水陸両用モビルスーツが大きく需要を落としたから打開策としての一手かな?
「それで合ってると思います。開発コンセプトは戦時ではなく、平時のパトロールや治安維持に適した水陸両用モビルスーツだそうです」
「なるほど」
なるほど、戦時では可変モビルスーツを上回ることは難しい、となれば平時に使えるものを開発しようというのか。
これからは大戦級の戦争なんて、そうは起こらないはず。
せいぜいがロシア解放作戦や人種差別暴動程度だろう。ジオン独立戦争のようなものはもう100年は起きないと見ていい。
となると平時にこそ物資を安く、効率よく、安定が必要なシーレーンが重要になる。
ブルーパプワのクーンが今はその任務についているが、元々戦時用としては安価な部類であっても平時の治安維持に運用するには生産や維持のコストパフォーマンスが悪い。
例えるなら日本の警察は拳銃が標準だけど、今は警察がサブマシンガンとか対戦車砲などを持ってウロウロしているようなものだと思ってもらえれば分かりやすい……か?
しかし、1つ疑問がある。
「なぜ水陸両用モビルスーツ?」
シーレーンの重要性は理解できるからコンセプトはわかる。それなら水中専用で良くね?
「インドネシアでは島が数多くあるので陸も動けた方がいいそうです」
「あ、なるほど」
世界で1番島が多い国を持ってるんだから仕方ないか。
「それとフィリピンにも売り出す予定だそうです」
島が多い国2位だから不思議じゃないか……まぁ特別地区も島がないわけじゃないから妥協するか……いや、一応水中専用も開発させてみるか。
「じゃあ水中専用型も開発するなら、という条件が通れば許可ってことで話しといて」
「わかりました」
……あ、空母開発で人が取られてるけど大丈夫かな?
12月末。
今年は平和だったから随分と1年が早く感じた。
偶にセラーナが帰って来てマリオンちゃんと修羅場ってたりするけど手を出したりするわけじゃないから平和なものだ。
……手を出したら100回戦って1000000000000…………000回マリオンちゃんが勝つことがわかってるからそんなことにはならない……はずだ。セラーナは意外というか家族に似ているというか妙に頑固なところあるからなぁ。
負けるとわかっていても戦わないといけない時がある!とか男前のこと言って挑む可能性もなきにしもあらずというのが不安要素だ。
そしてMIP社と共同開発が正式に決定。
思ったより素早い返答だ。それほど苦しいのかね?
「それにしてもオリヴァー・マイがMIP社に入ってるとはねぇ」
ジオマット社設立の時に1回会ってたけど今はMIP社で働いているらしい。
しかも今回の共同開発に参加するようだ。
だからどうした、と言われると原作キャラだからとしか答えられないけどな。
原作キャラと一緒に開発するのは原作キャラと戦う以上に感慨深い……戦っても圧倒的なのはわかってるから楽しみとは言えないのは悲しいというのか安心というのか微妙なところ。
まぁ、だからってGガンみたいな俺達より人外の人間(仮)みたいな存在達と戦いたいわけじゃないけど。
そういや水中専用モビルスーツの素体にはラビット(はにゃーん様のパトレイバーの正式名)を使うことが決定したらしい。
「案外無駄にならないもんだな」
「ですねぇ。最初ははにゃーん様個人のお強請りからだとは思えませんね」
ラビットはモビルスーツよりサイズが小さいから治安維持に導入したんだが、やっぱりモビルスーツより足音が小さくなって苦情が減った。
いっそどっかの悪夢の骨組みたいに足に車輪でもつけてみるのも面白いかもしれない。
「そしてまた農業コロニー完成っと」
「そして農業コロニーことオパール2が本格稼働を始めましたね。来年の収穫が楽しみです」
そうそう、現在の世界情勢的にありえないほど食料余剰ができている韓国は一生懸命海外に食料を売り込んでいるらしい……地球産と偽ってだけどな。
食品偽装までお家芸にするつもりなのか?1番買ってる日本にこっそりチクったら大騒ぎになった。
また殺るか?!と殺気立ってる……まさかこれほどのことになるとは思ってなかった。反省はしてないし後悔もしてないがな。