第二百四十話
8月に入ると特別地区に大使館(笑)の設置がジオン……そしてティターンズとで正式に決まった。
いつの間にかティターンズが混ざってたんだけど、まぁ贔屓するつもりもないし条約が守られれば問題はない。
駐在外交官は両人共に必要以上に低姿勢だったな。
外交特権がないとこんなものなのか、外交官が最初からこうなのか、ギレンやジャミトフの方針でこうなのかわからないけど少なくともマリオンちゃんズが不愉快には感じなかったことは僥倖と言えた。
ジオンもティターンズも命拾いしたな。
「そういえば諜報部からアクシズの動向がジオン本国でも掴めないという情報が入ってきました」
アクシズ……はにゃーん様がこっちに来てからノーチェックだな。
「情報が途切れる以前の情報で不穏な動きなどはなかったのか」
「それが特にそういった動きがあったという報告はなかったようです」
アクシズねぇ。
逆襲のシャアの再現と言ってもシャアはこの前までエゥーゴにいたから時期的に無理があるよな。
人種差別暴動が終わってすぐアナハイムからアクシズに向かったとしてもまだ道中のはずだ。
となると、ただのデモやストライキなのか、それとも他の誰かが動いたのか……でもジオン本国の勝利で原作ほど大義名分がないよなぁ。
「そもそもアクシズ住民の不満ってなんだ」
「ジオン本国ではアクシズは戦争に寄与しない非国民だ、という声があがっているようなんです」
「……いや、アクシズって木星までの中継地と資源採掘の拠点として十分働いていただろ」
「本国の民からすればそれは通常通りの運用でしかなく、戦争に参加したとは認識しづらいのでしょう」
うーん……やはり血を流していないことがネックになるのかね?独立戦争後の日本も似たようなこと言われてたし。
しかし不思議だな。
遠い地だからこそ、そういう非難の声が表面化しやすいのはわかるが、表面化することと実際その声が届くかは別問題だ。
アクシズはあまりに距離がありすぎて届く声は少なく、小さいはずでジオンも面倒を避けるために情報統制もしていたはず……となると考えられる可能性は少ない。
ジオンがそう仕向けたのか、何者かが喧伝して回ったのか、アクシズという狭い空間だから小さい声も拡張して聞こえたか。
このぐらいだろう。
ジオンがアクシズを冷遇して反乱を促す理由はない。
「念の為に聞いておくがお前は動いてないよな」
「もちろんです。私が動かせる人員は既にアクシズにはほとんどいません」
そうすると俺達以外の誰かの作為であるか、アクシズ特有の反応かのどちらかで最も可能性が高く、警戒すべきは——
「アナハイムだな」
「はい。元々アクシズはアナハイム資本が作ったものですから煽動するのも簡単でしょう」
またアナハイムか、もう驚かんわ。
今回は自身が影響力の弱まってるジオンに揺さぶりを掛けるつもりか、確かに一時期からするとジオンは基盤が出来つつあるから仕掛けるなら早い方がいいだろうけど……ああ、そうか、アクシズが本国に何かを仕掛けるにしても時間が掛かる。だからちょっと自身も傷ついている今でも動いているのか……まぁ、これはあくまでアナハイムが裏にいると考えて推測だけどな。
「ジオンも考えてはいると思うが一応伝えておいてくれ」
「わかりました」
世界が平和だと俺達のやることは少ない。
教育制度の見直しと新人育成の成果が現れて少しずつ仕事が減って更に暇になった。
世は好景気、忙しいのは現場で働く人達で搾取する側の人間は上がってくる資金の使い道を考えるだけでいい。
そして俺達の資金の使い道は決まっている。
国内に落とすか属領に落とすか、会社(設備投資)か国(インフラ整備)か。
これぐらいの差で、このぐらいのことなら俺達が判断しなくても政策部が勝手にしてくれる。
というわけでマリオンちゃんズとイチャイチャしながら早くも11月。
「火星でクローン兵生産工場がやっと着手されましたよ」
「やっとか」
人員派遣自体は割りと早い段階で送ってたんだけど火星基地の居住性があまりにも悪いんで先にそちらを改善していたら物資が尽きて送ったりした結果、今ままで掛かった。
クローン兵生産工場が出来上がれば……?……特にメリット無くね?
いや、火星をテラフォーミングするというのも有りか。どうやってやるか知らないけど。
「コールドスリープ技術の開発は一旦終了したんだっけ」
「はい。後は人間で試験するだけです」
「こればかりはマリオンズを使うわけにはいかないからなぁ」
と言うか既に試してみたんだけど……コールドスリープに普通に耐えられるんだよなぁ、マリオンちゃんズ。
クローン兵で試験したいところだったけど完成したのが人種差別暴動の最中だったから貴重な駒を減らすのもなんだし、今は好景気で人手が必要になったから余計に使い捨てしづらい。
動物実験では成功してるから大丈夫だと思うんだけど、やっぱり人間で試してみないとわからないこともあるだろう。
もしコールドスリープが実現可能になれば不治の病の人間を治せるようになるまで眠らせるってことも実現可能だ……まぁヒーリングで大体治るから本当は不要なんだけど……あ、でも燃料の関係で順番待ちとかはできるかもな。
ヒーリングを公表する気がないけど。
「来月には3基目の農業コロニーも出来上がる予定ですし、順調ですね」
「まぁクローン兵が頑張りすぎてるだけなんだが」
そう、またなんだ。またクローン兵が頑張って農業コロニーがまた完成する。
まだ2基目が完全稼働してないというのに早くも完成するんだ。
頑張りすぎだろ。次の仕事を用意する俺達の身にもなれよ……え?無理?そりゃそうだよな。
「ハァ、次のクローン兵達の仕事どうしよう」
「もう1基作りますか?今度は工業コロニーとか」
「工業コロニーは中身に金が掛かるからちょい厳しい」
「じゃあ通常コロニーを作りましょうよ。オタクの聖地のおかげで移民希望者は集まりますよ」
「それがなぁ……受け入れることには問題ないんだけど最近は移民元の国がハードルを上げて人口流出を抑えようとしてるんだよ」
「あ、好景気のせいですか」
その通り、移民が多い日本とかフランスは他国へ移住するのに移民税なんていうわけのわからんものまで設けやがった。
おかげで移民者が増えず……まぁ旅行者は増えてるからいい気もするけど、通常コロニーを作るにはイマイチな状況だ。
「ならリゾートコロニーとかどうでしょう。設定温度をあげれば常夏、設定温度を下げればウインタースポーツができるなんていいと思います」
「ふむ」
なるほど、コロニーの気温操作が楽なことを活かすわけか。
常夏ってのは特別地区には受けが悪いかもしれないがサイド5住人には喜ばれるだろう。
逆にウインタースポーツは特別地区にウケが良さそうだ。
「よし、次はリゾートコロニー建設だな」
「じゃあ見積もり出してもらいますね」
でも、リゾートコロニーは初見だから多分設計図の完成は時間が掛かるだろうな。
それまでは……新米クローン兵の育成を任せてみるか。
教えることでまた学ぶこともあるだろう。昔の人って良い事言うよな。