第二百四十三話
3月に入ったがジオンの新兵器の情報は入ってこない。
よほど厳重に防諜しているんだな。
ま、それほど本気で探ってるつもりはないから仕方ないけどね。
ティターンズに量産型βのライセンス生産を許可したので本格的に可変モビルスーツの配備が進められることになった。
量産型βはIIに比べれば低スペックだが、ティターンズだけだったらならIIを進めたんだけど今は連邦もティターンズで、圧倒的に元連邦兵が多い。
元連邦兵にIIは使い勝手が悪すぎるので量産型βぐらいでちょうどいい。
数が数なので俺達だけでは生産が間に合わないからライセンスを出したんだけど……ティターンズもティターンズで他にすることが山程あり、あまり順調じゃないようだ。
せっかくムーバブルフレームの技術漏洩の可能性まで飲んでライセンス出したのに……多分近いうちにアナハイム製のムーバブルフレームが登場するだろうな。
最近気になってきたことといえば、モニターに映るジャミトフが激ヤセしてきたことだ。
やっぱり偉い人が有能だと大変なんだろう。
今度会う機会があったらマリオンちゃんズにヒーリングをしておくように言っておこう。
これがゴップことモグラだったらなら今頃痩せるどころか更に体重が増えてるに違いない。
「そういやゴップはどうなった?最近は表に出てないよな」
「ジャミトフ様が扱き使ってるようで以前に増して忙しいようですよ。あの方は人脈と利害調整に関しては大変有能ですから……遺憾ながら」
かなり不服そうにマレーネがいう。
確かにモグラの肥え太った見かけは腐敗した連邦の姿を現しているかのように見えるからスペースノイドには思うところがあるだろう。……まぁ連邦の民も思うところはあるだろうけどな。
政治家なんて立ってる者は親でも使え、なんてレベルじゃなく、立ってる者は親の仇でも使えが基本だからな。
腐った遺物でも使い道はある、か……正直な話、またトラブルが起きそうなんだけど……第2のコーウェンにならないことを祈る。
「それにしても、あのモンシアという方はどうにかならないのですか」
「あー……」
モンシアというのはもちろん不死身の第四小隊のモンシアのことだ。
彼はこの前まで俺達のことを気にして大人しくしていたんだが、新年が開けてパーティに参加した頃からか特別地区に慣れたようで、日常的にブルーパプワの職員をナンパやセクハラを繰り返していると報告という名の苦情が上がってきている。
あまり増長しない内に引き締める必要があるだろうか。
「逐一サウス様が処罰してくれてはいるんですが反省している様子がないのです」
「そうだろうな」
原作でもそんな感じだし……さて、こういう時は——
「私達の」
「出番」
「ですね」
ちょうどいいところに出てきた……けど、マリオンズ3人もいらないから、明らかにオーバーキルだから。
まぁ教育的指導=マリオンズなのは特別地区全土に知れ渡っている事実だけどな。
「ただなぁ〜」
「どうしたんですか?」
「いつもなら頼むの一言なのに」
「迷ってみたいですね」
いやね、教育的指導で萎縮するなり、更生するなりすればいいんだけど、マリオンズじゃ万が一にも億が一にもそっちの世界の住人になられても困るんだよなぁ。
「あ」
「心当たり」
「ありますね」
心当たりあるんかい?!
「私達の」
「教育的指導では」
「死なないということが」
「認知されてきて」
「快楽を得ようと」
「する人達が」
「偶にいますね」
「それは由々しき事態だ。殺傷処分するか早急に検討しよう。よし、可決」
「否決です」
そんな馬鹿な。
マリオンズからご褒美をもらうなんて許せんじゃないか。
「……ところで今日はナンバーズの方々だけなんですね。マリオン様本人はどこに?」
露骨に話を逸らしたな。
さすがに殺すのはやり過ぎだろうから自重はするけど……しばらく強化人間コースにでも逝かせるか。
……ん?また別の世界が開けるだけじゃないか?しかも更に厄介な方向の世界へ……考えるのはよそう。
肉が食えなくなる。
元々食べないけどな。
「ああ、マリオンちゃんなら——」
「最近」
「肉体強化ばかりなので」
「久しぶりにシミュレータに」
「行ってます」
とは言うもののマリオンちゃんが本気を出すとシミュレータが壊れるから本当に訓練になっているのかはわからないけどな。
ハンディキャップがあっても勝てるように訓練しているとは本人の言なんだが、素手でモビルスーツを破壊できるのにハンディも何もないと思う。
最近ギニアスがアプサラスじゃなくて新しい兵器の研究をしている。
それはマリオンちゃんズの宴会芸からインスピレーションを受けたもので、それは……音響兵器だ。
目的はモビルスーツの共通の弱点であるメインカメラやサブカメラの破壊とミサイル迎撃だ。
まだまだ実用化はできそうにないが、そのうちものになればビームはIフィールド、実弾は広範囲音響兵器で手軽に無効化できるようになり、かなり強固な艦ができる。
もっともこんな艦を作れば俺達も手を焼く可能性が大なんだけど、そこは気にしない。
今のうちにメインカメラの強化でもしておくか。
「それでサウス・バーニング、何用かな」
「……バニングだ」
そうだったな。バーニングはうるさいうるさいうるさいのツンデレ少女だった……ん?これも違う気がする……まぁ今はいいか。
「それで要件は移住の件でいいのか?」
「ああ、私はここに移住させてもらう。今のティターンズという組織はどうも性に合いそうにない」
「……ブルーパプワはティターンズと提携中だが?」
「こっちはあくまで企業だ。守るものではなく、攻めるものだと納得できる。しかし国の軍とは攻めるものではなく、守るものだと私は思っている」
その考え方は地球連邦という人類史上最大の組織に所属していたからこその傲慢にも感じるが……有能な人間がこちらに来てもらえるなら考え方なんて問題はない。
「俺達とティターンズは協力関係にあるが」
「それは気にしていない……何よりアナハイムと関わるのに嫌気が差したってのが本音かもな」
(1番の要因はお前達ともう1度戦えなんて命令が出たらと思うと震えが止まらないからだがな)
全部が本音というわけではなさそうだけど、特に害になりそうにないな。
「よし、移住を許可する」
「おめでとうございます」
「おめでとう」
「ようこそ天国と地獄の狭間へ」
「それはどういうことかな、はにゃーん様」
「言葉そのままの意味だが?」
(天国と地獄の狭間へ……普通に住めば天国、のように見えてこいつらの機嫌を損ねたり罪を犯せばすぐに死ぬ方がマシと言われる地獄行き……言い得て妙だな)
こうしてサウス、そしてつられるようにアデル、ベイトの2人も移住を決めた。
他のモンシア、シナプス、コウはまだ保留中でキースはまだ治療中のため保留以前の問題。
モンシアはこの前のマリオンズの教育的指導でトラウマができて移住に踏み切れないでいるらしい。
シナプスとコウは自責の念や地球への思い、プライド、俺達への恐怖などなど色々な思いが混ざって形にできていないようだ。
まぁ働いても貰ってるからいつまでも居てもらっても構わないんだけどな。
普通の捕虜だとこうは行かないよなぁ。やっぱり臨機応変って大事だ。
官僚達も定期的に移動したりしないといけないか、いざとなったら全員抹消も難しくないけど後が面倒だし。