第二百八十話
空き巣をフルボッコにしたことで確かに話題になった。
だが、話題に上がったのはミニチュア版アプサラスが現れたという内容だった。
これを決して俺の話題とは認めない。
「でもブルーニーさんの力なのは間違いないですよ」
「それでも認めん!」
どのマスゴミも一面記事はアプサラスを着た俺ではあるが、明らかに『俺』ではなく、アプサラスに注目している。
「こんなことなら普通に抹殺すればよかった。しかもギニアスが暴走気味だし」
「正規ではないアプサラスの登場に狂気乱舞してましたね」
……本当は狂喜乱舞だ、とツッコミたいところだが、意味合い的にマリオンちゃんの方が合ってるからスルーしておく。
危うく俺ごと分解されそうだったが、アプサラスアーマーを生け贄にすることでなんとか生きながらえた……まぁ、撃退するだけなら普通にできるんだけど、気分の問題だ。
「あしらうためにアプサラスアーマーを渡しましたけど、これでSD化した際のブルーニーさんのスペックの一端がわかりますね」
ああ、そういえばそうだな。
俺自身のスペックはステータスで把握しているが、科学的スペックにするとどの程度なのかも気にしていたし、SD化した状態だとどの程度のスペックになるのか正確に把握しておきたかった。
俺がやられるとしたらSD化している時の可能性が高いからな。
そしてギニアスがアプサラスアーマーを分析してくれれば、俺自身のスペックも予測できるだろう。
SD版アプサラスアーマーが通常版アプサラスアーマーとスペックが縮小されているだけなら俺自身も同じだろう。
そして、SD化している俺は普通に打倒されうるということになる……が、マリオンちゃんがほぼ常にいるのに命の危険に見舞われることがあるのかは疑問ではあるがな。
「あ、そうだ。SD版アプサラスアーマーがあれば私達の移動手段とか治安維持に使えますね!」
……なんだそのテロリストに核ミサイルみたいな危うさを感じる組み合わせは。
もうね、ニューギニア特別地区から犯罪が消えるのは目の前じゃないか?
「だが却下だ」
「えー、なんでですか」
「単純に燃料を消費するだろ」
「あ」
アプサラスアーマーの移動は飛行しないとできないため、必ず燃料消費をすることになる。
今更だが俺達の燃料はちゃくちゃくと増えて900万を超えているが使い放題使うというのは違うと思う。
何より金属を喰わないと増えないから元々燃費がいいとは言えない身体なんだよな。
「せいぜい緊急時ぐらいだろうな」
「残念です」
犯罪者にとっては幸い……ではないか、生身のマリオンちゃんズでも十分なんだからな。
と言うかそもそもアプサラスアーマーは過剰過ぎるって話だ。
ノイエジールIIのデータ解析が終わり、一部をアプサラスに応用することができるはずだ、とナタリーから報告が上がってきた。
そしてそのデータをギニアスに渡してあるからそのうち成果が出るはずだ。
予定では重量が3%カットできるとのことだが、アプサラスの3%と言えば十分な成果だと思う。
これで運用に不安があったアプサラスV(空母仕様ね)の積載量が増えて補給能力が上がり、存在意義が上がった。
もっともβタイプが主流になってしまったから汎用モビルスーツを輸送する目的で設計されたVは効率が悪いものとなってしまったから再設計必須だ。
ティターンズと共同で開発している空中空母が完成してからデータ取りをして、それをフィードバックさせて再設計することになる。
随分先の話だが、地球ではしばらく戦争はないと思うから慌てていない。
アクシズが攻めてくる時には俺達は防衛に回ることになるから空母はあまり必要ない。ドロス級みたいに火力要員として投入することもできるが、それならIIIかIVで十分事足りる。
「そういえばすっかり忘れてたけど火星はどうなってる」
「クローン兵製造工場が稼働して初期ロット100人が完成しています。現在は教育ついでに労働に従事していますね。来月には第2ロットが完成するはずです」
お、いつの間にか稼働してたのか、こりゃ火星のテラフォーミングにも期待が持てそうだ。
「……あ、そういえば火星の開発は勝手に始めたが、連邦に許可貰わなくても良かったのか?」
「……すっかり忘れていました。根回しする必要がありますね」
現代でも月には1回しか行ってないのに土地の売買をしていたぐらいだからな。火星に興味を向けるのも自然なことといえる。
それに宇宙利権がジオンのもののままである今は火星をテラフォーミングして開拓するというのもティターンズとしては1つの手段でもある。
それを俺達が勝手に開発していたとなるとそれこそ嬉し恥ずかしの戦乱フラグだ。
こちらとしては戦乱でも問題ないが、陰湿につっつかれるのも面倒だから先に筋を通しておくとしよう。
やはり木星トカゲ改め火星タコとでも自称してクローン戦争とでも洒落こむか?