第八十一話
前回全く台詞がなかったブルーニーだ。
さて、戦後の世とは太平の世と相場は決まって……いないよなぁ。
むしろ経済戦国時代突入である、株価の動きなんか過去のデータに基づく指標なんて全く当てにならないぐらい荒れに荒れている。
毎日会社が潰れては新しい会社が生まれては潰されて、偶に生き残ったりしてるが大企業に飲み込まれたりと大変そうだ。
そういう意味でならブルーパプワは平穏そのもの。
どちらかというと飲み込む側なので気楽といえば気楽だ。
大企業、特にアナハイムに負けないよう規模拡大を!と思わなくもないんだけどマスドライバー建設に、戦争ボーナス(鹵獲兵器、捕虜売買)がなくなり、新規兵器開発ではムラサメ研究所のサイコミュ開発費が結構馬鹿にならず、しかも簡易ながらコロニー建設も着手(まだ資材集め程度だが)で余裕はない。
とはいえ事業は好調。
軍縮傾向というのにブルーパプワの生産ラインは現在ゲルググM1、ドップ3、ルッグン2、フィッシュボーン4という割合になっていて、フィッシュボーンは両軍に好調に売れていて、数社からライセンス生産が申し込まれるほどである。
ゲルググMはジオン地球領へ、ドップ2、ルッグン1も同じくだが、残りのドップとルッグンは中国へ輸出している。
元日本人としては中国なんぞ応援したくもないが日本は連邦の兵器を生産しているので売るに売れないので仕方ないのだ。
中国がなぜ連邦製の兵器を使わないかというと広大な土地をカバーするには安くて大量の兵器が必要であり、連邦製は高性能だが価格も比例して高い。ドップやルッグンは性能は劣るが価格は安く、製造期間も短いので採用されている。
フィッシュボーンのライセンス生産が軌道に乗ればブルーパプワの生産を他の兵器製造に回せるようになるので更なる利益が期待できる。
ジオン地球領は工業力乏しく、モビルスーツの生産は可能だがザクIIJ型なら月10機ほどであり、最新機であるゲルググMは月に1機、フル稼働生産で5機程度。
ジオン本国も平和になったととはいえ戦力立て直しは急務であり、地球領に回すのはまだまだ先のこと……というかどうも俺達への配慮らしい。
日本向けには細々とした弾薬やEパック、中国で生産されていた日用雑貨などを売っているが売れ行きはそこそこ好調らしい……ただ日本人らしく、品質に煩いのが玉に瑕だけどな。気持ちはわかるけど。
「久しぶりだな、アムロ。随分ご活躍だったようだな」
「本当にモビルスーツだ……中はどうなってるんだ?」
「中の人などいない!!」
「マリア……じゃないんだっけ、マリオンさん?」
「中の人などいません!」
期待を裏切られた、もしくは救いなどなかったとでも言いたげな表情をするアムロ。
そう、戦後の糞忙しいにも関わらずアムロは連邦を辞めて、ニューギニア島、というより俺達の元を訪ねてきたのだ。
「しかしこのタイミングでよく軍を辞めれたな」
「ジャミトフ中将がここに来るなら取り計らうと」
「ああ、なるほど。ジャミトフには後で礼をしておくか……それに両手に花状態とはなかなかいいご身分だな」
「からかわないでください」
アムロの後ろにはセーラー戦士……じゃなかったセイラとフラウが並んでいる。
2人共軍を辞めてきたらしい……まぁ当然だよな、強制徴兵に近い形で参加させられてたんだから。
「いや、ここでは重婚できるから冗談ではないんだけどな……それは後で追求するとして、君達はブルーパプワで働くのかな?正式に話したのはアムロだけだが君達なら問題ない。ニューギニア島内のブルーパプワ以外の会社に就職するなら口利きもするが」
「僕はブルーパプワで働こうと思います。フラウも一緒です。セイラさんは別にやりたいことがあるみたいです」
「ふーん」
セイラに目を移し……うん、立派な胸——傍らにいるマリオンちゃんから凄いプレッシャー(嫉妬)を感じる!
アムロやセイラが一気に青ざめたのだから本物のプレッシャーらしい。フラウはそれほどではないが居心地が悪い程度には感じているようで若干もじもじしている程度で済んでいる。
もしかするとオールドタイプの方が感じにくい(鈍感)から幸せかもしれん。
しかしアニメでも美人だったがリアルになると更に美人だな。
もっとも白人の肉体崩壊は結構早いからひょっとすると……む、セイラからプレッシャーだと、さすがニュータイプ、洞察力あり過ぎだろう。
「まぁ何をするかは法律に抵触しなければ個人の自由だけど……ここに来たってことは俺達に何かあるのかな?」
「……それは……」
セイラは言いづらそうにしている。
仕方ないなぁ。
「それは後で話すとして、ブルーパプワには君の父親の知り合いが多数いるから挨拶に行くといい、例えばメイ・カーウィンとかな」
(カーウィン?!確かお父様を支えていた家の1つだったはず、ということはこの人(?)は私の正体を知っている?)
ふっふっふ、動揺しているようだな。
お前の秘密は全て知っている。恥ずかしい名前の由来とかな。
アムロ達はわからないようなので話してはないのか。
「それでアムロ達はどの方面に進みたい?稼ぎ優先なら宇宙廃品回収部なんかがおすすめだし、ハロのように何か作りたいなら開発部、安定した生活をしたいなら警備部もおすすめだな」
「宇宙廃品回収?」
「宇宙の戦争で生まれたゴミを回収する仕事だ。ああ、今ブルーパプワはサイド6での事業も展開していてね。仕事は山ほどあるぞ。なんなら体を壊さない程度なら掛け持ちも可能だ」
ちなみに宇宙廃品回収がなぜ儲かるかというと回収した廃品の量でボーナスがつくからだ。
「他にもモビルスーツやモビルアーマーのテストパイロットなんかもあるが給料が良いがリスクに合わないからおすすめしないな」
(そんなこと言っていいのかな?)
マリオンズがいればテストパイロットはいらないんだよな。いてくれたらマリオンズに余裕ができるから助かるんだけど。
現在、マリオンズはサイド6に2、デギン護衛に1、ムラサメ研究所の手伝いに1、ノリスの手伝いに1と5人も仕事に拘束されているのでやりくりに苦労している。
「僕は開発部へ……それと気分転換に警備部というのはありですか?」
「いいよ。自分で言うのもなんだけど結構柔軟な会社にしたからそういうのも歓迎だ。フラウはどうする?」
「その前に聞きたいことがあります」
「どうぞどうぞ」
「定期的に日本に渡れますか?最低でも年に2回、特に8月中旬と12月下旬!!」
コミケですね、わかります。
ん?この世界のコミケは……もしかしてこの方は……
「貴腐人……いや、年齢的には腐女子なのかな?」
「失礼な!私はふつくしい少年を愛でたいただの淑女です!」
うん、立派に腐ってるな。
連邦高官も真っ青だよ。
アムロもセイラも引いているぞ。でもどこか諦めを感じるから通常運転なんだろうな。
「それでどうなんですか!」
(本当は日本に住もうと思ってたけどSEEDと似た展開が多いこの世界で主役であるアムロから離れるのはリスクが高いのよね……アムロってSEEDで言うキラでしょ?なら一緒について回った方が安全よね。それにこのモビルスーツコスプレ野郎は1人で連邦とジオンと渡り合えるなんていう化け物なんだし大丈夫なはず)
「日本へなら定期的に船と飛行機が出てるからいつでも行けるぞ。休暇も自分で管理して好きに休んでいいぞ。給料もいいぞー」
そういえばブルーパプワの宣伝兼パンフレット兼求人広告があったんだった。
アムロとフラウ、そしてついでにセイラにも渡すとしばし読書タイム——そして5分後。
「ぜひ働かせてください!」
(うわー前世で働いてた会社ってブラック企業だったのね。なにこの給料、サイド7で見たのより断然いいじゃない。福祉充実し過ぎでしょ。それに何よ、同好会活動って……学校じゃあるまいし)
満足してもらえたようで何よりだ。
アムロとフラウは契約書に気軽にサインする……そんなに簡単にサインしたらいけないんだよ。ふっふっふ……いや、冗談だけどね。普通の契約だから別にいいんだけどちゃんと契約書読もうね?
2人には一旦出てもらい、俺とマリオンちゃん、セイラの3人となった。
「まずはアルテイシア・ソム・ダイクンとして活動するか否かを教えてこらえるかな?正直俺達はそれが俺達を無意味に巻き込むなら始末するし、見合った利益があるなら協力もするが……その表情を見れば大体わかるけどな」
「私はセイラ・マスです。それ以外ではありません」
「そうか……それはそれで残念だ」
「そうですか」
美人さんは苦笑いも絵になるねぇ。
「それでご用件は」
「私の素性をご存知なようですから兄のことも……」
「ああ、赤い彗星のシャア・アズナブル……キャスバル・レム・ダイクンのことだろう?」
「はい……行方を暗ましてますが、動向をご存知ありませんか」
いや、それは本当に知らねえぞ。
「心当たりはないな。ただ……もう表に出てこないんじゃないか」
「そうだといいんですが……嫌な予感がしてなりません。どうも兄さんの言動がおかしかったので……」
「言動がおかしい?」
「アクシズを落としてみるのもいいかもしれない、とか、ララァは私の母になってくれる人だ、とか、蒼い死神に慰謝料請求してやる、とか、ドズル死亡m9(^Д^)プギャー、とかです」
……本当にシャアか、それは?
セイラが不安になるのもわかるな。
「わかった。シャアの上司だった紫ババァに問い合わせと足取りを追うよう頼んでみよう。ついでに眉なしにもな」
「紫バ……プフ……眉なし……ふっ……んん、失礼しました。よろしくお願いします。もちろんそれなりの謝礼は用意しますので」
「別に借りでもいいよ。できればその体で——ぐぼほぉ?!」
「ブルーニーさん、セクハラです」
俺が10メートルも飛ばされるだと?!最近マリオンちゃんが人間の範疇を超えてる……もしかして完全体マリオンに上限はないとでも言うのか?!
無駄に広い部屋にしててよかったよ。じゃないと壁に激突して大事になってたな。
そもそも俺の体でそういうナニかができる訳ないけどな。
「そういえばセイラさんはこれからどうするんですか、お兄さんはすぐ見つかるものじゃないでしょうし」
「資金には余裕があるので元々目指していた医者になるつもりです」
「お医者さんですか」
マリオンちゃんズのヒーリングの前にはただの人だけどな。