第八十八話
アイナ達の新婚旅行は溜まりに溜まった有休(休みをあまりに取らない者に与えられる)1ヶ月を予定している。
その間の仕事は最近は政府も落ち着いてきて暇になり始めたシーマとマリオンズ監督のもと猛勉強をさせられ続けているコッセル、そして計算が必要でない俺と偶に速く手を動かしすぎて書類を破くマリオンちゃんズが分担して仕事をしている。
アイナの仕事は接待、営業、事務、人事管理など多岐に渡る……というか実は一番仕事をしている人物だ。
次点はシーマ、続いてマリオンちゃんズ、そして俺となる。
そんな忙しい日々を開始して1週間。
「ゼロ・ムラサメだ。よろしく頼む」
「ああ、よろしく。知っているだろうがブルーパプワ会長ブルーニーだ。こっちが」
「マリオンです。よろしくお願いします…ね」
挨拶が終わるやいなや放たれるプレッシャーにゼロは真っ青。
マリオンちゃんや、どうしたんじゃ?
「いえ、私はともかくブルーニーさんを舐めているような気配がしたので釘を差しただけですよ」
「なるほどな」
ゼロを見ると可哀想なぐらいビクビクしてるんだが……結局はニュータイプ能力があればあるほどマリオンちゃんズは恐れられるわけだ。
俺を舐めているのは見た目で、と言うより恐らくニュータイプ能力の低さを感じてだろうな。
戦って負ける気はしないがニュータイプ能力だけで考えると下から数えた方が早いのは間違いないし。
「言葉遣いを改めろとは言いませんけど、本当に舐めた態度は許しません」
最近少し悩みがあるんだ。
それは……マリオンちゃんズが俺の保護者みたいになってきたことだ。
女の子は成長が早いとは言うけど、早すぎじゃね?
「りょ、了解しました」
ビシッ!という音が聞こえそうなほどの敬礼で返事があった。
「それではゼロがどの程度の戦力になるか模擬戦を——」
「その前に質問がある」
「なんだ?」
「強化人間を元に戻すことはできないか」
「できるぞ」
治療チート持ちであるマリオンちゃんズに不可能はない。
あ、唯一治せなかったことがある。それはバカだ。
「本当に治せるのか」
「もちろんだ。しかしお前は治さないぞ。正直強化人間でないお前はそれほど役に立つとは思えない」
「なら!研究所にいる苦しんでいる強化人間を——」
「治してずっとモルモットにされ続けるだけだぞ」
「…………」
治すことばかり気にしすぎて、その先を考えてなかったな。
「そういえば強化人間ってどういうことされるんだ?」
「よくわからない薬物や訓練をされた後……」
言葉が一旦途切れたかと思うと、ガクガクブルブルと震え始めた。
「ゴ○ブリの風呂に叩きこまれたり、蜘蛛を何十匹も這わされたり、ゲイにガチされたり、延々と穴を掘っては埋め掘っては埋め……」
「ああ、もういい。わかった。今日は休んでいい」
まだブツブツと不吉なことを言っているゼロをマリオンズが引きずって退室。
いや、強化人間にはトラウマが必要ってのはわかるけど、なんか間違えてないか?でも平和的といえば平和的なんだよね。
身内を虐殺するとか恋人殺すとかよりは……第三者からすればマシなんだよな。でも当人からすれば地獄だろう。
「マリオンズにはそんなことしてないよな」
「既にニュータイプの私達にそんなことしませんよ」
若干顔色が悪いマリオンちゃん……まさかジオンで?
「いえ、ただ想像してしまっただけです」
想像するだけでも嫌だよな。
そもそもこれって治療というより記憶を消し去るって方向性じゃね?
もしこれを治療してゴ○ブリの風呂に入るのが常習になったらヤバイ。
原作ではトラウマを抉(えぐ)って人工的にニュータイプにする研究だったがこちらではトラウマも込みでの研究らしいな。
「あんまり見たくないけど1度は視察した方がいいのかなぁ」
「アイナさん達が政情の関係で新婚旅行から外したのは僥倖ですね」
全くだ。
アイナ達は無事帰還。
幸せそうなのでよかったよかった。
「サイド6の様子はどうだった」
「戦争にほとんど巻き込まれなかっただけのことはあって経済は安定してます。貿易の成功で自信ができたのか農業コロニーを増やす計画があるようです」
コロニー落としの異常気象はしばらく収まる様子がないので間違いはないだろう。
異常気象になるならニューギニア島も涼しくなったりすればいいのに。
「事業の方も順調そのものですね。強いて言うなら廃品回収部がサイド6付近の廃品が乏しくなってきたのでフィッシュボーンで遠出するようになってきたので宇宙海賊が心配なぐらいです」
「警備部は遠征用の艦を保有することは制限が掛かって遠征は難しかったが同乗させれば治安向上にも繋がるかな」
警備という性質上、艦が必要なんだがサイド6自体の軍より大きくなると面目が立たないということで艦やモビルスーツ保有に制限があるのだが……サイド6の軍が小さすぎるんだよ。
「それでは費用が掛かり過ぎますけど」
「サイド6に少し負担させる。もしくは警備部の制限を緩くするように掛け合うさ。もっともサイド5のコロニーが完成させれば問題ないんだけどな」
「それはいいのですけど……コロニーに移住させる人はいるんですか」
うむ、実は最近それに悩まされているんだよ。
ニューギニア特別地区では人口は足りていない現状で移民なんてさせる意味がないのだ。
「移民ではなく、出稼ぎという形にすればなんとか……」
「ニューギニア人が出稼ぎですか」
のんびりした風潮が強いニューギニア人には無縁の言葉だよなー。
唯一の救いは子沢山を推進したおかげで妊娠ラッシュで、人口増加が見込めることか。
「戦争が終わったので貿易の伸びが留まるだろうと思っていたんですけど、今現在もなぜか伸びています」
「多分関税の違いだろうね」
連邦—サイド6間とニューギニア特別地区—サイド6間ではかなり関税率が違う。
まぁそもそも連邦製品はどれもこれも高いんだよな。
「他の地域では特にこれといった問題はありませんでした」
「ご苦労様、つまり順調に商売繁盛ってことだな」
「そうですね。強いて問題があるとすれば……フラウさんの趣味が浸透してきているということでしょうか」
「…………早急に対処しよう」
「お願いします」
(シローで掛け算とか許さない。それは私だけの特権!)
1週間後、フラウは日本へ出張することになった。
もちろん勤務先はムラサメ研究所で、ニュータイプに強化人間の処理を施せばどうなるかの実験をして貰う予定だ。
そういえば、物流に押し潰されそうだったマスドライバーだが、無事2レーン目が完成した。
それでも24時間運営に変わりないが、秒単位のスケジュールが分単位のスケジュールに緩和されたのは大きい。
他国の情勢は微妙だ。
経済に比較的余裕があるジオンは勢力争いが本格化してきたらしく、新兵器開発に余念がない。
ギレンはサイド3はもちろんとしてア・バオア・クーやソロモンを勢力に組み込んでいるので圧倒的有利で、キシリアはグラナダを拠点にアナハイム、サイド6と友好関係で侮れない勢力だ。
ジオン地球領は俺達が関与している関係上、ほぼ放置。
ギレン派はアナハイムとは軍需以外で繋がっているが軍需はあくまでジオマッド社を主軸としている。
それに比べてキシリア派はアナハイムとはどっぷりな関係でドムII宇宙仕様を導入するという話だ。
連邦は最初こそ復興に積極的だったが、喉元過ぎればなんとやらでだんだんと動きが鈍くなってきている。
ロシアとも偶に小競り合いが起こっているが……どうもこの小競り合い、復興を遅らせて敵意をロシアに向けることで時間稼ぎをしているようだ。
政治家の腐敗が進み、自分が優遇する企業にばかり仕事を回すようにして私腹を肥やしているというのはイーさん談。ただ本人もそれをしているというのがなんとも……
そうして企業を優遇するのはいいんだけど、自分達の力以上に仕事を請け負った結果多くの復興が停滞しちゃってるんだよな。
仕事は腐るほどあるのになぜ独占したがるのか。
ジャミトフさんも憤慨していた。
特にアフリカは酷い、やはり積極的にジオンに協力した関係で後回しにされているから余計にジオン派になっちゃってる。
将来アフリカ解放戦争とか起こりそうな予感……ないかな?そんな余裕はしばらくないだろうし。
オーストラリアは俺達が復興を掲げて積極的に行動しているので少しだけマシ。
ただ、復興面倒だから移住するって人も結構いるためオーストラリアの政府自体からは迷惑だと苦情も着ている。
早々、世界が広いから忘れ去られてるっぽいニュージーランドにも手を伸ばした。
コロニー落としの被害が結構酷いのに世界中それどころじゃなかったから忘れられてるっぽいんだよな。
ニュージーランドはニューギニア島と境遇、風潮などは似ていて、自然がたくさんあるが故に産業に制限を掛けられて貧困層に落とされてる。
そこそこ利権に食い込めそう、ニューギニア島の海底食材が尽き始めたから範囲を広げれたら嬉しいよな。
廃品回収してる分の資源は会社の資源だから手が出しづらいし……
「あ、いっそ宇宙で暮らすか」
「いいですね!サイド5を再建するって名目で行きましょう!食料がいっぱいですよ!」
会社はアイナがいれば大丈夫だろう。