第八十九話
宇宙に移住しようとしたらアイナ達に全力で止められた。
せめて日本と中国の関係が落ち着くまで待って欲しいとのことで仕方なく俺達が折れた。
そうそう、ミサイルランチャーに新バージョンが追加されることになった。
それは……人食いハロこと、対人兵器仕様のハロが完成した。
ミサイルランチャーから射出して街や施設を制圧するハロ。
基本は非殺傷モードでトリモチ、ワイヤースタンガン、スタングレネードなどで対応して無効化に失敗したら人食いモードで機関銃や対戦車砲(1発のみ)が使用される。
なぜ最初から人食いモードではないかというと、実はミノ粒子が散布されてるとハロの演算機能単体では兵器の識別などはできるが民間人か兵士かの区別が付かず、無闇に虐殺するわけにはいかず、こういう形になったわけだ。
一応テストをしてみた結果、ファンネルとは違って個数制限がなく、燃料消費で生産し続けることが可能だと判明した。
予測の段階だが俺達の意思が反映するファンネルは身体の延長線扱いだから数量制限がある。
人食いハロは掲示板のように連絡できる(短い文字と画像添付が可能、ミノ粉)が独立状態だから数量制限がない、と思われる。
ちなみにこれを実装した段階でステータスにあった腹部有線ミサイルは多目的ランチャーに名称が変更された。
他の機体には搭載させず、必要な場合はミデアから落として使う予定だ。
会社のSFS生産も落ち着いてクーン製造が月産150に増えて即日完売状態なのだから笑いが止まらない。
こんなことを思っていたからなのか、アイナ達が新婚旅行から帰ってきて4ヶ月経った0081/5月。
日本で幼女連続殺人事件などという非紳士的行為が発生、調査して犯人が中国人だと判明。
相変わらず安心の朝○新聞は相変わらず中国人の名前を日本人名に変えたり、事実をねじ曲げたりして掲載しているのを見て若干和んでしまった。
前の世界では一時期は契約時にもらえる洗剤に釣られて契約したこともあったなぁ。結局新聞読まなかったから鍋敷きになってたな。あ、後掃除道具か。
そんな話はどうでもよく、問題は犯人は既に中国へ逃げるように帰っていたことだ。
民衆の反中国感情が花咲く前の蕾状態だったことはわかっている日本政府は中国政府に犯人引き渡しを要求、連邦の法に則れば事件を起こした地域で裁くことが正しいので引き渡して日本で裁くことが普通なのだが……まぁ、ここまで言えば分かる通り中国は拒否した。
理由は警察内部の反中国感情を抱く者の陰謀で冤罪だから、だそうだ。
この声明で日本人は一気に炎上、それに耐えられなくなった日本政府が謝罪と犯人を引き渡さない場合は報復として宣戦布告すると告げた。
答えはもちろん引き渡し……するわけもなく、素気無く拒否、そしてもう抑えが効かなくなった民衆に政府は折れたという形で中国に宣戦布告。
言ってはなんだがこんなことで宣戦布告する政治家はいないから、裏で軍需産業からの突き上げがあったんだろうね。
俺達も儲かるからいいけど。
とりあえずどれぐらいの戦争になるかわからないがドップブースターの生産を抑えて、クーンに振り分け、ゲルググMの生産をジムクゥエルとジムカスタムに振り分ける。
恐らく日本も中国も1度軍を整えてしまった以上はなかなか軍事放棄はできないはずだから商機はあるはずだ。
そして肝心の日本軍の動きは……早速切り札であるはずのアプサラスIV(パイロットはもちろんマリオンズ)を前面に押し出し、侵攻を開始。
目標はジオン独立戦争の際に真っ先に落ちた上海に侵攻、前大戦で得た情報もあってのことだろう。
戦力はクーンの数は300機、ズゴックDは600機、ジェット・コア・ブースター2000機、その他旧式っぽい護衛艦や空母が50隻で侵攻中。
いやー艦の情報なんてほとんど知らないんだよ。
ああ、そういや潜水艦がいないのはなんでだろうね。
ズゴックDはクーンが完成するまでの間に俺達が作ったものだ。
売った数から考えるとクーン200機、ズゴックD200機ほど足りないが防衛かな?
中国も空軍と海軍が迎え撃つ。
ズゴックD2600機、ドップブースター6000機と圧倒的な戦力差だ。
普通に考えれば中国の勝ちだが……
「まぁ、私のアプサラスの前には塵に等しいがな」
「デビルナンバーズがいるから強いんだろ!普通の兵じゃああはいかないよ……しかし圧倒的だねぇ」
ギニアスとシーマ様が言っている通り、空戦は一方的な戦いが繰り広げられている。
アプサラスIVはその力を発揮して次々ドップブースターが墜ちていく、
概要は……まぁ蹂躙、かな?
砲門の斉射で生まれる爆発は40を超える。信じられるか?30門しか可動砲がないのに墜ちるんだぜ。
一斉射で動揺が走り、二斉射で陣が崩れ、三斉射で混乱状態、そうなったら数が居ても烏合の衆で日本軍の空軍も参加して蹂躙して回る。
「戦争を見てこういう感想は良くないとわかってるけど面白みにかけるねぇ」
「ふむ、アプサラスIVの活躍が見れて嬉しいが確かに歯ごたえが無さ過ぎるな」
酷い言われようだな。
この前のマリオンズの報告ではアプサラスIVの射程より外で戦わない連携の練習をメインにしたそうだ。
数が劣勢である分、最大の強みを利用しようということになったそうだ。
神頼みならぬマリオンズ頼み、それを平気でこなしちゃうマリオンちゃんズはさすがだよな。
圧倒的な空中戦とは違い、水中戦は激闘、死闘と言える。
クーンがいくら水中では有利とは言ってもキルレシオ的には良く言っても2:1程度だ。
それでも戦えているのは日本軍の連携の上手さと中国軍「おい、お前いけよ」「なんで俺だよ、お前いけよ」「なんで俺が……」みたいな空気が漂っていることにある。
簡単にいえば、中国軍の訓練された熟練兵士は前大戦で多くが死に、今戦っているのは新兵ばかりっぽい。
それに比べて日本軍は長い間戦争等無縁だったが日本人とドイツ人が特に色濃く出ている良く言えば上意下達、悪く言えば下僕、奴隷根性があるので何十年、何百年経とうと戦えるようだな。
しかしクーンには弱点がある。
それはオプション装備で補っているとはいえ実弾兵器をメインにしているため、弾切れが激しいということだ。
威力は落ちるが弾数が多いビーム兵器は相対的に継戦能力が高いということになってしまう。つまり時間は中国軍に有利にしてしまう……ように思えるが。
「制空圏確保からの〜……対潜哨戒攻撃機ドン・エスカルゴ到着」
アプサラスIVは水中にいる敵に対しては高度を落とせばビーム兵器もある程度有効にはなるが、海上という補給が難しい場所で無理をさせると増援などが来た時に対処ができない。
そこで餅は餅屋、実はアクアジムより戦果を上げているドン・エスカルゴの登場である。
制空圏を確保したのだから脅威はなく、何事も無く空から魚雷が投下される。
直接魚雷が当たらなくても魚雷を避けるために敵の前で態勢を崩すことは死につながる。
近接戦闘をしていたのならドン・エスカルゴの魚雷は味方も巻き込むことになって使えなかっただろうが、中国軍水泳部は数の物を言わせて距離を保ったまま撃ち合いをしていたことが仇となった。
もっとも新兵が多いため、技量が足りないだろうしカラーリングが違うとはいえ同じモビルスーツが入れ乱れると敵味方が識別しにくいから控えたんだろうな。
「初戦は日本軍の完勝か」
「クーンのデータも多く取れた。近いうちに改修案を出す」
「ズゴックDは今のところ変化なし、と……そういえばノリスからの情報だと新型でズゴックIIってのが出てくるって話なんだけど……今回は出てこなかったねぇ」
ズゴックII、どうやらしばらくはズゴックシリーズを押してくるらしいな。
しかしジオンの次世代モビルスーツを投入するとは思えないから改良機か?
そんなことを考えている間に次々中国軍は刈り取られていき、とうとう撤退を開始。
日本軍はこれを追撃して戦果を上げた。
大体だが、日本軍の損害はジェット・コア・ブースター30、ズゴックD230、クーン30。
中国軍はドップブースター2700、ズゴックD1000。
いやー、空は圧倒的だねぇ。
アプサラスIVに限って言えば被弾は1発もないとは恐れ入る。
問題は稼働時間だけか、通常飛行だけで12時間、戦闘込みだと5時間ほどになるからな。
……あれ?絶対数が少ない日本軍の水泳部、ピンチじゃね?30%近くの部員を失ってるんだけど。
中国軍の水泳部も40%消耗してるけど予備兵力はまだまだあるだろうし……クーンが役に立ってないとは思わないが大勢を決するほどの性能はないからなぁ。
まぁこの考え方はアニメや第一次世界大戦時の戦艦への思いと変わらないけどさ、戦争は戦術ではなく戦略なのだよ……とココア閣下が言ってた。
そういう意味ではノイエ・ジールって時代逆行させた品物だね。
やっぱり今のところどこも開発してない水中専用の切り札的兵器の開発しないといけないか?
いやいや、そんなこと言ったらまた水中型アプサラスの開発が始まるぞ。
「それにしてもこれほど落とされるとドップブースターが欠陥品に見えますね」
アイナの言うとおり、ドップブースターは何の活躍もできていない。
しかもアプサラスIVが戦いを支配しているというのが理解されないとジェット・コア・ブースターがドップブースターより圧倒的に優れているように見えるから困る。
簡略化されて作られているジェット・コア・ブースターは会社のスタッフが改造したドップブースターよりスペック的には下のはずなのだ。
「そうですね。まぁ私た——ナンバーズが相手では仕方ないと思いますけど……」
「アプサラスIVは継戦能力の低さが弱点だがそれまでに大勢が決してしまえば弱点ではなくなると証明されたのだからいいじゃないか」
アプサラスIVは兵器として3流だって言ってんだろうが!……とは言わない、俺、空気読メルコ。
ブルーパプワだと運用が楽だが、さすがに他国にそれを求めることはできないから。
「そういえば被弾が少ないから装甲を減らすとかいう案があがってたな」
「ああ。作った私が言うのもなんだが、あのアプサラスは既にナンバーズ専用機に近い。ならば装甲はあまり必要がないだろう。それならば将来的にはIフィールドなどを搭載させれば無敵だと思うのだが」
空飛ぶビグザムですか。
一応ブルーパプワでも遅ればせながらIフィールドの開発に着手している。
そう簡単に開発ができないだろうから投資額は少なく、将来何処かの軍のIフィールド技術を手に入れた時のことを考えてのことだ。
もちろん、Iフィールド発生装置自体ができればいいが……難しいだろうなぁ。
「もっともサイコミュのコンパクト化も打診しなければいけないし、ミノフスキークラフトもどうようだがね」
いやー本当に切実にIフィールドが欲しいよ。
さて、ドップブースターはどんな味がするかな。(自社製品なので今まで食べれてない)