第四十二話
目の前に広がる子供どころか大人であろうとトラウマ待ったなしの光景でまず思ったのは――夕顔の心配だった。
只今戦闘中(1億ズームぐらいしている)で興奮状態にあるが、この後冷静になった時にどうなるかだ。まだまだ心の形が成形され終わっていない子供に人殺しは衝撃があるはずだ。
「ハヤテ……私が、守る」
「こ、殺してくれ――」
敵の懇願を聞き届け、首を斬り落とす……決して夕顔の刀が男の息子を斬り裂こうと動いていたからではない。…………武士の情けならぬ忍の情けだ。
「あ……ハヤテ」
「戦場で1つのことに集中するのはいただけないな。仕事はスマートに」
「はい」
反省した声色で返事をすると狙ったわけではないが同時に私と夕顔は刀を振るう。
無力化というにはあまりにも無残な岩隠れの忍の首が飛ぶ。
そして思うのは……ああ、この光景を受け入れられるのは間違いなく夕顔の……守るべき存在がいるからなのだと確信した。
多分現代の軍人も同じ思いだったに違いない。
人を殺すのに自分だけの欲求では踏ん切りがつかない。なぜなら逃げても構わないからだ。
だが大事な人を守るという行動は命をその存在に預けるということであり、命を預けたならもう迷うことはない。自然と殺すのに抵抗は沸かないのだ。
だからこそ――
「っ!」
首を飛ばした刀の軌道を変更して振るう。そして発せられる金属と金属がぶつかり合う音。
それは苦無……の形をした金属だった。ただしただの苦無ではなく、精錬したものではなくて金属塊を苦無に模したもので切れ味などを求めるべくもない代物だ。これでは牽制程度にしかならない――となると――
夕顔も察したのか示し合わせたわけでもないが2人揃って飛び退く。
そして……それは炸裂した。
ちっ、飛んでくる金属片が嫌らしい。まるで炸裂弾のようだな。
だからと言ってこればかりに意識を割くわけにはいかない。
このタイミングで介入してきたということはおそらく止めを刺したのを隙と捉えて攻撃を仕掛けてきたはずだ。
そして、私達が捕捉していた敵は既に全員確認している。更に言えば影分身が混ざっていることもなく、今の攻撃が影分身によるものならいくら隙を狙うためとはいえ、味方を見殺しにするようなタイミングで仕掛けて来ないだろう。
つまり別口の敵がいるということ、心当たりはある。
「――土遁・土砂崩れ――」
草隠れの里に残っていたと思っていた上忍だ。そしてその予想は的中、雪崩込んでくる土砂の向こう側にその姿を一瞬捉えた。
一瞬だったため幻術を仕掛けることができなかったのは残念だが、幸い立ち回りから察するにどうやら狙いを私達2人に絞ったようだ。これが今、1人のヒカゲに行かれたらすぐにどうにかなるわけではないはずだけど、それでも生存率は高くないだろう。
私達2人ならたとえ相手が上忍であろうと問題にならない……はずだ。実際――
「――風遁・風の舞――」
夕顔が人差し指と親指で輪っかを作り、それを抜くように勢い良く息を吹く。するとその息は何倍にも膨れ上がり、土砂と衝突。
本来、生半可なことでは土砂相手に風では対抗できないのだが、そこに作り出されたのは光景は風と土砂がせめぎ合うものだった。
さすが夕顔だ。反応速度もさることながら、その威力が凄い。
なんて褒めている場合ではないか。