第一話
ここは……何処だろう。
意識がはっきりしない、そして視界もはっきりしない。
ぼやける視界に動く巨大な影。
身体が思うように動いたならビクッと跳ねるところだが、ほとんど動かないので微かに動く程度しか出来なかった。
動く巨大な影は……ぼやけた視界でも正体がはっきりわかった。まさかの人間。
私の体格から考えると相手は巨人、もしかして進撃の巨人が現実に侵食してきたのか?
もしそうなら動けないのはいつの間にかやられてしまったという可能性が高い……馬鹿なこと考えてるな。だが、それなら視界がぼやけているのにも納得でき、る、か?
ああ、意識が遠のく……これが死ぬということなのか。
結果から言うと生きていた。
むしろ若返った……いいえ、生まれ変わったという方が正確か?となると生まれ変わったんだから死んだというのも正解か。
しかし視界がぼやけていたのは生まれてあまり経ってなかったからで、そして巨人はなんのことはない、私の両親だった。
まさか生まれ変わりなんてするとは思いもしなかった。
しかし気になることがある。
それは生まれ変わったのは部屋から察するに日本じゃないということ、公用語が日本語だけど。
日本じゃないという根拠は窓から見える建物が独特過ぎることと何より……壁や屋根を走る人間がいることだ。
ネットの動画でみたパルクールも凄かったけど、目の前で行われているものからすれば水と炭酸水ぐらい違う……自分で言っておいてなんだが意味がわからない。
とりあえず、壁を走っているのは筋力だけで駆けているわけではないのは間違いない。
なぜなら壁を地面のようにして立つことができるから……そういえばこういう姿を昔見たことがあるような気がする。
確かNARUTOでこんなことができるはず……ってよく見ると両親が付けてる額当てが木ノ葉隠れのマーク?まさか両親で中二病かコスプレか……ってわけじゃないか。
どうやら私はNARUTOの世界に転生したようだ。
私が読んだのは怪獣砂狸がナルトに頭突きをしたところぐらいまで、しかもほとんど記憶がない。
覚えてるのは分身、チャクラ、マスク、ルルーシュ、木登り、男の娘、中二眼、中二試験、砂狸ぐらいか。
いくつか怪しいのがあるな。
ルルーシュはコードギアスのキャラだけど、なんか復讐復讐って言ってた俺クールを気取ったキャラがいたってことは覚えてる。
中二眼は確かそのルルーシュの眼だ。どんなものか覚えてないけど。
中二試験、何か違うのはわかるが何が違うかわからない。
あ、お色気の術ってのがあったのは覚えてる。アレは是非覚えたい。
男相手ならある程度の効果がありそうだ。確か里の偉い人に効いたし。
「ハヤテ、ご飯よ」
顔色が悪い母が胸を出して私を呼ぶ。
今の私の名前は月光ハヤテ。
ハヤテとだけ言われると闇の書の持ち主や借金執事を思い出すが自分の名前だから仕方ない。
別に名前が嫌というわけでもないし……うずまきナルトよりは格好がいい。
しかし……授乳に抵抗が——母よ、そんなに押し付けなくても、息が————
1歳になってから半年後衝撃の事実が判明。
この世界の子供が1歳にはしっかり喋ったり歩くことができるというのだ。
それというのも両親が——
「ハヤテは歩くのが遅いけど大丈夫かしら」
「喋りもしっかりしないな」
と言って心配していたことで判明した。
私は前の世界の赤子を基準に演技をしていたから知恵遅れや虚弱体質なのでは、と思われてしまったようだ。
それを聞いて1ヶ月掛けて少しずつ普通に喋ったり歩いたりと慣らしていくと2人は安心したようだ。
よかった。
更に嬉しいのは思ったより早く活動範囲が広がったことだ。赤ちゃんプレイは短いほど精神的負担がかかりづらい。
家から出ることはできないのは残念だが仕方ない、何より現在は戦争中らしい。
そんなハードな世界観だったか?……あ、忍が主役だったか。
「じゃあ父さんは頑張って戦ってくるからな」
「が、頑張って!」
家族と別れて戦場に行くんだから気持ちはわかる。でも、それがフラグにしか聞こえないのは私がサブカルチャーに染まり過ぎているのか、それとも——
「あなた、気をつけて」
「大丈夫さ。今回の任務は補給の護衛だから戦闘なんてそうはないさ」
だからなんでそうもフラグを建築する?!
この世界にはジンクスはないのか!
そう言って出て行った父さんは……1週間後、無事帰って来た。
よかったよかった。いい加減母さんは身体が弱いんだからシングルマザーは無理がある。
襲撃にあって戦闘になり、怪我をしたらしいが命に別条はなく、後遺症もない程度の怪我だったようだ。
父さんは中忍で、絵に描いたような凡人と母さんからは言われていたし、本人も否定しなかったから強いわけではないはずだ。ヤムチャは止めて欲しいものだ。
さて、この世界は暴力に満ちているということはわかった。
こうなると平和な日本で生活していた私の感性は早々に捨てないと命取りになる可能性が高い。
一応忍の道ではなく、一般人としての道も用意されているようだけど、率先して殺し合いはしたくはないが自衛手段がないのはなかなかにリスキーだと思う。
狼の群れが周りでウロウロしているのに羊を選択する度胸は私にはない、狼が周りにいるなら私はマシンガンを乱射して一掃した後でのんびりしたい。
目指すは負けない忍!と父さん達に宣言すると微妙な顔をされた。
それが忍なんてヤクザな職業に就く自分達の息子への心境なのか、私の告げた目標に対しての心境なのかは不明だ。
2歳になると本格的に忍の訓練を……するわけがない。
まだまだ成長期の途中な私はとりあえず体力作りに精を出している。
重い筋肉をつけると身長が伸びなくなると聞いたことがある……が、あれは本当なのか?正直身長なんて伸びるやつは伸びるし、伸びないやつは伸びないんじゃないかと思う、けど、やはりリスクは回避すべきだろう。
そして黙々と体力作りをしていると、たまに父さん達の微妙な眼差しをよく受けるんだが、なぜ?
後で知ったんだが、2才児が黙々と体力作りなんて地味なことをしている光景がなんとも言えないものだったらしい。よく考えたら子供なんだから派手な技とか武器の使い方とかに目移りするよな。
「ハヤテくんおはよう」
「卯月さんおはようございます」
卯月さんは私の家のお隣さんだ。
なんで卯月家はなかなかの家らしく、大体の人が要職についているそうだ。
そして今挨拶しているのは卯月家当主の奥さんで、日頃は優しいお姉さん(ここ要注意、テストに出るぞ)だ。しかし怒ると手裏剣が分身して襲ってくるから要注意だ……奥さんまで忍とは恐れ入る。
ちなみに卯月さんは父さんの上司の上司だったりする。今からゴマを擦っておくべきか?
「外に出ても大丈夫なんですか?もうそろそろですよね」
卯月さんは妊娠している。しかも出産予定日が近いはずだ。
いくら卯月さんがエリート血筋で忍として鍛えて丈夫であっても出産は命がけなのはこの世界でも変わらない。
医療忍術なんてものが最近普及し始めたおかげで出産リスクは以前から比べて随分低くなっているのは良いことだ。
しかし医療忍術は最近開発されたものであると同時にチャクラコントロールが優れた者でないと効果が薄いことから使い手と言える忍は戦争中の現在は希少で、大きい病院には常駐しているが小さい病院や診療所などには常駐していない。
そして私達が会ったのは家の前で、家から大きい病院まで随分離れている。この離れているというのは子供基準ではなく、常人の大人基準で、だ。忍基準だと……わからない。まだ忍がどの程度のスペックを有しているのか情報にない。
これでも一生懸命勉強しているのだが忍に関しては規格外過ぎる上に、上忍から下忍まで差があり過ぎて一概に言えない。
「大丈夫よ。ちょっと花壇にお水をあげて、夕飯を用意すれば病院に帰る予定だから」
「……いや、花壇の水やりも夕飯の準備も誰かに頼めないんですか?」
普通の家庭ならともかく上流階級の卯月家は使用人がいる。
それなのにどうして?
「実はね。あの人ったら私の卯の花を食べたいって言うもんだから」
まさかの惚気話…………って、いやいやいや、何やってんの当主さん?!
出産予定日間近の妊婦さんにそんなことで病院から引っ張り出すなよ!
「……私も手伝いましょうか……いえ、手伝います」
「え、でも用事が——」
「ありませんから、ただの散歩ですから」
「そう?じゃあお願いしようかしら」
さすがにこの状態で放置なんてできませんよ。
「実はね。使用人達も戦場に出ちゃっててね。今は5人ぐらいしかいないのよ」
本当の事情はこっちだったのか。
と言うか、このタイミングということはもしかして思ってたこと表情に出てたか。
……駄目だ。私では卯月さんの表情からは何も読み取れなかった。
元々卯月家の人達は表情の変化に乏しい人達だから私の未熟さだけではない、と思おう。
お邪魔します、と告げて卯月さんの家に上がると早々に一言。
「じゃあ早速お掃除お願いするわね」
「……あれ?」
なんか言ってたことと違わないですか?確か花壇の水やりと夕飯の準備だったよな?
そう訴えようと卯月さんを見るとジーッと私を見つめる。
「そんなに見つめられると……わ、わかりました。わかりましたよ。やりますから」
「嬉しいわ。ありがとう」
その言葉とは対照的に表情は全然嬉しさ0ですけどね。
まぁ使用人が5人しかいないとなると30以上もある部屋を掃除するのは大変なのはわかりますけどまだ幼子と言っていいレベルの私に任せられてもできることは限られる。
「もちろんできるだけでいいわよ」
「了解です。ただ、大事な身体なんですから無理はしないでください」
「ええ、気をつけるわ」
よく考えれば子供、しかも2歳程度でしかない子供に料理の手伝いなんてさせないか。
水やりはすぐに終わったし。