第四十一話
本当に理不尽です。
欠けた瞳である私ですが幻術なんて学校の授業で初めて掛けられた時以来掛かったことなんてなかったのに、まさか警戒している状態から掛けられるなんて思いもしなかった。
そんな彼……月光ハヤテ君は初任務、初実戦でも見た限り十全に能力を発揮し、岩隠れの忍の首が飛んだのが目に入ってきた。
いつ幻術を掛けたのか、側で対象となっていない状態で見ていてもわかりません。しかも本領は幻術ではなく、分身系の術のようだし……理不尽です。
「あまり余計なことを考えていると思わぬところで足元を掬われるぞ」
ちょっ?!喋らないでください!首に息が掛かります!
全く、いい加減嫁入り前の身の乙女の服の中に影分身とはいえ潜り込んでいるんですからもうちょっと気を使ってください!
もちろん死角を警戒して頂いているのは助かりますけど……命には代えられないですけど!
「ちっ、なんだかおかしいと思ったらこの女、白眼か!」
あ、せっかくバレにくいように立ち回って隠してたのに……あ~あ、私とは違った意味で目の色変えてしまった。
「しかも片目ってことは移植か」
違うわよ!私は天然物よ!失礼ね!
「本体の私は夕顔の援護に行ったが大丈夫だな」
年上の矜持、見せてあげます。と微笑みで応える。
見えていないと思うけど、多分伝わっていると思う。ハヤテ君は察しがいいから。
「期待しているぞ。先輩」
先輩に対して生意気ね。
私が日向であることをわかったことで、敵は日向が無類の強さを誇る近接戦闘は止め、距離をおいて印を組み始めた。
舐めてもらったら困る。
大嫌いで憎んでいても変えられないこの体に流れる血は間違いなく木の葉にて最強。
「この程度でどうにかなると思われるなんて心外よ」
……期待されて嬉しくて気合が入ったあたり簡単な女なのかしら、私。
チラッと近くで戦っていたヒカゲの様子を窺ったが、さすがは実戦経験者。精神に余裕がみられる。
精神年齢では私の方が上だが、世界が違うと意味をなさない。
ということでヒカゲの方が任せるとして私は夕顔の援護に向かうことにした。
……のだが、そこに見えた光景は――
「……ハヤテ……殺す……許さない」
「ぎゃー!」
転がるのは岩隠れの忍達、そしてそれには共通するものがあった……いや、共通するものがなかった、か?
岩隠れの忍達は全員地面に転がっていた。それもそのはずで彼らには立つための足が太ももの真ん中あたりから切断され、印を結ぼうにも両手共に手首から先が切り落とされてしまっている。
しかし、不思議なことに出血がない。どうやら私の知らない忍術を使っているようだ。
そして肝心の夕顔は――
「簡単に……死なせない」
「や、やめ――ぐあー!」
もう無力化されている岩隠れの忍の1人の脇腹から刀を突き刺す……が、これも出血していないように見える。
それによく見ると丁寧に臓器を傷つけないような角度か?妙なところでその技量を魅せるな。
「ハヤテ、死なない」
いや、私より夕顔さんの瞳が死んでるんですが。