本編を進めたかったのですが九十話あたりからスランプに陥っていて
少し時間が欲しく、こんな作品を書いてみました。
楽しんでいただければ幸いです。
第一話
……ここは何処じゃ?
周りを見てわかることは、森であること、雲一つない青空、そしてその空を気持ち良さそうに飛んでおる鳥が……ん?こっちに向かって降りてくるよう、じゃ……な?!
「いやいやいやいや、なんじゃアレは?!」
空を飛んでおったからわからんかったが明らかにバスぐらいのサイズあるぞ?!どうやって飛んでおるんじゃ!
……む?こっちに向かって、降りてきておる?
「まさかとは思うが……」
「ギュエーー!」
「吾を襲う気満々じゃ?!」
とりあえず、吾は三国志の……いや、恋姫の世界ではない世界にやってきてしまったようじゃということがわかった。
死、死ぬかと思ったのじゃ。
何とか木を縫うように走ることでなんとか振り切ることに成功したんじゃが……くっ、吾の服では森を走るどころか歩くにも不便じゃ。
一応吾の服は于禁の魔改造によってコンバーチブル化(服の一部を取り外しして季節に対応)しておるが……森の中で肌の露出を増やすのは命取りになる。そもそも現代日本ですら森に入る時は長袖長ズボンが推奨装備じゃというのに未知の世界の森で薄着などと死に急ぐようなものじゃ。
……ハァ、少し余裕ができると……鬱になってくるのじゃ。
思い出した。思い出してしまったのじゃ。
吾は色々な意味で燃え尽きてしまった太平要術の書の灰をマトリョーシカ的に壺を重ねて厳重に封をしておったんじゃが、突然七色に光って……封を切って中を確かめるとなぜか鏡があったのじゃ。
それを覗いたら……次の瞬間には森の中におったのじゃ。
「あれは……ひょっとすると……ひょっとしなくても無印で北郷一刀を外史に連れて行った鏡と同一の物……なんじゃろうなぁ。認めたくはないが」
もし……もし、もしそうなら……もう七乃にも華琳ちゃんにも紀霊にも魯粛にも孫権にも周泰にも甘寧にも公孫賛にも関羽にも孫策……はどうでもいいか……周瑜にも……これもいいか……皆と二度と会えない、ということ……か。
ああ、激しく鬱になりそうじゃ。いっそこのまま死んでもいいぐらいじゃ。せめて、せめて……とっておきの蜂蜜を食べておけば!!
「……ジョークを言えるとは吾もなかなか余裕あるの」
いや、間違いなく本心の一部ではあるがさすがに七乃達に会えぬ寂しさからすれば小さきことじゃ。
日本の時よりずっと確かで強い絆であったと思える分だけショックが大きい……皆、吾がおらんでも大丈夫じゃろうか。
吾の黄金律がなくなって商会は維持できるのじゃろうか、もし出来ぬ時は……大恐慌待ったなしじゃな。黄巾の乱の比にならぬ死人が出ることじゃろう。
せめて引き継ぎ作業が出来たなら……言っても詮なきことか。魯粛達に期待するしかないのぉ。
さて、皆の心配をすることをやめ、これからのことを考えなくてはならぬ。
これぞ戦わなきゃ、現実と、じゃな。
後、太平要術の書or鏡、今度見かけたら容赦はせんぞ!
……まずはサバイバルとして大事な荷物確認は必須か。
吾自身、服、満杯蜂蜜樽(十リットル)、脇差二本、投げナイフ十本、以上じゃ……太守が自分のテリトリー内にいる時にそれほど立派な武装をするはずがないので十分な装備じゃろう。本来なら食料など携帯しておるはずがないからの。
もっとも見知らぬ地の、しかも森の中ではかなり貧弱な装備としか言えんがな。
「まず確保せねばならぬのは水か」
蜂蜜があると言っても有限じゃし、やはり生き物の基礎である水の確保が重要じゃ。
試しに地面に耳を当ててみる。
行軍中にこうして川を探しておる者がおったが……うむ、わかったぞ!吾にはさっぱりわからぬことがわかったのじゃ!
まぁ、物は試しにとやってみただけじゃしな。それほど期待してはおらんかった……本当じゃぞ?
むぅ……となると直感で動き回るしかないかのぉ。本来なら動く指針となる太陽も森の中では確認しづらい。
目的地も何もあるわけではないので一定方向に進めれば良いだけなのじゃが……ただ、先ほどの怪獣とも言える鳥のような動物がウロウロしておるようなら吾の命もあまり先は長そうにないのぉ。
ぐあ、もう嫌じゃ。
疲れたのじゃ。七乃!牛車を……などと言っても仕方ないとわかっておるのじゃが、疲れたものは疲れたのじゃ。
「こちらに来てから四日か」
水の確保自体は行動を始めてから割りとすぐに見つかった。
川なら定番通り辿って下流に行けば……とも思ったが、見つかったのは湖じゃ。しかも川どころか沢すらもない。
湧き水か、雨水が溜まっておるのかは知らんが湖には吾から見て、外部から水が入っておる様子はなかったのじゃ。
幸い、水は透き通っておるから飲むのに抵抗はない。寄生虫やウイルス?そんなもの気にしておったら本当の意味でのサバイバルなんぞできんぞ。
よくテレビや雑誌でサバイバルは身体を壊すと命の危険があるので飲水は一度沸かして安全に〜……などと言っておるが、それは安全で、道具があっての話じゃ。
今の現状でそのようなことが確保できるわけがない。
あれらが語っておるサバイバルはサバイバル(笑)じゃからな。
そもそも水を沸かす火は何処から手に入れる?燃やす物は?青々とした草木しか無いのにどうやって燃やせというのじゃ。
まぁ何より火をどうにかできたとして、この世界の動物が火を好まぬという保証は何処にあるというのか。
未知の世界とは生きるだけでなかなかに難しいのぉ。
恋姫の世界はゲームの世界という異世界とはいえ、基礎となる部分は現代と変わらなかった。色々と妙な世界ではあったが変わらなかった。
しかし、この世界は根本からして違う世界じゃ。あの車より大きい鳥がそれを示しておるし、手の平サイズの熊などというわけのわからん動物がおった段階で間違いないじゃろう。
ちなみに手の平サイズの熊は遠くから見かけただけじゃが……鹿っぽい動物を一撃で仕留めておった……見た目と大きさはあてにならんことがわかったのじゃ。
それで湖を拠点とすることが決まったわけじゃが……幸い、水を運ぶには適した物があったのじゃが中にはまだまだ蜂蜜があるため当分は持ち運べぬため湖の周りを探索することとした。
周りとは言ったが一日で往復できる距離を真っ直ぐ進んだだけじゃがな。
外周を周るように探してもどうせ人はおらんからの。村や街を探しておるんじゃから地形把握は後回しじゃ。
そうして三日費やしたんじゃが……成果は無し。
まぁ、森の中を移動するのはなかなか骨が折れるからの。
「七乃……七乃、蜂蜜を持て……」
「はい、お嬢様!」
ん?幻聴か?ここにおらんはずの七乃の声が聞こえたような?
「お嬢様?」
また声が……周りを見渡しても誰もおらん……これは本格的にやばいかもしれぬ。
木の実のどれかに幻覚作用でもあったか?
「お嬢様、上ですよ。上」
上?まさか七乃の幽霊……ハ?
「お嬢様?」
「……七乃?」
「お嬢様!」
「七乃!」
「お嬢様!」
「七乃!」
「お嬢様!」
………
……
…
しばらく抱き合って過ごしたが、まぁ一つ疑問があるのじゃが……
「おぬし、いつの間にキメラ……幻想上の生き物になったのかや?」
今の七乃はいつもの服装なのじゃが……大体四十cm程度の大きさで、蜂の羽のようなものが背中にあるのじゃ。
七乃が妖精?まぁ悪戯好きなのは間違いないが……
「それがですねー。私は七乃であって七乃ではないようなんですよー」
「ん?どういうことじゃ?」
「お嬢様に分かりやすく言うと念獣ってやつなんです」
「念獣…………まさか?!」
「そのまさかなんですよー。どうやらこの世界はHUNTERXHUNTERの世界みたいなんです」
「な……なんじゃとーーーーーーー?!」
そんな馬鹿な……いや、元々恋姫の世界におったんじゃから否定するのはアホらしいことか。
むしろ、念獣とはいえ、七乃という仲間ができたのは良いことじゃ。
「ん?ということは吾、念能力者なのかや?それとなぜ七乃がHUNTERXHUNTERを知っておるんじゃ?」
「お嬢様は今、念能力者と言えるかどうか微妙なところですね。一応『発』は使えますがそれだけで念能力者と言って良いのかどうか、それにこの『発』にしても私のオリジナルがお嬢様を思う念に助けられて発動してますから」
なるほど、簡単にまとめると七乃の変態乙、じゃな。
そこまで思われておるのは嬉しくあるが、思いが重たいとはこのことを言うんじゃな。
「あ、ちなみに私はお嬢様の念獣ですから知識は共有できてますよ」
……え、ちょっと待つのじゃ。それは不味くないかや。
吾の知識を知る七乃……ヤバ過ぎる存在が生まれてしまった気がするのじゃ。
「そ、それで今の七乃は何ができるんじゃ?」
「空が飛べます」
まぁ今飛んでおるからな。
「喋れます」
確かに念獣にしては凄いのぉ。
でも、吾はそういうことを聞きたいのではなくてじゃな……。
「念を蜂蜜に変えれます」
「おお!それは凄いのじゃ!これで蜂蜜食べ放題じゃ!」
これで食料の問題が解決するのじゃ!
それで他にはどんな能力があるんじゃ?
「以上です!」
「…………」
「そんなに見つめられると照れちゃいますよー」
「…………」
戦闘能力皆無、じゃな。
早いところ人がおるところに行かなくてはならんな。
幸い七乃は空を飛ぶことができるんじゃし、なんとかなるはずじゃ……多分。