第二話
「では七乃!早速上から人が居りそうな場所を探すのじゃ!」
「ガッテンでさー!」
……吾の知識が共有されておるせいで七乃が妙なキャラになりそうな予感がするのじゃ。
しかし、変なキャラになろうがなんであろうが今、この時、そしてこの先もずっと力になってくれるパートナーじゃ。
七乃の思い(念)、ありがたく受け取るぞ。
まぁ、多少マシになったとはいえ、HUNTERXHUNTERの世界で吾と七乃(念獣)ではどの程度生きられるかは疑問ではあるがな。フッハッハッハッハ……いや、前向きに行くべきじゃな。ドラゴンボールや北斗の拳などの世界でなくて良かったと思うとしよう。
さて、探索が可能となれば人里に出ることもそう難しくはなかろう。少なくとも探索は効率良くなるはずじゃし、超大型生物と出会うことは減るじゃろう。この世界なら恐竜みたいな生物がおるじゃろうからな。
それに七乃を先行させれば危険も減る。いざとなれば囮にして逃げることも……ん?念獣って一般人や動物に見えるんじゃろうか?ああ、でも名前は忘れたが、自分の分身……確かダブルとかいう念能力はスクリーンに写っておったようじゃし、一般人にも見える……のか?そのあたり原作で説明あったかのぉ?さすがに二十年以上前の話じゃから憶えておらんぞ。
えーっと、原作知識は……ハンター試験、キルアが暗殺一家、蜘蛛、ゲーム、亜人っぽいやつら……という流れだけで色々憶えておることが歯抜けじゃな。
キャラの名前もゴン、キルア……後は思い出せん。顔は出てくるからその時になったらわかるじゃろ。変態ピエロあたりは名前が出てこんでも知っておる者なら通じるじゃろうな。
あ、でも今はいつなんじゃろ。恋姫の鏡的に考えれば原作スタートより少し前ぐらいじゃろうか。
「お嬢様!街らしいものが見えましたよ!」
「おお、思ったよりも幸先が——」
……ちょっと待て、ここはHUNTERXHUNTERの世界じゃよな?言葉って日本語なのかや?文字はどうなんじゃろ?少なくとも恋姫は言葉日本語で漢文じゃったが……今考えると中国語を覚える必要がなかったのは恵まれた環境であったんじゃな。
言葉が通じない場合かなり厳しくなるじゃろう。
「七乃、この世界の言葉がわかったり……」
「しませんね」
「じゃよなぁ……なら戦闘力はどの程度なんじゃ?」
「一般男性よりは強いですけど二人だと負けちゃう可能性が高いですね」
……基本スペックが以前と変わっておらん気が?
念獣がこれほど弱いってどうなんじゃ?
「あー、お嬢様、私が弱いと思ってますね?!違いますから!全てはお嬢様がへっぽこなせいなんですよ!」
「うぐっ」
そういえば吾自身が念能力者として中途半端な存在じゃったな。
原作で言えば……確か名前は覚えとらんが紙に詩を書く能力者の女がおったと思うが……それと同等かの?記憶は曖昧じゃが何処かの令嬢だったような?
「ならば吾が成長すれば七乃も強くなるのじゃな?」
「ええ、強くなりますよ。今よりは」
……あまり期待せん方がいいじゃろうな。
吾と七乃じゃからな。戦闘能力なんぞ知れておると思うべきじゃろ。
そもそも戦闘センスは吾も七乃も凡人じゃからな。華琳ちゃん曰く、凡人よりは劣ってないらしいから鍛えれば三流ハンターぐらいになら勝てるやもしれん。
「さて、その街に向かうとするか。七乃道案内兼偵察を頼むのじゃ」
「お任せください」
「ところで距離はどの程度じゃ?」
「三十キロぐらいですね」
「……全て森か?」
「少し手前まではそうですよ」
道なぞ無い森を三十キロ歩く……じゃと?!
絶対一日では着かんな。
今までは吾が入れるぐらいの樹洞(木にできた穴のこと)で寝泊まりしておったが、ここから移動するとなると安全(と思うことにしておる)に寝起きできる場所がなくなるではないか。
それに水の心配もあるし……これはなかなかに難易度が高いのぉ。
食事に関してはまだ蜂蜜があるから大丈夫なのじゃが……そういえば七乃が蜂蜜を集められると言っておったな。どうやって集めるんじゃろ?
「私が念を食べて集めます」
ふむふむ。
「ゲロって出来上がり!」
…………ここはご褒美ありがとうございます!とでも言えばいいんじゃろうか?吾にスカトロ趣味はないんじゃが……まぁ蜂蜜に貴賎はあらずじゃがな。
ん?スカトロ?HUNTERXHUNTERにそのような名前のキャラがおったような?
「そういえば確認するのを忘れておったが、七乃は蜂でいいんじゃよな?」
「もちろんです。七乃蜂とでも呼んでください」
「いや、普通に七乃でいいじゃろ」
「あ、名前といえば私……というか私という念能力の名前を決めましょう。念能力はイメージやインスピレーションが大事ですから名前を決めるだけでも何かが変わると思いますよ」
「なるほどのぉ」
七乃が吾の知識を手に入れたから心配しておったが、吾が気づかぬことも気づいてくれるというのはありがたいのぉ。
ふむ、名前か……
「あまり凝った名前もどうかと思うので忠臣蜂<ロイヤルワーカー>というのはどうじゃ」
「直球過ぎますよー固すぎますよー。どちらかというと紀霊さんっぽいじゃないですかー」
「吾にとって昔から今までも、そしてこれからも七乃は忠臣じゃよ」
「お嬢様…………それは愛の告白ですね?!そうですね!いえ、そうです!」
「さて、能力に名前付けしたが何か変わったところはあるか?」
「……さすがのスルー力、こうやって数多くの乙女を誑かしているんですよねぇ……あ、変わったのは全体的に私がパワーアップしましたね」
「ほほー、本当に意味があったんじゃな」
うむうむ、今の状況では少しでも戦力強化はありがたいことじゃ。
さて、そろそろ移動……するのは明日じゃな。もう太陽が沈み掛けておるにおる。
明日の朝早くから行動することにしよう。
「ところでお嬢様は何処でお休みに?」
「今はそこで寝ておる」
「……この穴で、ですか?」
「うむ」
「……お嬢様が野生児に?!そういえば……ばっちいですね」
「仕方なかろう。ここは南陽ではないのじゃから……そもそも人里ならなんとでもする自信があるが大自然が相手となるとどうにもならん」
「服ぐらい湖で洗えばいいんじゃないですか?」
「替えの服がないわ!!」
「……あ」
どうやら七乃はあちらに居た頃の感覚がまだ抜けておらんようじゃ。
まぁあちらでは物に困ることなんぞなかったからわからんではないが。
「じゃあせめて寝床を改善します」
「ん?何をするんじゃ」
こうするんです!と言うと口から透明な何かを樹洞に吹き出した……何かはわからぬが見るからにベトベトしてそうなんじゃが……まさかあのベトベトの中で寝ろというのか?
ん?今度は羽で扇ぎ始めたぞ……しばらく時間が掛かりそうじゃからその間に木の実でも採ってくるかの。
今まではどれも怪しくて食べることができなんだが、今ならちょうどいい毒見役もおるしの。
適当に木の実を採取しつつ体内時計で約三十分ほどしてから戻ってくるとそこには……なんということでしょう〜。
「おお、そうか……そういうことか」
「はい。私は巣を構築する際に使う蝋を生成することができます。それにこの蝋は念を付与されてますから普通の人ではなかなか壊せませんし、ちょっとした個室になってますから虫に悩まされることもありませんよ」
しかも蝋が樹皮と似た色になっておって擬態までしておるではないか。
「さすが七乃!あっぱれじゃ!」
「いや〜それほどでもありますよー」
それにこれからの移動先で寝床に困らぬのはありがたいのじゃ。
これなら……嫌じゃが、すっごい嫌じゃが蜂蜜樽の空きに水を入れるか……ああ、せっかくの蜂蜜を薄めるなどという愚行をせねばならんとは……くっ、これが神が与える試練というなのかや。試練なんぞ不思議のダンジョンだけで十分なのじゃ。一周マムルに挑戦して何度心が折れたか。
それはともかく、これで心配事の一つが解消されたのじゃ。
「ただですね。蜂蜜と蝋を作るのには同じ量の念が消費するんですよ」
「…………ということはこの蝋は…………」
「蜂蜜を消費しているのと変わりませんね」
…………。
移動を始めて六日、やっと森の終わりが見えてきたのじゃ。
ん?三十キロ程度の移動に六日は掛け過ぎじゃと?ただの森ならば、まぁ悪路でも既に着いておっても不思議はなかろうな。しかしこの世界はHUNTERXHUNTERの世界じゃぞ?どんな生き物がおるかわからんのにそんなに早く着くわけなかろう。
と言うか十回ぐらいなんとも言えん生き物に襲われた後じゃ。
マジで死ぬかと思ったのじゃ。手の平サイズの熊に遭遇して七乃が何処かのバイ菌人みたいに吹き飛ばされた時にはどうしようかと思ったぞ。
幸い吾は美味そうに見えんかったらしく無視されたがの。それと七乃はいつの間にか気絶した状態で吾の足元に堕ちておった。
理由を聞いてみたところ、吾の半径五キロまでしか行動できないそうじゃ。そして五キロを超えると消える……のではなく、吾の足元に帰ってくるそうじゃ。
まぁ、不便があるわけでなし、問題あるまい……むしろあの手の平サイズの熊が七乃を五キロも殴り飛ばした方が問題じゃろ。
こんなに小さくとも七乃は念獣じゃ。それほど強力ではないにしても念を纏っておるんじゃぞ?それを軽々と……本当に怖い世界じゃ。
これが人間にも行えるというのじゃからこの世界では十分注意しなくてはならんの。
理不尽な暴力がまかり通っておる世界であるし……気を引き締めなければ。
「……おお、街が見えたのじゃ」
森が開けてビルや工場が目に入ってくる。
これはなかなか大きい街であるかもしれんな。
人類生存圏バンザイなのじゃ!文明バンザイなのじゃ!
「さて、問題は言葉が通じるかどうかじゃな。まぁこちらには七乃がおるし、偵察も楽勝じゃな」
「……毒見役のこと、忘れてませんからね?いえ、お嬢様のためなら別にいいんですよ?でもですね。嘘はいけないと思うんですよ。自分は食べたことあるとか言ってたのに実は毒見役とか……いえ、いいんですけどね?」
いや、全然いいと思っておらんじゃろ。
まぁ吾が悪かったとは思っておるぞ。でもあの時は余裕がなかったんじゃ。
「な、七乃〜ゆ、許してたも、許してたも」
「はうっ、あざとい、あざといですよ。お嬢様!でも許しちゃいます。じゃあ偵察に行ってきますね!」
七乃がヒロインならチョロインじゃな。あ、そういえばここではゲロインでもあるんじゃったな。
まだ手持ちの蜂蜜が残っておるから質が落ちる前に食べてしまわんと勿体無いので食べておらんがどんな味がするんじゃろ。
……これでゲロの味とか何処かの金玉を箒に乗って追いかけるスポーツがある魔法使いのチョコのような味じゃったら怒るぞ。