第三話
七乃が偵察から帰ってきた。
「朗報!朗報!言葉がわかります!繰り返します言葉がわかります!」
おお、それは本当に朗報じゃ。
これで随分難易度が下がったの。
「それと残念なお知らせですがやはり文字は全くわかりませんでした。なんですかあれ、絵文字でも描けっていうんですかね」
……一体どんな文字なんじゃろ。不安じゃ。
「あ、検問とかはありませんでしたから普通に入れると思いますよ」
「それは行幸」
これがファンタジーものであったら通行税とか掛かるから入れぬ可能性がある。少なくとも小さいとはいえ借りが出来てしまうからの。常識を知らぬ現状で借りなんぞ作りたくはない。
「街にさえ入れば七乃産蜂蜜を売って——」
「あ、言い忘れてましたが私の蜂蜜はお嬢様と私から離れると1秒ごとに100ミリリットルぐらい減りますから要注意です」
「……そういうことは先に言ってたも」
第一の金策失敗じゃな。
まぁ、吾の能力はどう考えても具現化系か変化系か特質系。
可能性でいうと具現化系>>特質系>>>>>>>変化系という感じじゃな。そのうちコップに水を入れて確認してみるのじゃ。
しかしタイプがどれであろうと放出系は苦手……だったはずじゃから蜂蜜を離して置いておくと消えるというのはある意味納得じゃ。
ん?ということは吾と七乃は念で繋がっておるのじゃろうか?もしそうなら行動範囲が限られておるのもわかる。
もしそうであったなら注意も必要じゃな。今の吾より明らかに七乃の方が戦力となるからの。念能力者同士の戦いであったなら吾も七乃もほぼ正面切って戦わなければいけなくなる。
早く念を悟られぬようにする……陰?じゃったかな?を覚えねばならん。
確か蜘蛛の団長がスキルを盗む能力だったはずじゃ。
もし万が一吾の念能力が——七乃が盗まれてはたまらんからな。(心配しなくてもこんな念能力はいらないと思う)
さて、街の入口までやってきたが……不用心に見張りも居ないが大丈夫なんじゃろうか?獣が……手の平サイズの熊とか街に入ったら大変なことになりそうなのじゃが。
「む、そうじゃ。七乃、おぬしの姿は一般人に見えるのかや?」
「見えてたと思いますよ。何人かが私に気づいて騒いでましたから」
ふむ、七乃の姿は一般人にも見えるのか……では変化系の可能性は低いか?変化系は念の質を変化させるから一般人には見えぬはず……多分。
「一応確認なのじゃが、姿を消したりは——」
「できませんね。それは私の能力というよりお嬢様の能力かと」
じゃよなー。そうじゃないかと思っておったんじゃ。
「仕方ないのぉ。七乃、吾のスカートの中に入って足に捕まっておれ」
「き、き……キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!曹操さんも魯粛さんも紀霊さんも孫権さんも成し得なかった偉業をここで成し遂げます!」
……魯粛と紀霊はともかく、華琳ちゃんと孫権をそこに名を連ねるのはちょっと違和感があるぞ。
「ちなみに余計なことをした場合、折りたたんで蜂蜜樽に入れるからの」
「やだなー。そんなことするわけないじゃないですかー……ゴクリッ」
本当か?いらんことしたら本当に蜂蜜樽の中に詰めるぞ?入るかわからんが……まぁ、入らなかれば何処かの家の屋根でも待機させておくのじゃ。幸い五キロは離れられるし……護衛がおらんなるのは問題か。
そんなことを考えつつも七乃をスカートの中へ収納する……ふむ、重さを殆ど感じぬのは救いじゃな。
さて、街へ突入するぞ。
うん、何事も無く街の中に入れたのぉ。
本当にこんなことで良いのじゃろうか……まぁ吾にとって都合が良いのだから別に良いか。
人里に来られたわけじゃがまず悩むのは資金じゃな。
いくら吾に黄金律があるというてもランクはEXに届かぬから何処ぞの金ピカのように何もせんでも得られるということはなく、経済活動をせねば資金は増えぬからのぉ。
「ううーむ……最初の資金はどうすべきか……借金をしようにも身分証もなければ質に入れる物も……」
「お嬢様、今お付けになっている簪(かんざし)でどうでしょうか。使われているのは金ですし、宝石も散りばめていますから高く売れると思います」
おお、そういえばそんな物があったの。
動くのに髪が邪魔をせんで楽じゃから公務以外ではほとんど付けておったから忘れておった。
余談じゃがこの簪は純金で出来ているため、よく曲がるので扱いに注意じゃ。まぁ曲がっても簡単に直せるのじゃがな……高級だから良いという物ではないな。
「お、この店はネックレスやイヤリングが並んでおるな……んー、偽物や安物っぽい物が多いが……表からだとそんなものかのぉ」
これでも目利きには自信があるぞ。
最近は目利きというより第六感でほぼ答えが出るぐらいじゃ……これも黄金律の影響かもしれんな。
もう少し見て回ってから決めるかのぉ。相場もわからんし、市場調査は大事じゃよな。
……それにしても本当に文字が意味不明じゃなぁ。七乃が言っておったように顔文字に見えるぞ。
唯一の救いは数字が同じであったことじゃ。名前はわからんでも値段はわかる。後は商品その物を覚えればバッチリじゃ!……もっともどういった用途の物かわからぬ物もあるがの。
しばらく街を見て回ってみたが……うむ、なんというか微妙じゃ。
この街そのものがあまり栄えておらんようじゃ。おそらく近くに鉱山か何かがあって、それが枯れたのじゃろう。若干寂れておる。
そんな場所では宝飾店も多くなく、最初の店の他に三軒しかなく、そのどれもが最初の店よりも品揃えが悪かったので結局一番最初が当たりであったわけじゃ。
取引自体は割と簡単に終わった。金額は八十万J(ジェニー)となったが、若干足元を見られた気がせんでもないが……まぁ良かろう。それほど愛着があったわけでもないからの。
「ふっふっふ、金さえ手に入ればこちらのものじゃ」
吾の足に迷いはない。
この炭鉱が枯れたにも関わらず寂れている程度で終わっているのか……それの答えは——
「さあて、黄金律が今も健在なのか示すのじゃ!」
直感で選んだスロット台に座る。
そう、この街はどうやらカジノに力を入れておるようなのじゃ。
そしてさすがHUNTERXHUNTERの世界、カジノの利用に年齢制限や身分証などは必要ないようで、吾でもスマートに入ることができた。
「ほい、ほい、ほい(コイン投下)……とりゃ!(レバーを叩く)……ほっ、ほっ、ほっ(ストップボタンを押す)…………」
うむ、BARか……ぼちぼちじゃのぉ。
とりあえず黄金律の健在っぷりは把握できたぞ。
BARのボーナスを終え、これ以上はしばらく出そうにないと直感でわかったし、弾の補充は完了したので次の本命であるルーレットへ突入。
一目賭け(玉が入る数字一点賭けのこと)を持ち金全て投入して一回当てて撤退したのじゃ。
これで資金五千四百万Jじゃな。
ああ、ちなみにポーカーには絶対手を出さぬぞ。黄金律も勝つ要素が無ければ稼げぬのじゃよ。
ポーカーは最初からディーラーが仕込んでおる可能性が高いからのぉ。麻雀のように全員で牌を混ぜたり積み込んだりするならある程度勝てるんじゃが。
「わー!お嬢様!空飛んでますよ!」
「いや、おぬしは単独で飛べるじゃろ?」
ただいま、吾等は飛行船の中に居る。
荒稼ぎをしたため、見た目可憐な吾を襲う者も出てくるじゃろうと予め飛行船の予約をとっておったのじゃ。
飛行船がある街で良かったのじゃ。空におっては誰も追っては来れまい。
「さて、活動資金は得たが……これからどうするかのぉ」
「さすがお嬢様、ハードモードだったはずなのにいつの間にかヌルゲーになっちゃってますよ!」
まぁこの世界で金があってもあまり命の保証に繋がらぬがな。
そういえば、調べてわかったのじゃが今は1988年5月16日のようじゃ。これで原作がいつか……いつか……原作っていつからスタートしたんじゃ?
何の意味もないのぉ。
三国志のような歴史ものならともかくHUNTERXHUNTERの年表なんて興味を持つ者の方が少ないじゃろ。
「とりあえず、ハンター協会に護衛依頼でも出すかの」
「おー、なるほど!原作の関係からてっきり異能力バトルもので行くのかと思ってたんですが、お嬢様らしい手堅さですね!」
手堅いかどうかは微妙じゃがな。
ハンターの質はおそらくピンからキリまであると思っておった方がいいじゃろ。
それにゴンの父親が作ったゲームが億単位の割には入手難易度が低いあたり、質の良いハンターへの依頼料は値段も相応と考えておくべきじゃ。
……ああ、この世界には呂布がいっぱいおりすぎて胃が痛い。