第六話
残念ながらキメラアントは蜜も集めるようじゃが、主食は肉であるらしいので断念したのじゃ。
仕方ないので蝶なのに蜂のように巣を作り、蜜を集めるという変わった蝶の蜜の採取を依頼した。
生息数は多いが生息地には危険生物がうじゃうじゃおるため難易度が高く、G判定……Gがどの程度なのか、なぜ判定に使われているのがアルファベットのGなのかは全く不明じゃが、とりあえず三千万Jが吾の口座から消えたと言っておこう。
いつ頃届くんじゃろ……楽しみじゃのぉ。
その間に生活基盤を安定させねばならん。
とりあえず、最後のカジノということで全財産乗せで一億Jと端数(当面の生活費)まで資金を増やして再び逃亡、そしてその先で一億掛けて築三十年の十階建てマンションを購入してリフォームをしたんじゃが、工事中に以前のマンションの持ち主が住んでいた部屋から隠し部屋を発見し、そこには一億Jが置かれておった。
犯罪に巻き込まれるのはゴメンなので警察に一応届け出てたが、持ち主は天涯孤独で死亡しておるため吾の物となった……この話が新聞に載って有名になり入居者と襲撃者が続出。
襲撃者は念能力者ではなかったので全て撃退できたし、無事マンションは満室となったのじゃ。
「げに恐ろしきは黄金律じゃな」
「本当ですねー。結局マンションはタダで手に入れたようなものですね。しかも満室なんておまけ付きですよ」
これで吾はヒキニートができるのじゃ。
目標はヒキニートではないと言ったが、まだまだ実力が伴わない現状であまり外をウロウロするのはリスクが高いための処置じゃ。
恋姫の世界では引きこもろうにも娯楽が少なかったため仕方なく仕事に励んでおったが、この世界ならばテレビもあればネットもあるので暇はせん。
残念なのはマンガやアニメなどがあまり流行っておらず、ジャンルが少ないことか……後ネトゲーもない……いや、あるにはあるんじゃよ。しかし、その内容が古くからある罪○罰++のようなCGIゲームしかないのじゃよ。
ゲーム……ゲームか、確か原作でもゲームがあったのぉ。
タイトルはイマイチ覚えておらんが、めちゃくちゃ高いゲームであったはずじゃから検索すれば出てくるじゃろうか?
「……これか?」
ネットに検索を掛けるまでもなくバッテラというものがゲームを百七十億Jで落札したというトピックスが検索エンジンのニュース速報を賑やかせておった。
百七十億か、現在の資金の百七十倍と考えると気が遠くなるほどの金額に思えるが、これがたったの二ヶ月足らずで稼ぎだしたと考えると一気に身近になるのぉ。
ふむ、稼げぬ金額ではないが……問題はこれがバッテラという者の力の一端でしかないであろうということじゃな。
もし手に入れるとしても金以外のことで妨害してきそうじゃのぉ……はて?ゴン達はどうやってプレイしたんじゃろ?まさか購入したということはなかろうが……。
「そういえばこれ、ゴンの父親が作ったものじゃよな。ゴンの姓すらわからぬからちょうどいいヒントに——」
なん、じゃと……まさか制作陣の情報閲覧にハンターライセンスが必要じゃと?!
金ならどうとでもできるがまさかハンターライセンスとは……どうにもならんな。
ハンターを雇った時に貸してもらえるじゃろうか?
ああ、そういえば文字が読めるというのに違和感があると思うが、本屋でジャポン語なる日本語があることがわかり、そこから共通語を学ぶことができたのじゃ。
固有名詞はわからぬことも多々あるが、大体はわかるようになったぞ。思った以上に複雑ではなくてよかったのじゃ。
「それにしても……平和ですねー。あの家畜にすら劣る社畜の日々がウソのようです」
「あまり気を抜き過ぎるでないぞ。この世界はあちらより理不尽な死が数多くあるんじゃからな」
わかってますよ〜、とたれ七乃状態で言われても説得力はないぞ。
今の吾等の生活は全て電話orインターネットによるデリバリーや通販だけで外には一切出ておらん……本格的な引きこもりじゃ。
ストレスが溜まらないでもないが仕事漬けの日々から比べればなんてことはない……いや、仕事漬けも世の平和のためと思えばそれほど苦にはならんかったっか。
背負うものが我が身だけという自由は本当に久しぶりじゃ。
もっとも念の修業は疎かにしておらんぞ?修行方法は完全オリジナルじゃがの。
念は液体と似ておると思う。少なくとも吾の念は液体に近いものじゃ……厳密には蜂蜜じゃがな。
その液体を冷やして個体にしたりシャーベット状にしたり型に入れたり、逆に沸騰させて気体にしたりする……イメージで変化を付けておる。
正直どんな効果があるかさっぱりじゃが何かしらの効果はあるはずじゃと思う。念とは人の思いなのじゃから意味があると思ってやれば何かしら意味があるじゃろう。
他にも手に集中させてみたり、投げてみたり色々しておるが……集中させるのはともかく、投げるのは微妙じゃ。
なんというか本当に液体を投げるようなもので飛ばしにくい上に簡単に霧散する。
そのかわりにホースから勢い良く水を出すイメージだとかなり飛ばせるのじゃが……飛ばせるとは言うても吾と繋がった状態であるため正確には伸びておる、かの。
こんな修行ではあるが纏う念の量は結構増えたと思う……他人と比べたことがないから多いかどうかは不明じゃがな。
「しかし……コップの水で系統を調べることができぬのはなぜなのか……何か条件でもあったじゃろうか?」
特にそういうものはなかったように思えるが……くっ、念の情報はほとんどがハンター協会に制限されておるためライセンスが必要とは……たまに知恵袋で馬鹿力で殴られて超能力に目覚めたなどということが書かれておる程度ならあるのじゃが……と言うかよく念能力者に殴られて無事じゃったな。吾が襲われた時は加減がわからず、うっかりミンチにしてしもうたぞ。
殺人事件をもみ消すのは大変……でもなかったのぉ。来た警察官にテキトーに金を掴ませたらなかったことになったのじゃ。
本当に命が軽い世界じゃと改めて認識したのじゃ。
「はむっ……んー、美味いの〜。この蜂蜜は!……ほうほう、このような花から取れる蜜なのか、見かけは毒々しいが爽やかな蜜じゃのぉ」
最近の楽しみは蜜を集めた花を限定しておる蜂蜜を買い、その花がどのようなものか調べることじゃ。
味わったことのない蜂蜜が多くて毎回毎回楽しみにしておるのじゃ……ただ、偶に苦い物や辛い物まであるので気をつけねばならん。
苦いのも辛いのも本来は生食用ではなく、調味料の一種らしいと後で知った。
……まだ手に入れたことはないが、麻薬のような蜂蜜もあるそうじゃ。依存性があり、副作用も当然あるので食べるつもりはないが……少し、ほんの少し残念なのじゃ。やはり蜂蜜と言われれば食べてみたいと思うのじゃが。
ハンター協会からメールが届いたのじゃ。
それによると蜂蜜の採取に成功したので指定のハンター協会支店に取りに来るようにと書かれておる……ん?もしかして採取した本人と会うことができぬのじゃろうか?なら無駄骨……ということもないか、蜂蜜が手に入るのじゃ。
さて、ハンター協会支店は……うむ、割りと近いの。ならば予定時間より早いが向かうとするか。
「七乃、出かけるぞ」
「は〜い。では、お邪魔しますねー」
七乃はいつもどおり吾のスカートの中に潜り込む。
まだ七乃を消すことができぬから仕方ないのじゃよ……早く姿を消せるようにならねばいつまで経っても役に立たぬ居候でしかない……ああ、でも吾から漏れる念で蜂蜜をいくらか生成できるようではあるが自身の念ではあまり多く作れないそうじゃ。
どういう原理かは能力者である吾もさっぱりではあるがそうなのじゃから仕方ないか。
「とりあえず今の七乃は使えぬということだけは間違いないの」
「酷いです!横暴です!横恋慕です!」
「最後のは意味が違うの。」
そんな下らないことを話しながら支店に到着したのじゃ。
さて、依頼を受けた当人から受け取ることができるか、それともハンター支店に預けられておるか……どっちじゃ。
「こちらが依頼の品になります。受け取りにサインと判子をお願いします」
……残念。
協会に預けられておった。
ぬぬぬぬぬ、これでは顔をつなげることができんではないか。
やはり直接的に護衛依頼でも出せばいいんじゃろうか……しかし、その手の低ランクはならず者と呼べるだけの存在は多くいた。
ゴンやキルア達のような人格に問題のない……いや、問題が少ない人材は探すだけでも大変な労力なのじゃ。
むう、どうしたものか。