第五話
目的地到着なのじゃ。
しかし、念能力はなかなかに奥が深い。
順調に念を修得……とはいかなかったのじゃ。
まぁ原作知識をほぼほぼ忘れておるため訓練する方法が思い出せぬことが主な原因ではあるが、そのかわり纏っておる念の厚みは随分とコントロールができるようになった。
それこそ纏う念を減らして気配を消すことも可能になった。確か放出しておる念を断つのは技であったような気がする。
これで普通の強盗などはある程度どうにかできそうじゃ。稼いだ現金を全て持って歩いておるからありがたい。もっとも肉弾戦はともかく、銃に対してどの程度の強さがあるのかは不明じゃから過信は禁物じゃがな
そういえば七乃の能力に欠点が……元々色々あるが……致命的な欠点ががあることが発覚したのじゃ。
一般人も少量ながら念を垂れ流しにしておるからそれを採取させようとした時に気づいたんじゃが……七乃は一般人にも姿が見えるんじゃよ。
四十cmもの大きさともなれば、目立って仕方ないのじゃ。つまり、こっそり採取ができぬということじゃな。
「忠臣であっても使えぬ奴じゃ」
「酷いですよーお嬢様ー……それに私はご自身の能力なんですからブーメランですよ」
「ぐふっ、言われてみればその通りじゃ」
七乃の姿は嫌でも目立つから本来なら具現化を止めるところであるが……無意識に具現化したこともあって解除方法がさっぱりわからぬ。
……まぁこう言ってはおるが元々解除するつもりはないがの。やはり七乃にはそばに居て欲しいからの。
「それにしても……念の恩恵とは侮れぬのぉ」
「ですねー。以前のお嬢様だとこんな大金を背負って運べませんよ」
飛行船のスタッフに用意してもらったリュックに現金を詰めても余裕で背負って運べておる……さすが念、伊達ではないの。
紀霊達が使っておった気もこのような感じであったのじゃろうか、これが前の世界でもあったなら吾も前線で活躍が……うん、ないな。
それと念のために外国での置き引きや窃盗対策と同じように靴の中や服のあっちこっちにいくらか金を分けて隠し持っておるぞ。
強盗なら防げても凄腕のスリとか気付ける自信はないからの。
さて、まずはカジノに——
「お嬢様、その前に大量の現金を持ち歩くのは大変ですから金や銀、宝石などに替えてはどうですか?使う時に多少目減りするとは思いますが持ち運ぶのには楽になりますよ」
「ふむ、その意見を採用するとするか」
貴金属の価値を知らんから宝石を買うとするか、簪を売る時にある程度下見をしたから大きく外れることはないじゃろう。
無事五千万ほどを宝石百個ほどに替え、残った四百万でカジノへ行き、スロットは出る金額に限度があるので効率が悪いのでスルーしてルーレットでまた五千万ほど増やしたのじゃ。
そしてまた前もって予約しておった飛行船に乗り込み高飛びじゃ。
「ふむ……不思議な感覚じゃなぁ」
カジノで感じた不思議な感覚……以前とは違い、ぼんやりとじゃが当たりがどれかがわかるようになったようじゃ。
以前までは本当にただの直感であったが今では少しだけ光り輝いておるように視えるのじゃ。
もしやこの黄金律も念の一種なのかや?……そういえば念能力とは別に念とは感覚の鋭敏化や老化を遅らせるなどの効果があった……ような気がする。つまり、黄金律もさり気なくパワーアップしたという可能性が高いか。
「こんな短時間で億万長者なんて……さすがお嬢様です!これでヒキニートになれますね!」
「いや、そんなもの目指しておらんからの?まぁこの物騒な世界ではそれが無難な気がせんでもないが……やはり原作を知っておる身としては登場人物に会ってみたいが——」
「うわー、お嬢様ったらなんて無謀な……ゴンさんはともかく、キルアさんなんて初期の状態だと気に入らないからってだけで殺されちゃう可能性もありますよ。暗殺者ですし」
むぅ、やはり少し無謀かのぉ。
微かに記憶にある猫耳少女?少年?にあって見たかったんじゃが……しかし、なぜじゃろ?吾の何かが近寄るなと叫んでおるが……気のせいか?
「会うならもっとちゃんと鍛えた上で、腕が立つ護衛を連れてからですね」
「うむ、おそらく大丈夫じゃと思うが変態ピエロの例もあるからの。自己鍛錬は手抜きするつもりはないぞ」
原作組と関わるならば変態ピエロも関わってくるはず……吾は才能という面では狙われることはないはずじゃが、その他大勢の被害者の中に吾が紛れぬとも限らん。
……やはり原作と関わるのは無謀か?遠くから眺めておるだけがベストなんじゃが——
「まぁそれ以前に何処に原作組がおるかもわからんのじゃがな。そのようなことより身分をしっかり確保するのが先かの」
「そうですね。次の街で探してみましょうか」
うむ、思った以上に簡単に身分証を手に入れることができたぞ。
普通に申請を出すだけで良かったのじゃから拍子抜けじゃ。
話を聞いてみると一部の未開地に住む民族などが街に来て身分証を作ることは珍しくないことらしい。言われてみればまだまだインフラ整備も進んでおらぬのじゃからそういうこともあるじゃろうな。
もっとも身分証を作る際に保証金として百万Jほど預ける必要があるのじゃからハードルが高いと言えるの。まぁ吾には余裕じゃがな。
一応三年間問題なければ返金されるらしいが……返って来た頃には端金となっておるじゃろうから何処かに寄付でもするかの。
銀行口座も開設したので早速ハンターを雇おうと思ったんじゃが——
「どいつもこいつも信用ができんような面構えじゃのぉ」
「ですねー」
依頼内容が護衛ともなれば人選が難しいのぉ。
四六時中一緒にいることになるから共におって苦痛にならぬ者が良いのじゃがな。
「今思えば紀霊さんは掛け替えのない存在だったんですねー」
「そうじゃな」
最初から紀霊がおってくれたから気兼ねなく虐殺できたんじゃろうな。もしおらんかったらおそらくもっと穏便な方針となっておったじゃろう。
「ふむ……護衛ではなく、念を教えてもらうというのならどうじゃ……む、これは……」
パソコンに出てきたのは桁違いの報酬とハンターライセンスが必須なものばかりか、まぁ念を無闇に広げてしまえば大変なことになるのは間違いないから仕方ないんじゃろうが、今の吾にとっては嬉しくないあり方じゃ。
中には報酬が安かったり、ハンターライセンス不要、女性無料などと色々と条件があったりするが……なんというか胡散臭い奴らばかりでとても依頼しようとは思えん。
「うーむ、どうしたものか……ふむ、別の依頼を出して顔をつなげるのもありか」
「なるほど、一種の面接ですね。しかし何を依頼するんですか?」
「それはもちろん!!蜂蜜採取しかあるまい!!!」
ハンターとの繋がりができて、蜂蜜が手に入る。
一石二鳥……いや、一石二匹とはこのことじゃな!
「ですよねー」
なんじゃ、不服でもあるのかや。
「いえ、お嬢様ならそういうと信じてました!」
そうと決まれば希少な蜂蜜の情報を収集せねばなるまい。
と思ったら希少な蜂蜜はゴロゴロしておるのじゃ。
変わったところじゃと蜂ではなく蟻の蜜まであるみたいじゃ。どのような味がするんじゃろ。
……ん?蜜とは関係ないがキメラアント?食べたものの遺伝子を次世代に伝えるじゃと?これは……凄い生物がおるのぉ。
何処かのゲームやラノベの主人公のような能力じゃな。あ、次世代ということは本人が強くなるわけではないのか。