第一話
ハァ、なぜ私のような宇宙一天才がなぜ辺鄙なところに来なければならないのか。
こんなことなら誘いに乗らずグラナダでニュータイプ(強化人間を含む)とクローンの研究を続けてればよかった。
おのれ、キマイラ隊のやつらめ……私を騙しやがって!何が自由に研究できる、サポート、施設も充実した職場だ。3ヶ月も掛かる辺境小惑星なんぞに連れてやがって……今に見てろ。
……ん?なんだ?
……なに?私にMSの設計図を書けだと?
いや、以前にも兵器の設計はしたが……ちょっと待て?!まだ請けるとは——
くっ、これだから田舎者は!人の話を聞かやしねない。
……しかし、いいのだろうか。私が設計したザクレロは不評だったと聞いたが……と言うか私はニュータイプとクローンの研究をしたいんだが。
まぁ、これも天才として生まれた私の義務みたいなものか。
さて、肝心のコンセプトは——
【生産しやすく維持費も安い簡単に扱える便利なMS】
…………これはMSのコンセプトなのか?車とか情報端末の企画書と間違えていないか?
……間違いないか……ハァ、やっぱり田舎なんて大っ嫌いだ。
とりあえず2日でガトルとザクを合体させたドラッツェなるものを設計してみたが……操縦性を重視してザクを、結構余っているガトルの融合でリックドムと同等の加速力を発揮するとはいえ……不格好だな。
MSなのに足がないとは、これでは連邦のMSモドキのようだ。
……ふむ、ガトルのブースターを肩にも付ければ既存のMS以上の加速力を得られるか?もっとも旋回性のはお察しだがな。
しかし機動性が期待できないMS……MS?なのだから加速性ぐらい追求しなくては……いっそ装甲も最小限にして加速重視に……武装は……駄目だ。そこは標準装備ぐらいでないとコスパが悪い。
連邦はチタン系の合金を使っていると聞くが、それを装甲にできたなら更なる加速性が!!
設計図を出したら採用なのに再提出となった。
この程度のスペックでも生産は厳しいらしい……貧しいな。
結局初期設計で提出すると正式採用された……地球圏にいるハゲに。
どうやら私のいるアクシズは居住空間に余裕が無い……のは知っている。なにせ私はまだザンジバル級の一室が我が家だからだ。
それで地球圏に多く残る愛国心溢れる者達を受け入れることができないでいるとかなんとか……正直そのあたりに興味はないが大変そうだな。
……だからと言ってテロに走るってのはどうなのかと小一時間説教……したくない。面倒だ。
そして受け入れられない代わりにとドラッツェの設計図を渡したそうだ。
まぁどうでもいいんだけどな。それより私の研究はいつ再開できるのか、それが問題だ。
……と言うかテロるぐらいならその資源を私に献上しろよ。
そういえばジオンといえば、徴兵された出来損ないはどうしているんだろうか……レイラは私の作品としては不出来にも程があるが、それでも私の作品だ。多少思うところがある。
しかし、女性個体はやはり感情の振れ幅が大き過ぎるな。そのおかげでニュータイプ能力は優れているが精神の不安定さ目立つ。
それに比べて男性個体はニュータイプ能力は劣るものの精神的には比較的安定した個体が多い。
……まぁ男を弄る趣味はないがな。不安定だろうがなんだろうが検体は女に限る!
やっと研究の第一歩であるパイロットのニュータイプ検査を実施することが決定した。
ハァ……こんなことなら出来損ないでもいいからニュータイプ個体を連れてくるんだったな。
ちっ、クルストの野郎が検体……しかもよりにもよって上位の素質を持つマリオンを廃人にしたせいだ。そのせいで検体の管理が厳しくなったことで拉致できなかった。可愛い子がいたのに残念だ。
そういえば、ここの実質的指導者であるマハラジャ・カーンの娘、ハマーン・カーンと言う名に聞き覚えがあるな。
確か、一時期研究所にゲストで来ていたはず……あの下衆共は相変わらず検体の扱いが雑で随分とストレスを溜め、日に日に目が死んでいくのを見ていた。
残念ながら当時の私には力がなかったからな。今なら少しはマシな分析やトレーニングができるだろう。
まったく……ニュータイプは確かにストレスを与えることで覚醒率を高めるというデータはあるが女性個体の場合は一時的に高負荷を与え、その後解消させた方が洗脳……ゲフンゲフン……効率がいいというデータがあるというのにあの愚図共は女の気持ちなんぞわからんと放棄しやがって。
男性個体?ああ、適当に拷問しておけばいいのではないか?
検査を実施した結果、100人ほどが確認できたが……どいつもこいつも性格などに問題があるというのに素質は強化人間にできる程度のゴミしかいない。
フラナガン機関にいた時の検体であるクスコ・アルやマリオン・ウェルチ、ララァ・スンのような最初からニュータイプとして優れている個体は少ないらしい……いや、ただ単に人口の問題か、やはり貧しさは不幸だな。
あっ?強化人間に使って良いのはこの3人?
おいおい、よりにもよってワースト3の3人か
……ああ、なるほど、パイロット能力も低いからどれぐらい使えるようになるのかテストしろってことか。
はいはい、何処の世界でも御上の言うことは絶対だな。
ちっ、独裁国家だから味方になる奴すらいないというのは面倒だ。
どうにかして発言力を手に入れないと思った研究がろくにできないぞ……くそ、紅い稲妻だか赤々詐欺か知らんが、今度あったら覚えてろ。
それにしても……検体は全員男とか、私に死ねというのだろうか。
まぁ、心置きなくガンガン薬物投与してもいいと考えれば気が楽だが……潤いが欲しいと思う今日此の頃。
え、薬物の使用制限?
物資がない?
……言われてみれば至極当然のことだな。
ならば研究所を用意しろ……なに、用意している?珍しく段取りが良いな。
……ハ?この部屋が研究所って……この設備で研究所って本気か?!
おい!逃げるな!
くそ、ここが研究所だって?どこからどう見たってスクラップ置き場だろ。
設備ないから自分で作れってのか?
マジで貧乏嫌だわ。今すぐグラナダに帰してくれ、金なら出世払いで払うぞ。
……あ、そういえば報酬の話ししてないが……これじゃ期待できないな。
いや、報酬とか別に無くても良いんだ。自由に研究させてくれるなら……問題はそれすらも満たされないことだな。
……愚痴ってても仕方ないか、とりあえず頑張ってみるか。
あれから半月、やっと脳波測定器が完成した。
意外とどうにかなるものだな……私はいったい何の研究者だったかな。
それはともかく、これでやっと医療所の奴らに嫌な顔されずに済む……私だって好きで借りていたわけではないのだがな。
さて、早速検体でテストを……
誰だ。こんな良い時に……ってアンタか、どうした?
ハ?脳波測定器を渡せ?何を言って……ゼナ・ザビが危篤?
いや、それなら医療所の奴らの……え、こっちの方がスペックがいいって言ってた?
さすがに嘘だろ……あ、おい!
……返してくれるんだろうか、嫌な予感しかしないんだが。
まぁ設計には苦労したが、まだパーツはあるから後1台ぐらいなら作れなくはない……だが、やはり面白くないのには変わりない。
ハァ、とりあえず医療所の奴らに奢らせよう。
ゼナ・ザビはあえなく亡くなったようだ。
そしてアクシズにいる全住民を対象とした葬儀がなされた。
ザビ家も全滅か……と思ったらゼナ・ザビはドズル・ザビの嫁だったらしい。まぁ興味ないから知らんが……それより興味があるのは娘がいるらしいということだ。
ドズル・ザビの娘か……どんな顔をしているんだろ。ちょっと見てみたい……と思ったらまだ小さ過ぎて全然わからん。
今のところ可愛い顔をしているが将来はアレに似るのか……初めてここで楽しみができたな。
それにしても……あれがハマーンか、見ただけではわからんが……確かにあの影のある表情、間違いなく下衆達の検体であったようじゃな。
しかし、辺境とはいえ基地司令官の娘などという存在をよく検体にしたな。
まぁ私もそれほど気にしないだろうが……うーむ、父親がここのトップとなるとやはり協力してもらうことは不可能か?