第四百八十三話
「だが地球連邦はこれからも変わらず地球を破壊し、地球は限界を迎えようとしているのだ。このままでは星が死んでしまうだろう」
「つまりシャアは地球連邦打倒が目的か」
「正確には地球に縛られる者達を宇宙へ誘いたいのだ」
「そうすれば宇宙に基盤があるザビ家やシャア……キャスバル・レム・ダイクンが影響力を強くできる、と」
「それはこの世界の私とハマーンに任せるさ」
「無責任な男め……それともやはり別の世界となると思うところがあるか」
「無いとは言えんな。積み上げた物が文字通り無になったのだから」
アレン達は組織ごと世界を渡ってきたため孤立感は組織としてのもので、個人間ではあまり感じない……もともと外部との繋がりが薄かったのだから大きな違いはない。強いて言えばほとぼりが冷めたであろう100年後ぐらいに地球圏に帰ってくる計画が無駄になったぐらいだ。
しかし、シャアやアムロは違う。
自分であって自分ではない存在がこの世界におり、他者との繋がりが完全に断たれた。
今シャアを動かしている原動力は前の世界から引き継いだもので、前の世界との唯一の繋がりでもあった。
「ハァ、それで私に何を望むのだ」
「とりあえずは私をネオ・ジオンに迎え入れてほしい」
アムロ……共に別世界から来たアムロは地球連邦に捕まり、シャアが共にいるこの世界に来ていることが知られてしまい、追跡され続け、なんとか逃げ果せたのは一年戦争、グリプス戦役、ネオ・ジオンの総帥として戦い抜いた実力とララァの導き(多大な運)によるものだ。
人脈も財産もない逃走劇は過酷を極め、なんとかハマーンとこうして会合に漕ぎ着けた。しかし、そんな奇跡はもう続かないと言うのはシャアでなくてもわかることだ。
「船頭多くして船山に登るというが?」
だからこそ、この世界のシャアは表舞台に立たずにいるのだ。
「元々私は現場指揮が好きでね」
それは知っている。と呆れながらハマーンが返す。
「ハマーンの邪魔はしないさ」
その言葉に嘘はない。
ただし『今は』や『自分の意志では』という言葉が付け足される。それをハマーンも察していた。
「…………ハァ…………いいだろう。知っているだろうが人手が足りないからな」
「その上、獅子身中の虫までいるからな」
「いくらか引き締めしているが、なかなかしぶとい。確かに虫のようだ」
「……知っていたのか」
「ああ、アレン代表が教えてくれたからな。彼は自然と共鳴して思考や思いを読み取る」
「ならば私の世界とは違う未来とは大きく違う絵が視られそうだ」
「そうでなければ私が困る。ではシャアには新たな戸籍を用意しよう……名前に希望はあるか」
「そうだな――では――」
―――フル・フロンタル。別の世界から身一つで来た私には似合いの名だと思わないか―――