第四百八十二話
「それほどの人物なのか。そのアレンというのは」
「シャアが情勢をどの程度把握しているかわからないが、アレンの率いる組織はコロニー2基を拠点として、先日コンペイトウを単独で落としてみせるほどだ」
「私と同様に別の世界から来たのではなかったのか」
「コロニー1基まるごとこの世界に来たようだ。規模こそ違えどおそらくシャアと同じ方法だろうな」
「コロニー1つ……しかし、そんな戦力でコンペイトウを落とせるとは思えんが、あるとすればニュータイプ研究に関するものか」
「ああ、アレンは兵器や民生品も開発しているが、メインはニュータイプとクローンの研究をしている」
「嫌な取り合わせだ」
「それにはコメントを差し控えさせてもらおう」
ほぼ肯定しているも同然だがはっきりと肯定するには問題が大き過ぎるので明言は避ける。同然であっても明言しなければ言質とはならない。そして何よりネオ・ジオンでも同じ研究をしているのだから言えたものではない。
「そしてコンペイトウを落とすのに敵味方死者0人をやってのけるほどの存在なのだ」
「……味方はともかく、敵も、だと」
「私との取引でコンペイトウの占拠を許す代わりに捕虜を使って連邦との駆け引きに使うつもりだったのだが、まさか逃亡もさせずに文字通り全滅させ、捕虜にするなど我々はもちろん、最盛期の連邦にもティターンズにもできまい」
「そんな規格外は確かに前の世界には存在しなかった」
「この世界でも居なかったが、突如として湧いて出たわけだ。それに比べたらシャアがもう1人増えたところで多少驚きはしてもそういうこともあるかもしれんと思ってしまうわけだ」
「嫌な慣れだな」
「アレンはニュータイプとしても規格外だ。自分の意志で相手と共鳴し、記憶を共有することができるほどだ」
「そんな存在とよく付き合っているな」
「アレン本人は分かりやすい人柄だ。研究開発が好きで、周りがニュータイプばかりだからか嘘や虚栄など張らない。我々とは違ってな……それで別世界から訪れた貴様は、私になんのようだ」
「こちらから訪ね、質問に質問で返して悪いが、ハマーンは……ネオ・ジオンは、これからどうするつもりだ」
「正直着地点が見つからないのが現状だ」
「ほう、随分と変わったようだな。件の人物の影響か」
「それもあるが……その来訪者達の中にはジャミトフ・ハイマンもいたのだ」
「ジャミトフ・ハイマンだと?!ティターンズの総帥がなぜ」
「ティターンズが敗れ、大功を得たアレンがジャミトフの身柄を要求したようだ」
「よくそれでジャミトフもエゥーゴも連邦も納得したな」
「誰の目にも明らかな大功だったからな。その大功も武力でもぎ取ったもので、当時はどの勢力も勝てる見込みがなかったから認めざるを得なかったほどにな。それでジャミトフと話す機会があったのだ」
「ほう」
「我々ネオ・ジオン……いや、スペースノイドが思っている以上にアースノイドは地球に魂を縛られていることがわかった」
「なぜそう思う」
「気づけば単純な話なのだが、ジオン・ズム・ダイクンに導かれ、ザビ家が立ち、敗れて再興を願ってネオ・ジオンを名乗っているわけだが、これらは地球で積み重ねられた長い歴史のほんの一時、しかも幾度も行われて来たものだ。歴史を積み重ねたアースノイドの思いを、歴史が浅いにも関わらず未だにザビ家再興などという頼りないものに縛られるスペースノイドが理解できない。逆も、な。だからこそ相容れないだろう。」