第七百十話
上空を旋回するガルダ級から落とされた大気圏離脱用ブースターをコンテナに取り付けて打ち上げること3回。
「来たわね」
暴れまわるプルシリーズの顔が一斉に空へと向けられる。
「戦車を投入せずにMS……私達の脅威度が高くなったようね」
正直生身の人間への対応でMSを投入するというのは非効率である。しかし、コンテナが次々と打ち上げられて行くのを黙ってみているよりは非効率でも打てるだけの手を打つと決断した。
「機体情報照合――やはり予測通り旧世代機ばかりか」
ジムIIやそのバリエーション機ばかりが12機、SFSで上空を飛行しているのを確認して作戦に変更がないことを念の為、更に上空で待機しているガルダ級に用意された司令部に問い合わせるが、返答も作戦に変更なしというものだった。
「では降りてくるまでは人狩り続行続行、っと」
さすがにパワードスーツを着ていても絨毯爆撃やビームの雨を降らされると全て避けることは難しいがミソロギアにはなく、連邦軍にはある弱点がある。
それは守る者の有無だ。
軍は国を守るとは言うが具体的には領土と国民を守るもの、安易に犠牲にしていい存在ではない。
これがMS同士の戦闘なら流れ弾として処理することもできる。しかし、歩兵と同サイズ程度を相手に国民を巻き込んで犠牲にしてしまえば責任問題となる。故に人狩りをしていれば自然と雑な攻撃が行えない。
それに加え、人混みから外れる時は捕らえた人間を盾にするように掲げることで攻撃を防ぐ。
「本当にやってることが全部が全部映画とかドラマで出てくる悪役だよね。私達」
社会勉強の1つとして観賞した動画の敵役にしか見えないとしみじみと思う彼女だったが嫌なわけではなかった。
ただ、あまりにもそれらしい行動過ぎて面白かっただけである。
「あ、コンテナ近くに降りてくるつもりね」
唯一盾を格納する瞬間、つまりコンテナ付近でのみ人質が存在しない時間ができる。
そして彼女がコンテナへと辿り着き、コンテナに盾を放り込んだとほぼ同時にMSが地面を揺らし、ライフルの銃口を向けられる。
「そこからだとコンテナも貫通しちゃうでしょ。それに……いいのかな。ここ(地上)に来るってことは――私達の間合いに入るってことなんだけど!!」
カメラに残像が映るか否かの速度で触手がライフルに巻き付き、彼女の体が空に舞い、ライフルの上部にある銃眼のように見えるカメラの前へと着地し――
「ハッ!!」
カメラに拳を叩きつける。
ライフル内蔵のカメラは装甲ほどの強度ではないにしてもそれなりの強度を有しているが、コンクリートすらも貫通する彼女の拳に耐えられるわけもなく、粉砕。
「ついでにこれもどうぞ」
拳を解き、手の平から何かを落とし、再び彼女が宙を舞うこと少し遅れて爆発が起こり、ライフルは上部が消し飛び使用不可となった。
そして彼女はMSの――ジムIIの肩へと、そしてスルスルッと下り、コクピットの脇にたどり着くと――
「ジムIIで残念でしたね。その機体には欠陥があるんですよ」
触手を装甲と装甲の隙間に突き刺さり、時折曲がりながらも突き進み――
「ギャアーーッ?!!?う、腕が!!俺の腕が!!」
コクピットに達してパイロットの両腕を切断、ついでにこんがり上手に焼いて止血もばっちり。
「これで1機目、と」