第七百九話
足に突き刺さった触手の刃は見事に食い込んでいるが、それだけで終わらない。
「熱いッ!!あづい!!」
刃が熱を発し、その温度は人の肉を焼くには十分なものだ。
しかし、これは追加攻撃だけが目的ではない。むしろ対象を殺さぬための処置でもある。
訓練されている兵士なのだからまずやらないとは思うが触手の刃を無造作に抜いてしまえば盛大に出血して死んでしまう可能性がある。その点焼いてしまえば出血は最小限で済む上に神経を焼き切ってしまえば痛みもしない。
それに手足や体に後遺症が残ったとしてもアレンなら治療……最悪体そのものを取り替えることも可能であるため死んでさえいなければいいという考えである。
もっとも体は元に戻るが精神までは戻らず、幻痛に苛まれることになる者が多いのだがアレンにとっては――
「あまり無茶をされては困ります。あなた達は大事な――資源なのですから」
人間は生きていくだけで金が掛かる。そして働くことを義務とし、税金が発生する。
つまり国にとって人間は資産であり資源であり資金だ。
軍人ともなれば盾であり、矛という他とは代え難い付加価値がある。
そのため、1人1億以上(階級や能力で変動)の資源で取引されているし、この侵略がミソロギアの勝利で終われば釣り上げ交渉をする予定なのだから軍人の捕虜は多く確保しておきたいという考えだ。
「は?」
その発言に対する疑問ではない。
声が言い表したかったのは――
「なんで、後ろに、この距離に――」
先ほどまで照準の向こう側にいたはずの存在がいつの間にか真後ろにいるのだから当然だろう
「今まで私が動かなかったのは動く必要がなかったからよ。元々このパワードスーツがアシストするのはパワーだけじゃないわ。それにこれで殴ったら貴方達、ミンチになっちゃうから」
近くにあったセメントの壁を技術は使わず、体重移動さえ最低限に殴りつけた。その結果はセメントを粉砕、そして中の鉄筋すらも引き裂いた。
「このスーツの弱点といえば弱点かな?」
手をグーパーと開いて閉じて調子を確認しつつ呟くが聞いている方としてはどこか弱点なんだ、とツッコミを入れたいが、その代わりに素早く銃を抜き、引き金を絞る。
セミオートであるため次々と銃弾が上半身目掛けて放たれるが――
「さすがにアニメみたいに全部掴むってのは無理だね」
手や腕、肘などで銃弾を受ける面を調整して跳弾させることでほぼ無傷で終わる。
「手足程度に絞ることはできるので、死にはしないか。しばらくは痛いと思うけど」
プルシリーズは声が同じであるためボイスチェンジャーで変化しているが、声色までは変化させておらず、それが良く言えば純粋さ、悪く言えば幼さや幼稚さを含んでおり、中身が本当に幼いことを知らない者達には弱者を弄ぶ狂人のような印象を与えた。
「次、抵抗したら、ね?」