第八十二話
最初は面倒な任務だと思ったが、クローンの研究ができないだけで雑音がなく、割りと気楽なことが発覚。
まぁ、プルシリーズの面倒を私だけで見ないといけないのは難点だが、最近一桁ナンバー達が年上として既知であることには対応してくれるので最初よりは楽になったがな。
「かんちょー、グリプスつーをかくにん?」
舌っ足らず過ぎる上になぜか疑問系で報告してくるプル30。
ちなみにプルシリーズの中で何故か私をかんちょーと呼ぶことが流行っている。いったい誰が流行らせたのやら。
さて、通常航路が使えないため随分遠回りをしてきたから時間が掛かったが、そのおかげでティターンズや連邦軍と遭遇することはなかった。
ただ、道中に暗礁宙域というには小規模過ぎるものがあり、そこにはなかなかのお宝が眠っていたので色々漁っていた。……決して漁っていたから時間が掛かったわけではないぞ?
よくよく考えるとこのままアッティスで偵察なんてすれば索敵に掛かり、間違いなく交戦することになるだろうと思い、デブリをアッティスに張り付けることで擬態することにした。
それにしてもまさかグワジン級の残骸が漂っているとは思いもしなかったな。更にグワジン級の残骸と他の残骸にも予想外の拾い物があった。
それは水、酸素、食料、推進剤だ。
デブリというのは戦艦やMSの成れの果てであるわけだが、宇宙で必須である水、酸素、推進剤の貯蔵には相当神経を使っているので強固な守りがされているため無事なものが多いようだ。
もっとも戦艦の推進剤は、攻撃を受けた際の撃沈要素として最も高いため、MSからの回収が主だから量はお察しではあるがな。
水と酸素はいくらあっても困らない。贅沢な話だが、いざとなればこの2つを推進剤にすることも可能で生活面では言わずもがな。
そして何よりこれで生活用水に余裕ができたので大浴場を常時利用可能になり、プルシリーズの士気が向上した。
プルの影響なのか、それとも遺伝子的なものなのかはまだはっきりしないがプルシリーズは風呂好きが多く、水の消費量が半端ではない。
浄水自体は太陽光で蒸留させるという古典的なやり方でコスト削減しているがそれでもかなり手間なのには変わりない。
さて、脱線が過ぎた。話を戻すとしよう。
「あれがグリプス2か……情報で知ってはいたが、なかなか物々しいな」
グリプス2の周囲を警備をしている艦艇の数はここから確認できるだけでサラミス級6隻、外周を巡回しているサラミス級20とかなりの数だ。
エゥーゴを警戒するにはあまりにも過剰戦力に思えるが……もしかすると私達が偵察に来ることが漏れているのか?私達を相手にするというならこれぐらいの戦力を投入しても不思議ではない。
しかしそうなるとどこから情報が漏れているのかが気になるところだ。偵察が行われることは軍人ならばある程度の尉官以上であれば知れる程度のものだが、私達が赴くというのは将官である必要があるはずだが。
「いや、この場合、グリプスがそれだけ重要な役割を果たすと考える方が自然か?……やはり研究者に偵察任務を任せるのは無理がないか?」
ある程度は情報分析はできるが、やはり専門職が欲しいところだ。
しまった。シャアに会わせるという名目でナタリー中尉あたりを引っ張ってくればよかったな。彼女は開発者でもあるが、そこそこ優秀な軍人でもあるらしいし……ああ、そういえば彼女はプルシリーズのことを知らないのだったな。どちらにしても無理だったか。
「お、あれはハイザックとかいう連邦製のザクか、それとジムの砲撃タイプ……データベースに入ってるのか、ジム・キャノンIIか」
どちらも外見、戦闘データしかなく、詳細なデータはない……データがない……これは是非とも究明しなくてはならないだろう。
「とは言うものの、さすがにあの数を相手するとなると骨が折れるな」
外に出ている艦艇ぐらいなら相手はできる。
しかし、グリプス内の戦力を考えるとさすがに微妙だ。
ハマーンからは不必要にキュベレイIIを露出させるなと言われているし……鹵獲は必要不可欠……ではないだろうな。
となるとアッティスのみで対応しなければならず、そうなると微妙になる。
計算上、ファンネルが耐ビームコーティングを撃ち抜くには関節部分やそれなりに近くでないと貫通できないという計算が出ている。
長距離用ビットならば十分な出力があるが、その分ファンネルより運動性、機動性に劣る。
私が操作するのだから大丈夫だとは思うのだがアッティスによる初めての実戦がこのような劣勢でやる必要はないだろう。
……つらつらとデメリットを自身に言い聞かせて諦める方向に向かわせているとモニターにノイズが走る。
「ミノフスキーりゅうしさんぷかくにん?」
「そのようだな」
捕捉されたか?いや、それならもう少しサラミス級に反応があってもいいだろう。
となると……何かあったか?……視てみるか。
「プル30、サイコミュをフル起動」
「……きどうかくにん」
疑問形がなかった?
まぁいい、とりあえず、感覚を研ぎ澄ませ……視えた。
少数の艦艇……6隻か?が出撃したな。
方角は……こちらではないが、何処に向かっているのか。
しかも、人員配置を見るに既存の艦艇ではないものが2隻混じっていて、その上士気は高い……これは何かの作戦行動と考えるべきか。
グリプス2の偵察も重要だが、今はこちらの方が重要な気がする。
ティターンズが艦隊を動かすということはジオン残党狩りかエゥーゴ狩りかのどちらかであり、どちらにしても恩を売っておいて損はないだろう。
スニーキングミッションと行くか。
幸い、道中で推進剤を補給できたことで加速ブースターは切り離さず済んだので余裕を保って追いかけることができるだろう。
となれば——
「一時粒子散布領域から離脱、アクシズへこのことを知らせ、移動中の艦隊を追うぞ」
「おもかじいっぱい……いどうちゅうのかんてい?」
ああ、そういえば私以外には知覚できていないのだったな。