第八十一話
「グリプス2とア・バオア・クーが移動……場所はルナツー宙域あたりか」
「ご名答、どうやら植民地の統治より自身の基盤を固めることにしたらしい。ジャミトフという男も存外器が小さい……いや、小さいからこそ容易く切り捨てるのか」
切り捨てるというのは30バンチとジャブローのことだろう。
治安維持のため、敵を打倒するためとはいえ、切り捨てるには大きすぎて普通の器では切り捨てるのを戸惑う、なら器が大きいかと言えば味方も切り捨て敵も切り捨て民を切り捨てたものが大器なわけもない。つまり残った器は小さいものしかなかったということだろう。
しかし、徹底してルナツー……つまり月の反対側に自勢力を集中させるようだな。
「ハァ、これでまた口実が増えるな。もう限度なのだろうか」
タカ派の突き上げか……グリプス2をルナツーに配置したということはただのコロニーではないことは間違いなく、おそらく要塞の一種だろうことは脳筋でなければ察しがつく。
そうなると時間が経てば経つほどティターンズは基盤が強固になることは当然誰でもわかるというもので、そうなる前に仕掛けたいと思うのはある意味当然といえる。
これがハマーンが言った通り反乱分子のあぶり出しのためにやっていることなら効果的ではあるな。対費用効果がいいかどうかは別だが。
「ハアァ……まだエゥーゴとの交渉も済ませていない状態なのに、今地球圏に行けば泥沼な戦いに巻き込まれかねぬというのに……」
おお、ハマーンはシャアを無条件で信頼しているわけではないのか、エゥーゴとの協調は既定路線と思っているのではないかと心配していたが立派な指導者になりつつあるようで安心した。
まぁこちらにはナタリー中尉とその子供という人質が存在する以上裏切りは……ないといいな。シャアは自身の信念の為に家族すら切り捨てるなんてことをしそうだ。
それにナタリー中尉もシャアがやることなら、と受け入れそう……人質としては成立しない可能性があるな。
……あの化物と戦わないといけない可能性がある?
以前とは違い、私の長所を活かしたアッティスがあるとはいえ……負けないまでも苦戦は必至だろうな。
絶対勝てるとは言い切れないあたりやはりシャアは化物だな。
それにあちらにはリカルドやアンディなどのベテランからヤヨイやカミーユといったニュータイプまでいる。
こちらにもプルシリーズを始め、ガトー大佐(戦が近いということで昇進した)、カリウス・オットーにラカン・ダカラン、レベッカ少尉(スミレの友人、元トゥッシェ・シュヴァルツ初代パイロット)ぐらいしか……ん?結構充実しているな。あ、そういえばα達もいたか。
それにガトー、カリウス、ラカン、レベッカ(たまたま居合わせたところを巻き込まれた)、α達(存在を思い出して巻き込んだ)はプロテインによって強化されているからそう簡単には負けない……はずだ。
殺し合いというのは戦力、身体能力、実戦経験、兵器の違いだけでは決まらないものだから安心はできない。
科学者としてはあまり言いたくないが最大の要因として運というものがある。命中率99%でも外すことがあるし、逆に1%で命中することもある。小数点以下の確率で盗めるかもしれない。
そういえば物欲センサーなるものまで存在するらしい。是非とも研究してみたいものだ。ちなみに情報源からの証言では「逆鱗が……紅玉が……天鱗がーーーーーーー!!」とか叫んでいたが意味は不明。
つまり、それだけ運は重要なのだ……まぁどうしようもないから運なのだからその時が来ないことを願うとするかな。
「ならサイド3かそのグリプス2というコロニーか月あたりに偵察でも出して見てはどうだ。多少は収まる……かもしれない気がしないでもないぞ」
「それはどっちなのだ……しかし……ふむ、偵察か……最後の言葉はどうかと思うが、案自体はいいものだ。よし、アレン、グリプス2へ偵察任務を命ずる」
…………ん?
聞き間違いだろうか、今、私に、偵察してこいと言ったか?
「私に雑用をしろと言ったように聞こえたが?」
「……本当は私もこんなことにアレン達を使うのは心苦しい……だが下手なものをグリプス2に送っては全滅、下手をすればこちらまで危うくなる」
ほとんどタカ派しかいない上に新米ばかりだから先走る屑が居ても不思議ではないか。
「その点アレン達ならば無謀なことはしないと信じている」
「まぁ、私は無駄なことは嫌いだからな」
いらぬ戦闘に価値を見出す輩は死ねばいいと思う。
「それにアレン、アッティス用の加速ブースターを作っているのだろう?」
「なぜそれを知っている……ハァ……仕方ない。その任務、受けよう。スミレは置いていくか、戦闘には役に立たないし」
「助かる……が、さすがにそれは酷い言い草だぞ」
というわけで私はグリプス2に偵察に行くことになった。
改めて勢力説明、スミレとプルシリーズ33人(こちらに来てから定数に達した)の内3人をハマーンの護衛に置いていく。
アッティスのスペックは変わらず、キュベレイmk-IIが18機、ファンネル500基、シールドビット200基、長距離用ビット80基となっている。
機体自体はリック・ディアスが1機あるが、プルシリーズが扱うとなると力不足で経験不足の後期型達で弱すぎて消耗するだけになりそうだし、初期、中期型はキュベレイIIに慣れてきており、あまり使いたがらないので置いていくことにした。
ジオングに関しては改修——というか既に新設計?——している途中なので扱える状態ではない。ただ、移動中も作業はしたいので持っていくつもりだ。
それにしても偵察任務か……見つからなければ楽な任務だな。
こうして私達はアクシズより一足先に地球圏への帰還を果たすことになった。
「ところでハマーン様」
「なんだスミレ」
「アレンさんは確かに戦功欲しさに戦ったりしません」
「だからこそ偵察任務を任せたのだ」
「でも目の前に新型のMSなどが飛び回っていたりすると……」
「……………………」