第八十九話
「というわけでコロニーを貰って魔改造中だ」
『……アレン……貴様というやつは……』
何やら胃のあたりを押さえて苦しげなハマーンに少し心配になる。まさかプロテインの調合をミスったか?それとも体調不良か?
(あ、これは理解できてないわね)
ん?更に押さえる手の力が強くなったような?
アクシズの医療所のやつらは何をしているのだ。仕事しろ。
「というわけでこちらからの帰還は時間が掛かる。そちらから迎えに来てくれ」
『……つまり、それだけの勝算があるというのだな?』
「ああ、ティターンズはあまりにも無茶をし過ぎている」
特に今回のことだ。
いくらエゥーゴの支援しているという状況証拠があるとは言っても(月に侵攻したらエゥーゴが大軍で出てきたこと)コロニー落としはさすがに目撃者が多すぎる上に作戦自体も失敗している。
成功していたなら見せしめ効果でどうにか抑えられたかもしれないが失敗ということは威信は下がりその分だけ恨まれる。
ルナリアンに何もダメージを残すことができなかった……それはつまり——
『地球連邦が割れる可能性が……いや、既にエゥーゴという存在があったか……大勢が変化すると言うわけか』
「そのとおりだ」
ルナリアンの持つ人脈の中には当然政治家も含まれている。
今回のことでルナリアンはティターンズに対して圧力を掛け始めるだろう。
その圧力もコロニー落としという並外れた行いの報復なのでどの程度かは想像できないが甘いものではないはずだ。
「唯一エゥーゴの不安要素としてトップが暗殺されたことがあるが、引き継ぎに思った以上の混乱はない。しかも跡を継ぐのはシャアと来ている」
『そうか……サイド3へ偵察に出した者からの連絡では反連邦運動が表立って行われてきていると言っている。もっともその原因は我々の帰還もあるようだがな。ジオン共和国内でもかなりの協力者が期待できるそうだ。まぁどこまで当てになるかは疑問だがな』
ふむ、やはりジオン共和国内でも不満が溜まっているか。
「これは……」
『チャンスだな。ティターンズが揺らぎ、反地球連邦が勢力を増している。これ以上待てばティターンズが盤石となるかエゥーゴに全て持っていかれるかのどちらかだな……予定が決まり次第連絡する』
「さあ、今日も忙しいぞ」
月から離れた場所にコロニーを留め、月から次々送られてくる物資を整理……はプルシリーズに任せて私はアッティスの多目的多関節……大型エロ触手でコロニーの外壁を葺き替えている。屋根ではないので葺き替えるで正しいかどうかはこの際置いておく。
本当は全てガンダリウムγにしてやろうかと思ったがさすがにそれほどの量ともなると一朝一夕には用意できないので断念した。
ただ、耐ビームコーティングは無理して施すことにした。
現在の環境でビーム対策をしないのは愚策でしかない……と思っていたのだが、実は一年戦争前から一部のコロニーには耐ビームコーティングは施されていたようだ。
MSがビーム兵器を搭載するようになったのは最近だが、艦がメガ粒子砲を搭載し始めたのは一年戦争より結構前だ。
そしてコロニーにメガ粒子砲の誤射などあった場合、本当に脆く崩れ去ることになるため対策を施したのだろう。
そうでなければコロニー落としはメガ粒子砲でどうとでも防げるからな。
プル達も採掘作業で培った経験で作業は滞りなく進んでいる。
だからというわけではないが早く外壁を直して最低限の居住スペースを作らないと疲労とストレスでプルシリーズ達から不満が出るだろう。
慢性的なストレスはニュータイプの訓練にならないのでメリットは何もないからな。
「しかし、こうなるとスミレも連れてくればよかったな」
彼女がいればもっと効率的に事は進むだろうに。
プルシリーズも成長はしてきたが、精神はまだまだ子供だ。知らないことも多いし臨機応変にとはいかない。
先程も言ったが作業が滞りもなく進んでいるのは私が同時に指揮を執っているからだ。
つまり……うん、さすがの私もなれない仕事は疲れる。
まぁプルシリーズは無能ではないので刻一刻と成長していることもあり、しばらくすればもう少し仕事は減るだろう。
「しかし……完成はいつになるかな?」
進化させ続けるつもりだから本当の意味での完成というのはないが、とりあえずは居住できて研究ができて生産ができて半自給自足ができることを完成とする。
自身で言い出したものの……どう甘く考えても完成には半年は掛かるな。
「アクシズがこちらに移動してくるのに1ヶ月半を必要として出発まで半月だとすると2ヶ月……なんとか最低限の設備を整えなくては……優先順位は……」
まずは研究設備……と言いたいところだが、これは後回しにするしかないだろう。
とりあえずは……居住設備、生産設備、防衛設備という優先順位か。
居住設備はともかく、生産設備も食料系は当然後回しとしてまず揃えるべきはクローン設備か。
MSはアッティス内の設備でも生産できるがクローン設備は扱いが難しいため未搭載のままだった。それにコロニーの運用にも人手が必要であるためプルシリーズを増やすことが最優先といえる。
他の人間をコロニー内に入れることは論外だ。せめて警備体制をある程度整えてからでないと私がある程度防ぎ、監視することができたとしても突発的に動かれたりすると対処ができない可能性が高い。
ルナリアンは商売では信用できても他の面では信用できない。
コロニーの個人所有など表面的な情報ならいくら触れ回れてもいいが技術面やプルシリーズに関しての情報が漏れたら致命傷だ。
一応プル達のパイロットスーツには性別の区別がつかないようにしたり、顔が見えなくなるようになっていたり、変声機なども標準でつけたり、足裏にランダムの高さで厚底を仕込んで身長を誤魔化したりなど対策はしていて物資の受取の対応などをさせているが、長い間時間を共有しているとボロが出てしまうのでローテーションを組んで対処している。
……まぁプルだけは口調がアレなんで荷物運搬が主となっているがな。
「あ、プルシリーズを増やすとキュベレイIIも増やさないと……というかもうハマーンの機体もIIに更新しておくべきか?」
思わぬ大作業に取り掛かってしまったため開発はほとんどストップ状態にある。
スミレが開発を進めてくれていたとしてもしばらくは戦争準備に割り振らなければならない現状、なかなかハマーン専用機を完成させるには時間が足りない。(コロニーの開発を遅らせればいいというのは却下だ)
「しかし……Iフィールド搭載機の量産は現実的ではないな」
いくら主武装であるビーム兵器を防げると言っても生産にかかるコストがMSとパイロットの育成費用(育成に掛かる時間と金)を合わせても元が取れるかどうかわからん。
アレン・ジールのような大型のままならまだ許容できるのだが、MSサイズまでIフィールド発生装置を小型化してしまうと希少金属の消費量で頭が痛くなるほどだ。
しかも、本来掛かるパイロットの育成がプルシリーズによって半分以下になってしまったため、消耗品と考えた場合プルシリーズを量産した方が圧倒的なコストパフォーマンスを叩き出す。
「やはりプルシリーズの機体にするにはまだまだ課題が多いな」