第八十八話
「話が逸れたが、まずはコロニー落としを防ぐことに協力してくれたこと、感謝する」
「慈善事業という柄ではないが、さすがにコロニー落としともなると話は変わるから気にするな……と言いたいところだがいくつか要求がある」
ブライト・ノアを含め、エゥーゴのメンツが纏う空気がピリッとする。
まぁ今回の私達の功績から考えるとかなり無茶な願いも聞き入れられるだろう。ただし、恩という意味では聞き入れられるだろうが、感情的に受け入れられるかどうかは別の話だ。
「それでまず1つ目は……カミーユ・ビタンを検体として——」
「アレン博士、TPOは弁えるべきです」
「おっと、ついうっかり本音が」
(どういうことだ)
(アレン博士はニュータイプ研究を専門……専門?……にしているんですよ。多分あのMSもその一環だと思います)
(ニュータイプ……研究)
おや、カミーユ・ビタンの感情の波が……ふむふむ、なるほど。
「心配しなくても私は強化人間などという非効率なものは既に見切りをつけている。なんだったら君が気にしているフォウとかいう少女も連れてくるといい。治療してやるぞ」
「っ?!本当か?!」
「ニュータイプの研究を行っていく上で大事な事というのは何だと思う」
「……わからない」
「検体に嘘をつかずにいることだ。言わない、という選択肢はまだいいが、嘘というのはニュータイプには通じない、通じたとしても嘘だとわかった時には目も当てられない」
(私のオッドアイはアレン博士のせいなんだけど——ヒィ)
なにやら不穏なことを考えていたヤヨイ・イカルガにだけプレッシャーをぶつけて黙らせておく。
(というかなぜカミーユの悩みがわかったのだ。それに人の名前までわかるとは……これがニュータイプなのか?)
「さて、うっかり本音が漏れたことで話が逸れてしまったな。本当の要求はまずあのコロニーの譲渡だ」
「あのコロニーを?」
普通に考えればあんなでかいスクラップなど民間人が欲しがることはまずない。そして、民間人であるとは言っても所属がアクシズであることを考えればアクシズがコロニーを欲しているというようにしか思えないだろう。
そしてアクシズはジオンの残党だから不信に思っても仕方ないだろう。デラーズ・フリートの星の屑作戦はまだ記憶に新しいからな。
深読みしているところ残念だが、欲しいのは私個人なのだがな。
「あんなものをもらってどうするつもりよ」
気丈にも私が当て続けているプレッシャーに震えながらも問いただすヤヨイ……少しだけ評価を改める。なかなかの気概じゃないか。
もっともやはり無駄な深読みに過ぎないわけだが。
「もちろん……私の研究室……いや!研究要塞とするのだ!!」
「「…………は?」」
ふふふ、私の天才的な発想に凡人達が驚いているな。
構想の段階でしかないが、コロニーの防衛には外壁にレールを敷き、Iフィールド搭載ビーム砲台ををプルシリーズに操縦させようと思っているのだ。
更にジオン公国が一年戦争末期に開発したというコロニーレーザー、これもつけようと思っている。もっとも研究、居住、生産スペースが必要なのでジオン公国が使用していたものより小型で低出力になるだろうが……まぁロマンだから気にしない。
「だからコロニー落としに使うつもりなんてない……というか私からこれを取り上げようとするなら誰であろうと——」
「すり潰す」
おっと、本気で思念波を開放しすぎたか、オールドタイプの人間まで顔色が悪くなっているな。
そういえばブライト・ノアというのは白い悪魔の所属するホワイト・ベースの艦長がそのような名前だったな。
まさか本人か?まさか白い悪魔までエゥーゴの参加していたりするのだろうか、白い悪魔とシャアのタッグなんて酷いことになりそうだな。
とりあえず、交渉の結果……というかほとんど素通りしてコロニーGET。
そしてついでにクローン系、生産系(工業系はもちろん食料系も含む)の設備と物資(多くはスクラップ)をいただいた。
これで私の時代が来る……今までも私の時代だったがね。
ただ、変形するガンダムタイプであるZガンダムの解析は断られた。その変わり、Zガンダムのプロトタイプでシャアが乗っていた百式の設計図をもらえた。
これではあの妙なサイコミュがわからない……と思っていたら百式にも搭載されていた。以前見かけた際にはカミーユの思念が強すぎて気づかなかったようだ。どうやらアナハイムが隠しておきたかったのは変形機能の方だったらしい。
問題は設計図はあくまでMSの設計図でしかなく、簡易型サイコミュ、バイオセンサーというのは制御系に特化したシステムであり、ハードの設計図が手に入っただけではあまり意味がないことだ。
まぁそうでなかったら最重要機密を漏らすわけが無いか……ということでアーガマをハッキングしてZガンダムの情報をまるごと手に入れてやった。
あ、後ついでに今まであまり興味がなかったがプルシリーズを量産して自身の軍を作るようになって戦艦がないと不便だということでアーガマの情報も抜き取った。
やはり艦に関してはジオンより連邦の方がノウハウもある……ドロス級とかわけわからない化物艦を作る気はないしな。(既に自分で別の意味での化物艦を作っている自覚がない)
そして、最後の要求としてアクシズとエゥーゴのトップ会談を実現しようとしたのだが……まさかのブレックス・フォーラ准将の死亡で混乱中らしく、跡を継ぐのはクワトロ・バジーナことシャアということは決定しているが今は忙しいとのことだ。
……まさかシャアがエゥーゴの代表になるとはな。
ハマーンにナタリー中尉の監視を付けるように進言しておくか、正直シャアが組織という力を手に入れた以上、どう動くかわからない。
「それにしてもいい取引だったな……問題はこちらだな」
なんと、地球議会総会にて連邦は連邦軍の指揮権をティターンズに渡してしまったのだ。
これはピンチでもありチャンスでもある。
ピンチはこのまま何事も起こせなかった場合、ティターンズが完璧に連邦軍を掌握してしまうということ。
チャンスはその掌握までには時間がかかり、その上エリート気質であるティターンズに連邦軍の多くは快く思っていない。
軍人が上意下達とはいえ、一年戦争時にベテラン軍人の多くを失ってしまったり、一年戦争を経験して退官した者が多く、現在の連邦軍は新兵が大半を占めている。
……ふむ、そうか、このような状況に少数精鋭を作るのはありなのかもしれんな。
新兵を満遍なく鍛え上げるよりは効率的だろう。もっとも新兵の集まりと化した連邦に一部エリートという同期からの命令に大人しく従うかは別問題だがな。
思った以上にティターンズは地雷を踏み続けているように見える。
「これは本当に独立を目指すことができるかもしれないな」