第九十一話
私達は戦闘する気があまりないことと目的は述べた
ならば、どういう戦術で行くべきか考えた結果——
「真正面から突撃」
Iフィールドがなかったら無謀にしか思えない突撃、そこからの——
「ファンネル展開」
アッティスから30基のビットではなくファンネルとキュベレイII全機からそれぞれ3基、合計60基のファンネルを射出する。
「全機、減速するなよ」
『『了解』』
ファンネルだけ敵に向かわせ、私達は見向きもせず、ただただ直進。
後はファンネルの操作だけ集中していればいいという簡単なお仕事だ。
名付けて『華麗に舞う通り魔的ファンネル群』だ。……ネーミングセンスに関してのコメントは受け付けん。
もっともこれにも問題があることが判明している。
距離が離れすぎたファンネルをコントロールするにはかなりの強めな思念波が必要であるためファンネルの数を減らす必要があるし、MSの操縦が疎かになる。操縦に関しては私は無関係だな。
次に思念波を強くするということは送受信量が増えることでもあり、ファンネルが撃墜されるとその衝撃がパイロットにまで伝わってしまい、良くて頭痛、悪くて失神してしまう。これは私も例外ではなく、集中して使ってしまうとそれ相応の反動がある。
そして最後にファンネル自体が長時間の運用に向いていない(小型化するために最低限の推進剤やエネルギーしか搭載されておらず、補充はファンネルコンテナでする)ため、あまり多用するのは好ましくないのだ。
ちなみに長距離用ビットを使わないのには理由があるが、今は割愛する。
「MS3機撃破……ちっ、やはりニュータイプ相手とは相性がよろしくないな」
カブトムシ型MSに乗るニュータイプが邪魔過ぎる。
それに立地が頂けない。
こちらはコロニーを救助に来ているのだからコロニーを攻撃するわけにもいかないのだが、そのコロニーの外壁に張り付かれたり、射線が制限されたりで上手く逃げられている。
実はうっかりファンネルを撃墜されて反動を受けて戦闘不能というのを避けていることも1つの要因だが——
「と言っているそばから」
ファンネルが1基落とされ、他の2基のファンネルとその母体であるキュベレイIIを操縦するプルシリーズの意識が途切れたのを感じた。
エロ触手を伸ばしてキュベレイIIを回収、そしてファンネルを操って機能停止したファンネルを撃墜する。
ファンネルは最重要軍機である以上鹵獲されるようなことはあってはならない。
「さすがにファンネルを落とされたら終了というのは緊張感があるな」
回収したキュベレイIIに新たなプルシリーズが搭乗して再出撃させる。
ファンネルは今からだと間に合わないだろうから護衛が主な目的だ。
「よし、ガスを1基撃破……しかし、2基も持ってくるあたり本気度が伺えるな」
後1基は……エゥーゴの機体が来たか、ならば華を持たせるという意味も込めてそちらを援護する形で行くか。
プルシリーズにはあまり前面に出ずにエゥーゴのガンダムタイプ……ガンダムmk-IIを援護するように指示を出す。
それにしてもガンダムmk-IIに妙なものがくっついているな。火力を上げるための追加武装なのはわかるが……強奪してきてからの時間を考えると短期間によく仕上げてくる。さすがルナリアンだな。
「ん?ティターンズが撤退を始めた?まだガスは注入もできていないし、破壊されたわけでもないのに……何かあったか?」
と訝しんでいたが、ティターンズのMSが既に4機しか生存していないことに気づいた。ただ勝っただけのようだ。
「こんなことならファンネルではなくビットを使えばよかったか?……まぁ結果論か」
ビットを使わなかった理由というのは回収できない自体になった場合、先程のファンネルのように機密保持のため破壊、もしくは自爆させることになる。
ファンネルは元々量産することを前提に作っているし小型であるため比較的単価が安いのだがビットは量産は想定しておらず、大型であるため高価なのだ。
……ハマーンのケチ臭さが移ったか?
<プルツー>
アレン博士からミソロギアの責任者という重責を任せられて私も一人前か、と嬉しく思ったものだが……責任者となって改めてアレン博士が優れた父であることを実感している。
まずは姉妹のこと。
姉妹と言っても私自身も含むが、まだまだ経験が足りないため臨機応変に対応ができない。
問い合わせが来てもどう返していいかわからないことが多々あった。
それと同時に姉妹の指揮も執らないといけないし休憩をする時間もない……アレン博士は疲れた様子を見せなかったが、実はかなり疲れているのでは……また怪しげな薬で凌いでいるのだろうか。
「ハァ……早く成長してアレン博士を楽にさせてあげなくては」
それに狂気じみているところがあるとはいえ、やはりアレン博士には研究をしている方が楽しそうで私は嬉しい。多分姉妹達も同じはずだ。
ここのところ戦争の準備や戦闘、私達の面倒ばかりでろくに研究できていない。
私達を殺さないように時間を割いてくれていることがわかるだけに申し訳なく思う。
最近はこのミソロギアを手に入れて改造している時は楽しそうではあったけど研究している時ほどではない。
しかも、私達に気を使って居住設備を優先して整備しようとしているようだ。
私達はアレン博士のためなら多少の苦境であろうと問題ない。それにこの程度のことを苦境とは思わない。
そんなことはニュータイプとして優れているアレン博士ならわかっているはず……わかっていて優先してもらえることが嬉しくもある。
などと考えていたらまた通信が……。
「こちらプルツー」
『ミソロギア内に侵入者、既に捕縛済みだけど報告。何処に収容?』
侵入者……そんなものは想定していなかった。敵が来るとすれば戦闘行為を伴うものばかりを想定していた。
まさか生身の人間が侵入して来ようとするとは……何と無謀な。
私達のニュータイプ能力はアレン博士ほどのものではないにしても察知能力は優れているという自信がある。身体能力に関しては人類最高峰であるとも思っている。
そんな私達がいるところに侵入してくるなんて……ああ、そうか、私達の能力を相手が知っているはずもないか。
いや、今はそんなことを考えている場合ではないか、処遇をどうするか……コロニーに独房なんて存在しない。ミソロギアに至っては人が住める環境ではない。
「……徹底した身体検査を行った上で縛り上げ、コンテナにしまっておけ」
『了解』