第二十一話
銃の先端から吐き出すように硝煙の香りが、銃身は焼けるように熱くなったAK-47の熱がグリップから手に伝わってくる。
自分で終いにしたはずなのに先程まで発していた振動で未だに身体に痺れを残している。
標的となっている黒い丸も穴だらけ……ついでに後ろの壁も穴だらけ。
「これが銃……人殺しの道具か」
今日は1月8日。
6日に宇宙ザクテストを5回、7日に更に10回やって参加報酬をヅダに追いつかせた。
ちなみにランクは全部Bだった。宇宙の機動は地上のそれとは違ってかなり奥が深い。
それはともかく、今日初めて射撃訓練空間の体験をしていた。
人殺しの道具を初めて使ったなんてMSを乗っていながら何を言ってるんだと思うかもしれないが、今まで武装のぶの字すらなかったから重機とそう変わらないんだよなぁ。実際MSは宇宙作業機が原型となってるわけだし。
「怖気づくわー。こんなん遊びで撃ってても怖いのに人に向けるとか想像するだけでトリガーに指が掛からないぞ」
ちなみに、この射撃訓練空間では標的を変更できるんだがその標的リストの中には人型とか鹿とか豚とか牛とかゴブリンとかドラゴンとかわけわからんものが多数あるんだけど……あるんだよ。人型、じゃなくて人間って標的が。
「まさか生きた人間が出てくるんじゃないよな?いや、それなら話し相手ができるから……待て待て、ここの運営を甘く見たら駄目だろ。もしかしたら『殺さないと帰れま10』とかだったら……やばい、自殺まではしないだろうけど間違いなく鬱るぞ」
ないな。うん、ない。
絶対トラウマ直行待ったなし。話した相手を殺すとか嫌すぎるだろ。
……あ、リストに嫌なもの見つけた。『人間(アンドロイド)』ってのがある。間違いなく人間って生きた人間だ?!
え、もしかしてドラゴンとかゴブリンまで生きてるのか?……ゴブリンはともかく、ドラゴンは絶対やめとこ。
負傷無効と銃が通じない、倒せないと自室に帰れないのコンボで閉じ込められて餓死ルートもありえる。いや、さすがにそんな無理ゲーはないか?
「射撃の訓練はしばらく普通の的でやるかな。そのうちゴブリンとかオークとかで試してみよう」
ほら鹿とか豚とかの動物って身近な生き物で、殺しづらいじゃん?え?肉食ってるだろって?それとこれと同じならお前は殺れるのかって話だよな。
その点、人型でも明らかに人間じゃなくて敵意がありそうなゴブリンとかオークなら全然やれるだろ。これならなんとか人を殺すための練習になるかもしれないし(自分への言い訳)
「いやーMSって偉大だな。なにせMSに乗ってりゃ殺す相手を直接見なくて済むし!」
ところでこの手の震えは一体いつ収まるのかな?一応まだ訓練する気ではあるんだけど。
結局30分ほど震えは止まらなかった。
まぁ本格的な殺しを体感してストレスになったんだろうな。と冷静に分析……しても改善する方法がとりあえず飲んどけ総合ビタミン剤ぐらいしか対策がない悲しい現実。
というわけでどうせなら麻痺するまでぶっ放してみるかと開き直ってみた。(錯乱)
「いやー、人間は慣れる生き物とは言うけどそのとおりだと実感したわ」
今となってはAK-47もゲーセンにあるガンアクションゲームのちょっと反動が激しいコントローラーみたいなもんだ。(大嘘)
「んー、それにしてもなんだか妙だなー」
俺の才能って変なんじゃないかと疑っている。
AK-47は小銃、わからない人にわかりやすく伝えるとしたらマシンガンみたいに弾を撃ちまくるモードと猟銃のように単発でしか撃てないモードがある。これがオートとセミオートというんだけど、オートは面射撃に優れていて命中率が落ちる。セミオートは単発で命中率重視、少なくとも標的が動いていないなら——
「のはずなんだけどなぁ」
どーもおかしい。
セミオートで標的を狙って外す距離とオートでだいたいこのあたりかなーって感じでというゆるい狙いで外す距離がオートの方が標的に近いってどういうこと?
オートでの命中率の良さは数撃ちゃ当たる的な命中率ではいいんだけど、全体的に見れば悪い……はずだよなぁ?
俺の認識がズレてるのか?
今日1日は射撃訓練に当てるつもりでいるから検証してみるかな。
あ、トミーガンの方でもやってみるか……それにしてもこのドラムマガジンってなんか邪魔だな。
とりあえずなんとなく「バ〜ルバルバルバル」とテキトーな掛け声を漏らしながら両方とも5マガジンほど空にしてみた。
「やっぱりセミオートは命中率が悪いなぁ」
途中でオートは連続するから着弾地点から無意識に修正しているのか?と思ってセミオートの状態で連続で撃ってみたが——
「んー、そんなに変わった感じしないな」
なぜか知らないけどオートの方が圧倒的に集弾性がいい……こんなことがあるのかね?
……いや、ちょっと待て。この標的の時は妙に散ってるな?
これは3マガジン目の時か——もしかして、いやそんなことがあるのか?
「俺って、狙うと外す……違う、あまり意識しない方が命中率がいいのか?」
意味わかんねー。
とりあえずスナイパーに向いてないのは間違いないな。
その変わり初期のMSとは相性が良さそうだ……ビーム兵器出てきたらどうしよ。普通のビームライフルだと俺向きじゃない可能性が出てきたな。
ビーム・マシンガンっていつから出てたっけ?確かゲルググのどれかが持ってたような気がするんだけど……イェーガーだっけ?ギラ・ドーガは間違いなく持ってんだけど、それって俺のシナリオが破綻してるし。
ビーム・マシンガンってそもそも主流じゃないしなぁ。
……俺自身の射撃の才能とMSの射撃の才能が別であることを祈ろう。
「……撃ちすぎたな」
湿布と塗り薬と総合ビタミン剤の併用で筋肉痛の心配はないはず……だけど——
「耳が痛い」
銃声を受け続けた聴覚は総合ビタミン剤の効果でしか回復が見込めない。
鼓膜が破けなかったり三半規管が正常なままなのは負傷無効があるからに違いない。
それと——
「精神が狂わないのはパジャマのおかげなのは間違いない」
パジャマのリラックス効果は絶大だ。
精神的負担を強制的に軽減……もしかするとほぼなくなっているかもしれない。それぐらいの効果がある。
最近気づいたんだけどこのリラックス効果、実は別のことにも作用している可能性がある。
それは訓練や任務の継続だ。
人間同じことやり続けると飽きが来る。飽きとはどこから来るのかというと変化の無さに精神的負担を感じることから来る…と俺なりに分析した。
元々俺はそれほど継続力がある人間じゃなかった。いくら命が掛かっているとは言ってもこれほど変化がなければ1週間もの間ずっと見えない敵と戦えないだろうし、MSの操縦も現実逃避でゲーム感覚でやっていたと思う。
しかし、リラックス効果にはある種の精神をリセットするような効果が含まれ、それによって継続力が保たれているのではないかと予想している。
そこで疑問思い浮かぶ。
「……レベルが高いパジャマならどうなるんだ。これ?」
確かに便利な効果ではある。あるんだけど……これって度が過ぎれば何も思考できないぐらいリラックスさせられて動くこともままならないほどにならないか?
それともリラックス効果に大小はないからこれが最上位なのかな?
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