第三話
確認してみたら案の定、他のものにもブースト効果があった。
危険という意味でやばいのはもちろん『薬』カテゴリーだ。
大麻なんて集中力上昇、妄想恋人、幻痛、無痛、泥酔、快楽、堕落、老化、衰弱なんてものが付くらしい……これ、大麻の作用に上乗せされるんだぜ?普通に死ぬか廃人だろ。
まぁ、風邪薬とかには免疫力向上、疲労回復、副作用眠気のON/OFFなどいい効果が濃縮されている親切設計だ。
……というか、なぜ違法系をこのリストに入れた?自殺用か?
「なんか疲れたな……でも寝て現実逃避してる場合じゃないよな」
なぜなら……パソコンに表示されてる日時に気づいたんだ。
宇宙世紀0075/01/01 01:12と表示されているが、最初に見た時は01:02だった。つまりここの時間はゲーム内時間と連動しているわけ。
そしてここから導き出されるのはこれ、任務ってリアルタイムで増減するってことだよな。
「休みたいところだけど任務を受けてみるかな。幸い死ぬ可能性はないようだし」
試作人型兵器のテストパイロットの詳細を見る。
・試作人型兵器のテストパイロット(ジオニック)
・参加報酬:戦力ゲージ100万
・スコアアップ報酬:戦力ゲージ100万+開発ゲージ上昇
・終了日時:0075/01/01
・試作人型兵器のテストパイロット(ツィマッド)
・参加報酬:戦力ゲージ80万
・スコアアップ報酬:戦力ゲージ80万+開発ゲージ上昇
・終了日時:0075/01/01
「参加だけで100万……というか、よく見たら受付終了まで結構余裕があるな……もしかして何度も参加できるのか?よく見たら開発ゲージなんてあるぐらいだから可能性としてはあるな」
……それにしても報酬がツィマッドの方が安いのは史実補正なのか?それともそれぞれの企業の予算の都合なのかな。前者なら史実を変えるのに苦労しそう後者だと世知辛すぎる。
俺の印象ではザクIはコスト相応の汎用機、ヅダがハイコストの宇宙を主戦場とする強襲機ってイメージだ。
となると序盤はヅダ、中盤以降はザクI……この場合はザクIIも含むが……が有利という印象だ。
まぁヅダは量産されず、後継機もない以上はザクに絞った方が安定なのは間違いないかな?一応ツィマッドにはドムがあるけどあれってザクのデータ……厳密に言えばグフフライトタイプのデータを応用して作ったもの……だったはず……だからヅダの後継機ではないし、ヅダが正式採用されたとしてどんな兵器ができるか予想ができないのは変わりない。
MIP社は……全然知らない。
え、ザク、ヅダ以外に
「それにコストのことを考えるとヅダはやっぱり少数生産止まりだろうなー。これこそまさしく戦争は数だぜ、兄貴!だな」
コスパに優れた兵器こそ主力に相応しいと思う。まぁゲルググに近いMSは早く開発すべきだとも思うけど、それはジオンもわかってるだろうし、こんな原作も始まっていない段階で考えることでもないか。
「よし、とりあえずザクの方で試してみるか」
早速、任務スタート——
「うお?!」
パソコンのモニターを見ていたはずなのに突然別の場所の風景に変わるなんて経験は今までにないため動揺してしまった。
ここはどこだ?
「……更衣室か?もしかしてパイロットスーツに着替えろってことかな」
あ、ここにもパソコンがある。ということは……やっぱり。
『ここは待機所です。任務の詳細確認、兵器の状態や武装の確認や変更などが行なえます。そして任務中に死亡した場合は戦力ゲージを消費してこちらで復活し、再度出撃することが可能です。ただし任務が何らかの形で完了しなければこの待機所を出ることはできません』
とは表示されているけど今回はMSのテストパイロットで兵器や武装の変更は行えない……というか武装なんてないらしい。
ここがゲームで言うところのセーブポイントか……しかも任務を完了しないと出れないのか、結構しんどそうだな。死んだ後がどんな状態か知らないけど、少なくとも精神的に疲弊、もしくはショックを受けてるのは間違いないし。
次に表示されたのはゲームらしいものだった。
『初回ボーナスとしてパイロットスーツ、ロッカー(小)、階級:二等兵を授与されました』
詳細を確認するとパイロットスーツは宇宙行動可能、対G耐性、身体能力向上(弱)が付与され、ロッカー(小)は自室と繋がっているらしい。
ロッカー(小)はこの待機所に物資を送るための装置ってところか……ただ、このロッカー、小と書いているだけあって小さいんだよなぁ。普通のシューズが1足入るぐらいの靴箱ぐらいのサイズしかないんだよ。どういう意図で使うか思いつかないけど、せめて衣装ケースぐらいのサイズになってほしい。見栄え的に。
階級:二等兵に関しては階級章も添付されていて、これをつけていると軍事施設へ立ち入りができるらしい。でも入れない場所もあるだろうなぁ。フラナガン機関、ザビ家邸宅とか……あ、フラナガン機関はまだないかな?
あと月末に戦力ゲージ40万がもらえるらしい。これは何処からどう見ても給料だな。つまり階級が上がると給料=戦力ゲージ=命も増えるということだな。
……これって大将までいけるのか?ジオンの大将ってギレンしかいないけど……連邦優遇?まぁ元々連邦の方が大国なんだからしょうがないけどな。
「お、任務の詳細はこっちに来る前より細かく書かれてるな……微妙に不親切だな。受理しないと詳細が見えないとか」
詳細は下記の通りだ。
任務:試作人型兵器のテストパイロット(ジオニック)
内容:コロニー内歩行訓練
参加報酬:戦力ゲージ100万
スコアアップ報酬:戦力ゲージ100万+開発ゲージ上昇
スコア基準:目的到着までの歩行距離、歩行時間、転倒回数(少ないほどスコア増)
特別仕様:死亡設定無し、負傷設定無し、機体破損による国力ゲージ無し、機体破損による賠償無し、20分間シミュレータ
これってさ、本当に基礎中の基礎だよな?
もしかして本当にゲームのチュートリアル的なものではなくて、本当の本当に基礎開発から関わるテストパイロットか?
うわ、めっちゃ大変じゃね?だって元の世界で2足歩行ロボットがどれだけ非効率で難易度が高いかなんてテレビを見ていればわかることだ。
これを軍事レベルでやろうってんだろ?これがガンダムの世界観じゃなかったら絶対バカにしてたな。
「まずはパイロットスーツに着替えるか……これって対G耐性は世界基準であるのか、それとも俺だけゲームだから存在するのか、もし世界基準じゃなかったらシャアとか軍服で操縦してたからGで操縦が大変そうだな」
……ところでこれってどうやって着るんだ?
しばらく四苦八苦してやっと着ることができた。
いやー、手首についてる装置でスーツ内の空気を抜くなんて思いもしなかったから着心地が最悪でどうしようかと思ったよ。
「これで俺も立派なジオン兵だな。二等兵だけど」
二等兵が期待の新兵器のテストパイロットなんてリアルではまずありえないことだけど……まぁゲームです……デスゲームだけに。
「さて、いざ出撃!」
パソコンに表示されている『出撃』をクリックすると——
「っと、また瞬間移動か。全然なれない……おおおぉぉぉ」
眼の前には間違いなく、MSの原点であるザクIがそこには立っていた。
これは……なんと言い表わせばいいのかわからない。
本当に命を賭けて戦わなければならない怖さ、殺し合いをしないといけない恐怖、生でザクIを見れたことの感動、そしてそれを操縦できる興奮、不謹慎だと思いつつも早く戦闘をしてみたいという好奇心、そしてそれは楽観が過ぎると呟く理性、カメラが欲しいという欲求、誰にも知られることなく死ぬかもしれないという虚脱感、せっかく就職したのにという悔しさなど様々な思いが入り乱れる。
そんな感情をなんとか飲み込み——
「これってどうやって登るんだっけ?」
直立するザクIを目の前に、途方に暮れる俺であった。