第四話
確かタップがあったような?いや、ファーストではなかった?くぅ、ファーストを見たのなんて何年前も前だから細かいこと覚えてないっての!
と思っていたら近くに昇降機があるのが目に入ってきた。これか……操作方法が車と同じかもっと簡単ならいいんだけど。
お、これにもモニターがついているのか、もしかして……やっぱり、操作方法の説明が映し出された。ちょっと安心。
「……よし、そんなに難しくないな。コクピットの近くで昇るのを止めてくれるシステムがあるのはありがたい……が、そこまでできるなら最初からMSの前に置いておいてくれればいいのに」
何か理由があるのか?とは思うがとりあえず今はザクだ。ザク。
……ん?よく見るとこのザク、ザクIじゃないような気がする。
そういえばザクIって一応試作機じゃなくて量産型なんだっけ?確か試作機はプロトタイプ・ザクってのがあったと思うんだけど……知識にあるだけでどんなザクか見たことないからわからないけどな!
あ、そういえばガンオン(ガンダムオンラインという実在するゲームの略)に居た気が……する?でも外見は全然覚えてないから意味ない、というよりそもそも別ゲーの情報なんてあっても意味ないか。せめて設定的な何かなら参考ぐらいにはなるかもだけど。
とりあえず到着っと……結構高いな。高所恐怖症だと乗るだけで苦労しそうだ。幸い俺は違うけど……もしかしてMS適性って高所恐怖症だったりして。
あ、でも宇宙って無重力の場所が多いんだし高所が怖いと思うことは少なそうだよな。
だって高所が怖いって落ちるイメージが鮮明にできるから怖く感じるんだろ。(テキトー)
「さてさて、見せてもらおうか、ジオン軍のMSとやらを」
なんてシャアさんの名台詞をパクリながらコクピットハッチを開く。
「お、おお……これは……先行きが不安だ」
コクピットを見ると、感動よりもこれからが不安になってくる。
なぜかというと……ガンダムのアーケードゲームでコクピットを模したことが最大の特徴である戦場の絆のようなものを期待してた……ごめん、嘘。多分こういうのだってなんとなく思ってた……超リアルなガッチガチのコクピットなんだ。
さすがに操縦桿2つとペダル2つでMSを操作するなんて無理なんだろうな。メーターやレバー、ボタンなどが結構な数がある。
これを戦闘中に使うと思ったらかなり難しいだろ。
「……ああ、でもこれって試作機だからって可能性もあるか」
よく考えれば現代の戦闘機のコクピットだってそれほど複雑じゃなかったはず。それなら現代よりも未来である宇宙世紀でこのままの作りだとは思えない。……例え、ファーストガンダムが1979年の作品だったとしても。
……それと不自然なぐらい堂々と座席の上にデーンッと本が居座っていた。
その本のど真ん中には『チンパンでもわかるMSマニュアル』とデカデカと煽り文句が書かれていた。
「じゃあコクピットに……って、このモニター邪魔!なんで搭乗口のど真ん中にこんなもんあるんだ。脱出とか緊急出撃に絶対邪魔になるだろ!」
なんとか避けながら座席にあるマニュアルを手に取りつつ乗り込むと……やっぱり戦場の絆に比べるとかなりゴテゴテしてる。これはなかなか操作を覚えるのに苦戦が予想される。
「モニターに何か書いているな」
『オプションの『陳情』が解禁されました。『陳情』でレポートを送ることで意見が反映されることがあります。成功率はジオン公国の方針と階級に依存します。陳情は1度行うと一定期間行えません。一定期間というのは階級依存です』
なるほど……これって多分テストパイロットだからじゃないな。多分これで作戦とか口出しすることができるということなんだと思う。
これは間違いなくジオン公国を勝たせるのに重要な機能だ。問題は階級依存……つまり二等兵の陳情なんてほぼ成功しないだろう。
それにクールタイムがある上にまた階級依存、1回使ってみないとわからないけどやっぱり階級が低いと長いんだろうなぁ。普通に考えると下っ端の方が仕事は多いんだけど。
「とりあえず、次へをクリックっと……」
『20分間のシミュレーションを行うことができます。シミュレーションは任務には関係なく機体を動かすことができます。開始すると中断することはできません。開始しますか?』
任務の詳細の時から気にはなってたけどやっぱりそういうことか、割と親切設計でちょっと安心だ。
ただ、こうなるとこのテストパイロットの任務はそんなにないのかな?これはチュートリアルだと思ってたけど、このシミュレーションがチュートリアルみたいだし。
とりあえず……20分か、全力で学ばないとな。
あ、その前にトイレ行っとくか、20分もチュートリアルして、もしかしたら本番の任務まで続けてやらないといけない可能性を考えたらトイレと水分補給はしておくべきだ。
「……問題はトイレってあるのか?」
マニュアル片手に来た道を戻る。
ありました。
パイロットや整備員達の休憩所が用意されていたらしく、そこに給水用の水、お茶、他にもトイレ、寝ることもできるソファー、、デスクとチェアに筆記用具とノート、シャワールームがあった……あれ?もしかしてシャワーいらんかった?!トイレは部屋に欲しいけどシャワーとか任務終わりでここでできるじゃん?!あ、でも任務終わりでここに来るかどうかはわからないか、いやでも…………ま、いいか!やっちゃったことは気にしない!
そして早くMSに乗りたい気持ちをなんとか理性で抑えてチェアに腰掛け、簡素なデスクにマニュアルを置き広げて30分……だと思う。時計がないので正確にはわからない。少し不親切だと思わなくもない。
固まった肩と首を動かして解して思う。
「思ったよりは複雑じゃないけどやっぱり戦場の絆よりは難易度高いよなぁ」
一通り読み終わった感想だ。
見た感じ、動かすだけならなんとかできそう。ただ、戦闘となると自信がないな。
少し休憩してからにしようと思い、ソファーに寝転がる。
横になったものの頭の中では操縦するシミュレーションを繰り返す。
どう考えてもニュータイプじゃない俺は地道に訓練するしかない。
休んだことで熱が冷め、なんで自分がこんなことに……というネガティブな思考が浮かんできたが押さえつける。
勉強で使った脳を休ませるために横になったんだけど、休もうとすると不安が湧き上がって来るので何度も何度も脳内シミュレーションを繰り返す。
とっとと特典のシミュレーションをやればいいという思いもあるが、貴重なシミュレーション時間の可能性も考慮すると万全で挑みたい。
デスゲーム……自分の命を賭けたゲーム……今起こっていることがそれであると言われても納得も理解もしたけど、やっぱり未だに何処かで他人事のように感じる。
この認識の差も消化しておく必要があるな。
戦力ゲージなんていうゲームみたいな数字が命だと言われても実感はない。ないが暗示を掛ける必要があるぐらいには重要なことだ。
死んでも蘇るなんてバカバカしいことを考えず、死んだら後がないという思いで必死に生きる。
ゲームじゃない1度死ねばそれで終わり、ゲームじゃない1度死ねばそれで終わり、ゲームじゃない1度死ねばそれで終わり、ゲームじゃない1度死ねばそれで終わり、ゲームじゃない1度死ねばそれで終わり、ゲームじゃない1度死ねばそれで終わり、ゲームじゃない1度死ねばそれで終わり……………
「ハッ?!寝てた!」
寝たおかげでだいぶ頭がすっきりした。
この馬鹿にしているマニュアルとこの部屋のせいで改めて現実であることを再認識する。
暗示が利いたのか、それとも寝て起きても夢ではなかったことで事態を受け入れたのかどちらなのかわからないが眠ったにも関わらず、緊張感が生まれた。
これは大事にしないといけない気がする。
「フゥー……よし、いくか」
部屋を出て、今度こそあの重厚感あふれる人型兵器を操縦する。