第六話
跳んだは良いが問題は着地だ。
アニメではすっげー当たり前に行われている着地なんだけど、このプロトタイプザクではかなり難しい。
機体はかなり頑丈にできているんだけどやはり関節への負担が凄い。シミュレーションではMSのコンディションを表示する簡略化されたMSの画像が描かれたステータス画面があるんだけど1発で脚部全体がレッドアラートで数歩動いたら見事に脚部全損したからな!
その後、にっちもさっちも行かなくなってモニター子さんの案内でリスポーンすることができた。(リスポーンは本来は5分間誰にも観測されないこと、機体は廃棄されることが条件で待機所に移されるが、シミュレーションでは全て免除)
それを何度か繰り返してようやく解決策が閃いた。というより思い出した。
原作でも着地の際はスラスター吹かしてたということに!
「今!よし、完璧!」
いやー、ジャンプするときにスラスターが必要ってのはわかるんだけど着地に必要とは思わなかったんだよ。
ゲームなんかで着地時にスラスター吹かすゲームなんてなかなかないじゃん?……ないよな?
ちなみにザクが……いや、MSがスラスターをずっと吹かさず、要所要所で吹かしているシーンがあるだろ?あれって推進剤の節約と人間が反応できる速度にしているのかと思っていたんだけど、実は別に理由があることがわかった。
それはスラスターを長時間吹かすとスラスターに負担が掛かって融解しちゃうということを身をもって体験したことだ。シミュレーションでだけどな!
このジャンプを覚えたおかげでタイムアタックをしようと思ったんだ。これってコツさえ覚えればかなり応用できる。
まぁ着地点を慎重に選ばないと地面が崩れたりバランスを崩したりして余計にタイムラグ、最悪転倒やスラスターが融解しちゃうけどな。
まだまだヒヨッコの俺がMSの操縦において最も気をつけないといけないことは何かと問われるとこう答える。
どんな状況においても自分の意思以外で自分の手足を動かさない。
完璧に実現するのは難しい。でも一々衝撃で手足が動くようじゃMSは操縦できない。
……これからは筋トレしよ。体の制御もだけど、長時間の戦闘のための体力づくりとか振動とか衝撃に耐えるのに必要だろうからな。
それに多分帰ったら明日は筋肉痛……あ、なんかいい薬ないかな?湿布あたりで軽減できるかも……塗り薬もありか。後で要チェックだな。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……お、終わった」
途中でうっかりスラスターを酷使しすぎて危うく融解するところだった。
それにしても立て続けに衝撃と振動を受け続けるのは堪えるぞ。
これが宇宙戦闘ならまだ……と言いたいところだけど、宇宙戦闘って無重力だろ?今まで体験したことないから不安で仕方ない。
特にゲームで宇宙戦闘は得意じゃなかった俺だから尚更だ。
「さて、問題はスコアだが……」
『任務達成おめでとうございます。あなたのスコアはCです。今後も頑張ってください』
おう、スコアはCか。
今まで緊張で強張っていた体から力が抜け、操縦席の背もたれに倒れ込む。
スコアは達成した場合にしか付かず、1番下はGで上はACE(Aの上扱い)の8段階評価でCなら5番目だからスコア報酬は500万?!しかも任務達成報酬100万で合計600万?!
これなら俺の命のストックも夢じゃない!!……いやいや、落ち着け俺。まだ慌てるような時間じゃない。
そもそも自室のパソコンのメニューには兵器という項目があったんだからおそらく兵器を買わなければならないはず。
……MSっていくらすると思う?
「ただMSで歩いてジャンプしただけなのにすっげー疲れたな」
仕事なんて目じゃないぐらい疲れた……けど達成感も比じゃないな。
まだまだこれから頑張らないとな。
『格納庫から離れたい場合は端末にアクセスし、戻り先を選択してください』
うーん、とりあえず格納庫付属の休憩室で水分補給しておこう。だって自室に戻ってもトイレとシャワーしかないから水なんて飲めない……ああ、トイレの洗面台とシャワーから直接飲めるか……この不思議空間だからカビとか浄水とか勝手にされてるとは思うんだけど、めちゃ抵抗がががが。
……しょうがない。洗面台の水で我慢するか。我が事ながらケチくさいやつだ。
とは言っても水を買うって感覚はないんだよなぁ。元々俺は井戸水を浄水器通して飲んでたからなぁ。
プロトタイプザクから降り……そういえば昇降機は勝手にコクピットハッチに接着されたけどオート機能があるならなんで最初から付いててくれよ。
そんなことをぶつくさいいながら水を1杯のみ、続いて汗で気持ち悪くなった体を洗おうとシャワーへ……と思ったがよく考えたら着替えがない。
誰も居ないとはいえ全裸はちょっと……なんというか落ち着かない。
なので今度はお茶を2杯ほど飲んで端末で直接自室へ移動を選択する。
元々着ていた服はロッカー(小)に入れておいたから多分自室からも取り出せるはずだから問題ないはず。もし取り出せなかったらそれはそれ、仕方ないからジャージあたり買うかな。幸い、自室はコロニー内ってことは気温変化が乏しいはずだし……そういえば昼夜は存在するのか?
ああ、そういや——
「今は夜中なのに外が明るい段階で昼夜がないのは明白か」
戻ってきた自室から映る窓は明るいのに現在の表示時間は2:03となっている。PMもAMも表示されていない以上は24時間表記だろうから今は真夜中を意味しているはずで、そうなるとこの時間に明るいということはそういうことだろう。
「とりあえずシャワー浴びる……前にロッカーの共有を確認しておくか、ところでロッカーは………………アレか」
普通は唯一の部屋の出入り口である扉、そしてこの異空間に置いてはただのオブジェでしかない扉。
その扉に待機所でみたロッカー(小)と同じ外見のドアが付いていた。ほぼ間違いないんだけど……なんでそこに設置した?ちょっと大きい郵便受けにしか見えないんだけど……まぁいいか。
小さいドアを開けてみると案の定、自分が着ていた服が収まっていた。これで心配事が1つ減ったな。他の心配事から比べると些細なものだけど。
「さて、とりあえずシャワー浴びるか……その前にこのパイロットスーツをロッカーに……——ハッ?!ヘルメットが入らないだと?!」
うわ、これってつまり待機所に置いて来るか、ここに置いておいて任務の際に持ち運ぶかってことだよな。
んー……ここに置いておくと忘れた時に絶望するから今度からは待機所に置いとくことにしよう。絶対忘れないように用事が終わったらパソコンの前に並べておこう。
パイロットスーツの効果抜きで操縦なんてできる気がしない。振動だけで死んでしまいそうだ。……そういえば以前シャアはパイロットスーツを着ずによく耐えれるなと思ったけど、あの仮面とか服とかに特殊効果がある可能性があったか。まさか3倍の速度はあの軍服で……なわけない……とは言い切れないか。
あとでそういう軍服やパイロットスーツがないか確認しておこ。
「あ、報酬確認しないとな」
どうやって報酬を受けるんだ?勝手に受け取られているのか?
まぁ困った時のパソコン……というかこれ以外何もないからな。
任務のアイコンが点滅しているのでクリックしてみると『報酬受取』という項目が追加されていたので更にクリック。
『任務達成』
・試作人型兵器のテストパイロット(ジオニック)
・参加報酬:戦力ゲージ100万
・スコア報酬:戦力ゲージ500万、開発ゲージ5
・達成日時:0075/1/1
「うん、至って普通だな。それと予想通りの600万か、あと5回やって俺の命1回分……果たして俺の命は安いのか高いのか……まぁ言えるのは現時点で俺の年収を軽く上回ったのは確かだ」
多分出費も軽く上回ることになるけどな。
自炊用のキッチンも欲しいし、そういえばシミュレータとかないかな?
……あったよ。でも値段が最低1000万とか無理無理。しかも最低と付いているだけあって使えるのはプロトタイプザクで、できることは今回と同じ内容だ。
さすがに1000万掛けてそんなのはいらん。
「あー、やっぱりそう甘くないよなぁ」
任務の一覧を見ると——
「ジオニックのテストパイロットの報酬下がってやがる」
参加報酬が99万に減っていた。
ランクアップ報酬の方は減ってはいないけど最高ランク以下のランク報酬は開発ゲージのみ、つまりBランク以上じゃないと戦力ゲージは手に入らないってことらしい。
なかなか辛い設定だ。
参加報酬の99万というのは、普通に考えれば参加回数だけ1万ずつ減っていく感じだろうか?
それに開発ゲージが何なのかもはっきりしない。開発ゲージっていうぐらいだから当然開発に関わる何かなんだろうけど、MSのスペックが向上するのか、それとも早く開発されるのか、コスト削減されるのか……可能性がありすぎて困る。重要なことなのは変わりないだろうけどな。
さて、誰得の俺の入浴シーン突入……しようとしてそこで気づく。
「……シャンプーもボディーシャンプーもねぇ!当然だけど体を洗うタオルも拭くタオルもねぇ!」