第十五話
まずは何をおいても情報が肝心だ。
スラムのツテや軍学校の人脈を使って調べ、いくらかの企業と話をつけた。
開発部で申請されたものを企業に回すことでマージンをもらう。
ただし、採用する順位をあげるだけで優遇はしない。求められるスペックは満たさない限り認めないことにしている。
私的利益と公的利益が両方満たされてこそ仕事となる。私的利益を優先して公的利益を満たさなければ犯罪となり、公的利益を満たしても私的利益を満たされなければそれは奴隷と変わらない。
候補生という曖昧な階級で面倒な仕事をさせる方が悪い。(本音)
申請そのものを変更することは意外と簡単だ。
開発部というのはマッド達の巣窟で欲求に忠実であり、懲りることがない。なぜなら彼らは自分達が替えのない存在であると疑わない。だからこそ本来必要ないものを必要だと繰り返し申請してくる。バレてペナルティを受けても。
その違反している申請を通す代わりに設備や資源などはこちらで指定した企業が用意できる場合のみ変更することにした。ただし、既に癒着が激しいジオニックのものを手につけると面倒そうなので細々としたものに限定した。
バレることについては違反した申請の的中率が高いことで上司達からは信頼を得ているので誤魔化すのもそれほど難しくない。
もしバレたら裁かれることは間違いないが……派閥を率いる者として派閥の維持……というか子供達が飢えないためには仕方ないことだ。うん、立派な犯罪者の言い分だな。
スラムというのは改めて崖っぷちなことを自覚している今日この頃だ。
後がない、取り返しがつかない、未来が考えられない、今生きるだけで精一杯だから。
なぜそんなことを言っているのかというと蓄えが既に1ヶ月分を切っていて、現在絶賛切り詰め中にてなんとか延命処置を行っているのだ。
これが尽きれば、スラムの子供達は犯罪に走らなければならない。
犯罪をするのはいいのだが、問題は子供達が行う犯罪というのは効率が悪い。リターンが少ないのはいただけない。
しかも現在ジオン公国は国を名乗ってはいるが、ザビ家の独裁状態である。
独裁国家というのは上が許せば何でもできる、つまり犯罪者を使って人体実験なんかもできるのだ。
……というよりも既に人体実験はおそらくされている。しかも軍が主導で。
経理部というのは本当に情報の宝庫だ。
配置されている人員よりも多い部屋と食料消費量、健康診断でもするのかという医療機器類……そして明らかにやばい薬品類。
実験台にされているのは果たして何処の誰なのか……ダイクン派、犯罪者、拉致、どれもありそうだ。
スラムでスラムの住人らしからぬ動きをする人間も目撃されているし、要注意だ。
モニターに映るのはパプア級輸送艦6隻が今まさに出発しようとしている光景である。
つまり経理部の戦争終結を意味していた。いや、正確には現在進行系で書類は増え続けているだろうが少なくともピークは過ぎた。
と言っているが私は未だに開発部に所属のままで、おかげもあって資金は充実し、スラムの大人を10人に増やすという投資まで行うことができた。
ちなみに兵長候補生という肩書を保って初めて得したのは大人達を社会復帰させる時だとは思わなかった。
家を借りる時の保証人、就職の際の後見人などの時に階級をちらつかせるとスマートに話が進む。
これが権威というものかと感心したものだ。
それにしても……パプア級が6隻?経理部の先輩達の話では12隻相当の資材が用意されたはずなんだが?
考えられるのは予想より多くの資材を必要になった……わけないか。さすがに2隻分を使って1隻になるとは考えづらい。
となると答えは……使われずに保管されているか、それとも別の用途で使われているか。
「間違いなく別の用途……いや、新しい戦艦か何かを作っているんだろうな」
いつの間にか常態化した地球連邦の観艦式も近づいてきているし、それに対抗して戦艦を用意する……ありそうな話だ。
0070年の地球連邦軍観艦式が行われたのだが……
「軍拡がされていたのは知っていたが」
そこには新型の艦が2種類並んでした。
名前はマゼラン級戦艦とサラミス級巡洋艦というらしい。
60年代軍備増強計画の集大成として完成した艦艇である……と連邦軍の広報は言っているのだがイマイチピント来ない。
正直、既存の艦艇とどう違うのかわからない。
確かに砲台の位置や数が変わっているはわかるが、根本的に形が船のままってのはどうなんだろう。特に艦橋。
艦橋は必要なのか?宇宙で目視確認なんて殆どしないだろうし……ただ、だからといってどんなデザインがいいか、と問われると回答に窮すが。
しかも70年代軍備増強計画も発表され、とりあえず、地球連邦はジオン公国に対して話し合いではなく殴り合いで解決する方針なのは良くわかった。
そして2ヶ月後——
「チベ級重巡洋艦か」
デザインは大きく違うが、船の範疇から出ないデザインだ。
手元にあるカタログスペックを見たところ悪くない性能なんだと思う。
連邦の新型艦に比べると戦艦を銘打っているだけあってマゼラン級というのには劣りそうだが、サラミス級よりは優れていそうだ。
ノウハウがなく、国力が劣る現状でよくこんな艦艇を作れたものだと感心する……が、重巡洋艦ということは殴り合いに応じるということなので複雑な気分だ。
というか実はジオン公国の実権はデギン公王ではなく、ギレンが握ってるのか?好戦的過ぎる……が経済制裁を受けて話し合いなんて応じればまず間違いなく独立なんて目指せないだろうからわからなくはないが。
「なんて考えていたら雲行き怪しすぎないか?」
資源衛星ルナツーをサイド7建設のために月とは反対側の軌道に移動させたが……その言い分を信じているジオン民はいない。
どう考えてもスペースノイドが信用できないから軍事基地を別に用意したようにしか思えない。
事実として新造されたマゼラン級やサラミス級が艦隊で配備されているのだから苦しい言い訳だ。
「……そうか、サイド7はサイド3とは真反対に作られるのか」
物価の上昇はもしかすると経済制裁以外にもサイド7建設によるものもあるかもしれない。
本来なら前世よりも経済規模が大きいのだから既に量産されているコロニーの建設などそれほど掛かるとは思えないが、こういう大事業で起こるのが値の釣り上げだ。
無いわけではないのに業界全体が値を上げて利益を出そうとする。
そうして利益を得るのは……邪推や陰謀論であって欲しいがおそらく地球連邦を支配する層だ。
更にはサイド7ができることで消費地が増え、1番距離が遠いサイド3の物価が上昇してしまう可能性が高い。むしろ月という障害物がないサイド7の方が手軽に輸送できるだろうことを考えればそちらに物流が流れてしまうのは不思議ではない。
つまりサイド3は独立以前に経済危機に直面しているということか?!