第五話
軍学校と言っても授業内容自体は普通の学校と変わりない。
結構な割合で体育という名の訓練が入るが、これは他の授業と違って年齢毎に分けられているためそれほど苦労しない。所詮10歳だからな。
ああ、でもマラソンや匍匐前進の訓練がほとんどで子供達は不満たらたらだったか、所詮10歳だからな。しかし、衣食住を保証してくれているのだから文句は言わないように。
それに16歳ぐらいになると倒れるまで走るとか失神するまで水に沈められるとか穴が空いたノーマルスーツで宇宙に放り出されて自分で応急処置を行うなんていうことをやらされるらしいぞ。
拷問かな?いや、拷問対策も兼ねてるんだろう。
衣食住と言えば衣は簡易軍服のようなものでデザインが良く、住も4人部屋で2段ベッドで少し狭いがユニットバス・トイレ完備している。
これらには不満はない。
だが、問題は食だ。
食事は早い、大量、不味いの3拍子が揃っていてメニューは1種類のみ。軍隊だから戦場を想定した効率重視という方針らしい。
1つ想定外なのはスラムで食べるものより不味いということだ。まさかスラムより底辺が存在するとは。
更に残した場合、その重さ分だけ重りを付けられ、3日間過ごさなければならない。つまり最大で9食分付けなくてはならない。
ちなみに外食は許されるがこの食事を残すことは許されないため実質不可能。唯一の利点は無料であることと栄養と腹だけは満たされることぐらいだ。
ついでに言うと非常用のレーションは更に不味いらしい。これを聞いた時、信じもしない神様に非常事態にならないように祈ってしまった。
ただし、この量自体は成長期が過ぎると普通の量に戻されるとのことだ。大食いのままで現場に出られると兵站に関わるからとのこと。
ただ、この軍学校でも場違いな存在がいる。
例えば一部の教科以外は高得点を叩き出し続ける10歳、妙に大人口調が似合うけど見た目が合わない10歳、そもそも最年少10歳の次の年少が15歳と飛び抜けているのだから場違い、目立たないわけがない。
……まぁ言わずとも私のことなのだが。
本来抑えた成績の私程度の子供はたまにいるはずだが、そんな天才は基本的に軍に来ない。
情勢的に考えて科学者を目指す者、もしくは親が目指させるだろう。
故に私は異例。
……これがただの学校でのことなら問題にならない。社会に出れば基本的にバラバラで会うことも意図しなければ奇遇や偶然に頼るところになる。
しかし、問題はここが軍学校であることだ。
ここにいる者の殆どは卒業後の就職先はほぼ軍に固定されている。
同じ頃に卒業するとなると能力の差や上司や運などの差があるにしても普通に熟していれば始まりも昇進も同じタイミングになるだろう。つまり本当に戦争でも無い限り同階級となる。
このままでは私1人孤立したままで軍人となった場合、生存率と出世に関わる。
出世はともかく生存率は問題なので是が非でも改善すべきなのだが……どうも変な噂のせいでそれも上手くいっていない。
裏口入学的な特別枠で入ったような噂が流れているのだ。
どうも成績が良すぎたことが原因らしい。つまり、下駄を履かせてここにいると。
士官学校ならともかく、軍学校でそんなことしてなんの意味があるのか。
ここ軍学校はあくまで下級士官育成が目的、つまり一般市民を軍人にするための学校である。
本当のエリートは別に士官学校が用意されている。
ちなみにこの軍学校卒業後に就くことができるのは簡単にまとめると成績が悪い者は二等兵、良くて一等兵、トップクラスで上等兵だ。
これが士官学校となると卒業するだけで尉官が確定、普通の成績で中尉、良くて大尉。エリートの中のエリートが佐官、つまり少佐。
ちなみに階級は二等兵、一等兵、上等兵、兵長、伍長、軍曹、曹長、准尉、少尉、中尉、大尉、少佐となっている。
……改めて見ると凄い格差だな。それはともかく、わかっていただけただろうか、軍学校でお山の大将になる意味の無さを。
しかし、彼らはそれを理解してくれない。
少なくともこの世界(軍学校)から抜けるまでは私が成績上位者であることに変わりはない現実があるから。
「どうしたものかな」
問題を解決することなく、新しい年度がスタート。
どうやら志願自体は1年中受付しているが、基本的には年度前に届けを出すのが普通らしく、年度始めに大量の後輩が流れ込んできた。
これにはもう1つ要因がある。
それは——『コロニー自治権整備法案棄却』である。
ジオン共和国の父であり、穏健派であるジオン・ズム・ダイクンがジオン共和国を建国以来……いや、おそらくそれ以前から進めてきたこの法案は読んで字が如くコロニーに自治権を確立させるための法案だ。
スペースノイドの悲願とされているこの法案が棄却されたことでスペースノイドの反連邦感情が爆発した結果だ。
そしてこれによりジオン首相の発言力は低下し、過激派のザビ家の発言力が増大して軍拡に力を入れ始めたとも聞いた。
正直、私はこの法案に期待していなかった。
そもそも地球連邦も7年前から60年代軍備増強計画という宇宙艦隊の拡充させ続けているし、毎年観艦式を行って威圧している。
どう考えても穏便に話を進めるのはかなり難しい。
おそらく話し合いだけで解決するとなるとジオン首相が生きている内に……いや、私の代でも不可能だろう。
「それにこれを見せられるとな……」
増税が発表された。
その名目はサイド7の建設のためというのが名目だ。
普通に考えてこんな理由で増税がされるわけがない。しかも、この増税はアースノイドは対象外である。
額にしたら大したものではないが……明らかに煽っているとしか言えない。
おそらく地球連邦的には余計なことをさせないために余力を削ろうという意図だろうが考え方が中世の頃の人間が考えそうなことだぞ。
そして——私のクラスにおいての立場が更に複雑化し始めた。
先輩なのに同クラスの圧倒的年下。
受け入れられづらいのは間違いない。
実際、意気揚々と入隊してきた彼らは私が先輩であると知ると鼻白む。
まぁあまり暴走されては諍いの素に成りかねないので丁度いいかも知れない。