第六話
更に1年経過して12歳となる。
クラスでは孤立気味なのに下の年齢層に私の派閥が出来上がっていた。
派閥と言ってもスラムの子供達が入隊してきただけなのだが、その数リンクとレヒトを入れて12名。後、同じグループではないがスラムの子供同士の繋がりで増えた8人、合わせて20名で組織されている。
ちなみに私が主導したわけではない。勝手に集まってきて勉強がどうしても遅れがちな彼らに教えていたら勝手に派閥となってしまっていた。
だが、この派閥ができたことで良いこともあった。
クラスの立ち位置に変化があったのだ。
先程も言ったが孤立気味ではある。しかし以前までの孤立とは状況が変わった。
私の派閥がスラムの子供達で構成されていることに違和感があったクラスメイト達は調べることにした。
それはそうだろう。20名の派閥というのは上から数えた方が早い規模だ。情報収集を怠ってイジメと取られても不思議ではない現状を続けてしまえばいつ敵対行動を取られるかわかったものではない。それぐらいは軍人見習いであれば当然理解できるだろう。
そして調べた結果は——
「なに?!入試も試験も全てやつの実力だと?!しかもスラムのやつらの面倒まで見ているなんて?!」
と言ったとかどうかはわからないが、そんな空気を漂い、私に接触してくる者が現れ始めた。
おかげで仲間や友とはまだ呼べないまでもクラスメイトという大きな括りぐらいには呼べるようになったと思う。
特に変化したのはスラム出身の者達だ。
スラム出身者というは警戒心が強く、臆病者で仲間であっても信用するのに時間がかかり、そして何より、卑屈だ。
周りがそう扱っていなくてもスラム出身であるというコンプレックスを抱いているものでスラム出身者はスラム出身者同士で固まっている。
しかし、残念ながらスラム出身というのは精神のタフさとは反比例するように頭が悪い。言葉より手が先に出るタイプが多い。
「私は暴力を好まないのだが……わざと負けられるのもスラムの流儀に反するだろう?」
「ぐっ」
「ハァ……ハァ……ハァ」
「離、せ」
「弱者は強者に従う。そうだな?私はスラムの流儀に則っているのだから優しいだろう?当然従ってくれるだろうな。そうでなければ君達は獣以下の存在だ」
彼らは私を押さえれば派閥を手に入れる事ができると安直な考えで襲ってきた者達だ。
まぁ気持ちはわからなくはない。年下で優等生で派閥まで保有している。嫉妬して当然だろう。
しかし、それを許すかというとそんなわけがなく、遠慮なく返り討ちにした。
ただし軍だと私闘はどんな言い分があろうと連帯責任、つまりこれが表に出てしまうと懲罰対象となる。
なので彼らの怪我は服で隠れている部分で済ませた。
おかげで表沙汰になることもなく、彼らも懲罰を受けること無く派閥の傘下に入った……なぜ私はこんなことしているのだろうな。望んだわけではないのだが。
ああ、ついでに私が喧嘩……肉弾戦が強い理由はやはり目にある。
以前に人物鑑定に関しての時に話したが、私は常人よりも読み取る能力が優れていると説明したが、その読み取る能力自体は相手の感情を読み取るだけではなく、行動そのものを見切ることが可能なのだ。
本物の軍人ならわからないが、まだ未熟な彼ら相手なら十分に通用するものであった。
この目には本当に世話になっているな。
スラムに行った時に子供達を返り討ちにしたことや大人達を撃退したのもこの目のおかげである。
足を向けて寝れないな……そもそも目に向けて足を向けられないが。
大事件が起きた。
ジオン・ズム・ダイクンが亡くなったというのだ。
こんなデマが流れるとは思えないしニュース番組ではこれで一色になっているあたり間違いないだろう。
突然の死であるため憶測が飛び交っている。
その中でも特に大きいのがザビ家が暗殺したのではないかというものが多い。
これはジオン首相とザビ家の権力争いを行っていたのだから当然の見方だろう。
私としてはザビ家がジオン首相を暗殺するにはあまりにもリスクが高すぎると思うのだが。
個人的には地球連邦が暗殺したという可能性の方が高いと思う。
実のところジオン共和国よりも地球連邦の方が戦争をしたがっているように見えるのだ。
ジオン共和国という弱者を生贄にスペースノイド全体に武力という圧力で黙らせたいのではないかと思っている。
ただし武力行使というのは先に振るえば世論が黙っていない。平穏平和の中において世論の力は戦時のそれより圧倒的な力を持つ。それこそ各サイドが反旗を翻し、下手をすると地球連邦そのものも割れるかもしれない。
だが、ジオン共和国そのものを……ジオン・ズム・ダイクンをそのまま放置しておくのも面白くないだろう。
それなら暗殺してしまえ、と考えても不思議には思わない。地球連邦がどういう国が具体的にはわからないが、あのふざけた課税を見ると暗殺などどうとも思わないだろう。
そして、この暗殺は——
「亡きジオン・ズム・ダイクンの後を継ぎ、スペースノイドの未来のため、私、デギン・ソド・ザビは国家元首として粉骨砕身の気持ちで臨む所存です」
——デギン・ソド・ザビが首相となったことでザビ家が行ったのではないかと疑いを向かせることができる。
更に、ザビ家は過激派である以上、軍事行動……いや、地球連邦がジオン共和国を国として認めていない以上、テロ活動ということになるか……を起こすことはほぼ確定する。
そして残念ながらテロ活動というのは世論を動かす力はない。
もしテロ活動で世論を動かすことができるとすれば大勝に次ぐ大勝を重ねて人口の減少か経済的打撃かで戦争の継続が不可能な状態に持ち込むしか無い。
……サイド3以外が全て地球連邦で統一されているこの現状で?不可能だろう。
先行きが不安で仕方ないが……軍を抜けるという選択肢のも難しいところだ。
なぜならジオン共和国はサイド3であり、サイド3がジオン共和国である現状だと地球連邦がサイド3丸ごと処分するという可能性もあるからだ。
後、もう1つ不安要素がある。というか実はこれが怖くて抜け出せないというところが大きい。
もしジオン共和国が武力行使を行い、敗北した時……自暴自棄を起こして自爆しないかという心配だ。
例え私が軍属でも防げるとは限らないし、その時まで生きているとも限らない。
しかし、軍属なら一市民よりかは何かができる可能性もあるだろう。
それに……私の生きる意味というのは今の所見出だせていない。だが、2度目の人生なので死んでもそれほど後悔はない。
しかし、スラムの子供達はまだ1度目の人生のはずだ。
なら……彼らの人生が明日や明後日になくなるような儚いものであっても少しでも長く輝かせるために戦うのも悪くないだろう。
目下の悩みは、そのスラムの子供達が私を追いかけて軍人になろうとしていることだがな。