第九話
サスロ・ザビの死亡はザビ家にとってかなりのマイナスだ。
いつもの如く私の人物鑑定に過ぎないが、ザビ家の中でデギン首相を除けば1番政治家に向いていたのはサスロ・ザビだ。
私のザビ家の評価はギレン・ザビは知の知、キシリア・ザビは知の裏、ドズル・ザビは武の人、そしてサスロ・ザビは知の人と言った感じだ。
ギレン・ザビは知の知、長男であるがゆえにザビ家を継ぐ立場だが、どちらかというと宰相、参謀タイプだとみた。
キシリア・ザビは、知の裏、俗に言う良くて外交官、悪くて諜報に属するタイプで表に堂々と出すには不向きな人材だ。ただし、本人が分不相応に表に出たがりそうなのが心配のタネだ。
ドズル・ザビは武の人、将軍に向いている。以上。
そして本題のサスロ・ザビだが、知の人、わかりやすくいえば頭の回転が早く、人を使うのがうまい。特に民衆を使うのがうまいという印象があった。
サスロ・ザビが民衆からの声を聞き入れ、ギレン・ザビが頭脳として判断し、キシリア・ザビが裏から支え、ドズル・ザビが武を持って国の盾となる。
サスロ・ザビが居てこそスペースノイドvsアースノイドという図式に持っていきやすいと思っていたが……デギン首相主導でいくなら問題ないがギレン・ザビ主導でいくと外交的敗北からのジオン共和国vs地球連邦という最悪のステージに突入しそうだ。
ギレン・ザビは天才だとは思うが、天才ゆえに大多数に理解されず、ギレン・ザビ自身も大多数の凡人を理解できない。頭脳は目や耳があってこそなのだ。
サスロ・ザビの代わりとなる目や耳が現れればいいが……そうでなくては戦いに勝てても戦争には負ける……なんて展開が過ぎったところで私は一体何様だという思い直す。
未だに中身はともかく、生徒という応護下にいる未熟者、階級すらもらっていない存在であり、行動もろくにしない不平家に過ぎない——
「カリウス・オットー、経理部からの推薦で君を一等兵候補生とする」
先日から私はフラグを立てて回収を繰り返しているのか。
ちなみに一等兵候補生なる階級は聞いた時はなんとも曖昧な階級だな、と思ったものだが、内容を知ればそれなりに凄い階級だった。
卒業後に一等兵になることが確定しているというのは予想通り、しかし候補生の段階からまさかの二等兵よりも上の権限を有するらしい。ついでに言えば一等兵よりは下なので一等兵と二等兵の間に位置する階級になるようだ。
そしてまた私は派閥以外の人間と溝が深くなった気がする。
既にこの年齢で実地訓練という特別待遇を受けている段階で手遅れな気もするが。
ちなみにクラスメイトで私と同じように実地訓練を赴いた人もいたが、一等兵候補生となったのは私だけなのだそうだ。
私の仲間は喜んでいたが、クラスメイトからは嫉妬の炎が燃え上がっていた。
人間関係というのは難しいな。
成績優秀で通る私だが、正直体力や筋力という面では悪くこそないが特別良くもない。
特に筋力に関しては自信がない。
ただ、私にも得意なことがあった。
「……最初の2発以外、全てクリティカルだと」
軍学校の教官であることから日頃から冷静沈着で褒めることより叱責することを方針としている担当の教官に驚きの声をあげさせることに成功した。
最初の2発は渡された拳銃の癖を知るためとその調整に使ったが他はクリティカル判定、つまり的の中心を射抜いている。
もちろんばらつきはあり、映画などにあるような弾を全て重ねるようなものではない。しかし、これが初めての射撃訓練なのだから上々としておこう。
ただし、他者から見れば才能ありと見えたかも知れないが、私自身は私の弱点が判明した。
大体において同じだと思うが私は特に視覚に頼るところが大きい。
それが意味するところは通常の人間は経験則から来る、イメージ、勘などで本来得られない情報を得られる時がある。
だが、私は視覚に頼りすぎてそういった思考に頼らない本能に基づく部分が劣っている。
ひょっとすると1度死を経験してしまっている影響かもしれない。
勘やイメージは直感的に思い描けるのに対して思考で動き続けるとなるとどうしても反応が悪くなるので実戦で命取りになる可能性が高いのでしっかり鍛えようと思っている。特に問題になりそうな市街戦などを想定した模擬演習などを重点的に。
13歳となって派閥(いつの間にか80人になっているが)の皆と祝った翌日に、第二次世界(経理部)大戦が勃発。
切っ掛けはサスロ・ザビの暗殺を調査の結果、ダイクン派によるものであったことが判明し、ダイクン派の本格的な排除(殺すことも込み)が始まった。
噂では故ジオン元首相の維持であるキャスバル・レム・ダイクン、アルテイシア・ソム・ダイクンの逃亡も関わっているとかいないとか。
長男であるキャスバル・レム・ダイクンが私より3歳年下、つまりまだ10歳程度の子供だというのに……政争の闇は深い。
ただ、一部では有能な次男が目障りだったギレン・ザビによるものだという噂も流れている。
色々陰謀論が流れているが、真実がどれなのかなどわかるはずもない。
私としては地球連邦が屋台骨をへし折りに来たの一票を入れたい……でないと——
「このデスマーチが母国から発せられたなどと認めたくない」
現場への無茶振りとは常に上司か取引先からのものであるが、せめて取引先(敵)からのものであってほしい。上司(味方)のせいで不給不眠不休のスリー不を背負う羽目になるなどと思いたくもない。
ただ、1つだけよかったことを上げるとすると内示ではあるが上等兵候補生に取り立ててもらえることになったぐらいだろうか。
問題は上等兵の権限は一等兵とそれほど変わりなく、一等兵よりも上位に位置づけるというだけでほとんどメリットがない。むしろ面倒事を押し付けられるだけのデメリットが多い役職であることぐらいだ。
学生の内になんとか権限が拡大する兵長候補生まで上げておきたいが、そうなるとまたこんなデスマーチに参加させられることになるだろうから良し悪し……むしろ悪しか?
……えーっと、なるほど?あれほど忙しかったのはこういう裏も……いや表か?もあったのか。
「新たなる時代を切り開くため!今ここに!ジオン公国を宣言する!!」
ジオン共和国からデギン・ソド・ザビを公王としたザビ家主体……平たく言えば独裁体制の国、ジオン公国へと移った。
管轄も違い、仕事漬けという半ば隔離状態だったこともあってこの話は宣言が成されるまで知らなかった。
これはもう開戦は秒読み段階に入ったと言えるだろう。まだ軍隊が歩兵や旧兵器ばかりなためしばらくは軍拡となるだろうが戦争は避けて通る気は地球連邦が大きく譲歩しないない限りは不可避だろう。
「なぜ人は民主主義を放棄して独裁主義に走りたがるのか」
人権の大切さを知りながら人権を蔑ろにする独裁主義……戦争において独裁主義は素早い判断が可能になる分には有利なのは事実だが、そんなことを考えて動いているわけではないだろう。
となると……なるほど、人殺しの引き金を自分達の権利で引きたくはない。けれど不満は解消したい。つまり、明確な他人のせいにしたいから独裁主義に走るのか。