第十二話
暴走する部下を持つってのは大変だなー。なんて思っていたら3ヶ月があっという間に過ぎた。
まぁあれからキリングはちゃんと事前に報告、相談するようになって助かった。
人は石垣、人は城、人は堀とはよく言ったもんだ。自分を守るのは人であり、それに敵も味方もないのだ。労働力として使ってよし、スケープゴートにしてよし、殺すのは最後の手段だ。(本当はそんな意味の言葉ではありませんし、本当は情けは味方、仇は敵なりと続きます)
「相談するようになったはいいが毎日殺していいかと聞かれたのはさすがに疲れたがな」
しかし、最初に言ったとおりキリングはなかなか優秀で、消そうとする人間はダイクン派の要石と言える者達ばかりだったので、ついGOって言いかけたのは俺も若いからかねぇ。
とはいえ、全員を却下したわけではなく、何人かは実際消えてもらった。
キリングはダイクン派を骨抜きにする方向性だったが俺が選んだのはダイクン派の安定。
骨抜きにすればザビ家の支持基盤は安定するだろう。しかし、逆に言えば気骨があるダイクン派を追い詰める形になり、下手をすればクーデターに踏み切る可能性がある。
ならば多少目障りでも安定していればザビ家の台頭は面白くないだろうが、それでも生命に関わらないので迂闊な動きは控えるはずだ。
事実、今のダイクン派はジオン元首相が亡くなった当時から比べれば随分と安定した派閥になっている。
更にいえば消した人物はダイクン派にとって不利益ばかり振りまいていた存在が多いので余計にザビ家側が仕組んだこととは思われにくいのもメリットの1つだ。
ちなみにこれらの行動に関して、ギレンさんには俺の大まかな方針しか伝えていない。
キリングに言ったこととは反対の行動だが、これは所謂忖度?というか配慮?だ。
これは格の違いというかなんというか……ギレンさんに許可をもらうとギレンさんに責任が及んでしまう。万が一に備えて俺の独断ということになっているのだ。
ギレンさん、デギンさんが無事なら最悪俺が裁かれることになったとしても助けてくれることもあるだろう。まぁ切られる可能性も捨てきれんがそこまで疑っちゃ命は賭けられんからな。
そんな感じに汚れた大人へと全力疾走している中、今日はちょっと……いや、かなり大きなイベントがある。
それは――
「久しぶりだな父上、兄貴!」
「ご無沙汰しておりました。父上、兄上」
「息災で何よりだ。キシリア、ドズル」
そう、デギンさんの子にしてギレンさんの兄妹である次男のドズル・ザビと長女のキシリア・ザビの帰国である。
本来は留学先からの帰国はまだ先だったのだが、デギンさんが首相となったことで予定よりも早く切り上げることとなったそうだ。
ちなみに2人は士官学校に入学する予定だ。
ザビ家が支持を得、支配を強める一石二鳥の策、家族の軍属化。
政治家としてデビューさせる方法もあるが、それではただただ権力を握ろうとしてるようにしか市民には映らない。
だからこそ市民の剣であり盾である軍に所属させることでさらなる支持を得ようということだ。
うーん、この何処まで言っても中世っぽいやり方だな。とはいえ、古くから使われる手法というのは効果があるからこそ受け継がれているというのも事実なんだが。
ちなみに目下の悩みとしてはこの2人をなんて呼ぶかってことだったりする。
明確に立場も年齢も上のデギンさんやギレンさんは迷わなかったが、この軍人ではないのに軍人にしか見えない大男であるドズルは俺と同い年、そしてその妹であるキシリアは当然年下だ。
別にケラーネ家はザビ家の遠縁であるが分家だとかそういう関係ではない。俺が下についているのはあくまでデギンさんとギレンさん個人であって見知らぬザビ家の人間の下につこうとは思わない。
とはいえ立場的には首相であるデギンさんの子であり、直属の上司であるギレンさんの兄妹……本当に扱いに困る。