第十三話
「気にすることはない」
俺の悩みを断ち切る言葉はギレンさんから発せられた。
「少なくとも今はただの学生に過ぎん。役職にあった対応で問題ない。少なくとも私と父上はそう考えている」
どうやらギレンさんは人情……人の感情もある程度読むことができるようになったらしい。
以前までは合理的な考えが行き過ぎていた。おそらくあのまま進んでいたら何処かで大コケしてたとだろうな。
その大コケがギレンさん個人のものなら周りがフォローできるが、ザビ家全体に影響するようなものならジオン共和国……いや、下手をするとスペースノイド全体に波及してもおかしくない。
デギンさんが現役の今は問題ない。しかし、最近はデギンさんよりもギレンさんの方が主導するようになってきた。
おそらく、デギンさんはジオン元首相の代わりをギレンさんに求めている。正確に言えば、ジオン元首相に匹敵する求心力を欲している。
元々その傾向はあったが、ここのところ如実に出ている。
それというのもジオン元首相が亡くなってからというもの地球連邦の圧力が強くなり、内側をより強固にしたいという思惑があってのことだとわかる。
つまり、このまま既定路線で行けば間違いなくギレンさんはジオン共和国のトップとなる日はそう遠くない。
そしてその後大コケが来た場合、それは致命傷となる可能性が高い。
今のうちに回避できた……と思いたいもんだな。まぁだからと言って人情家になってほしいわけでもないが。
話が逸れたが、とりあえず目前の悩みは解決した。
「兄上、そちらは?」
「彼は私の下で働いているユーリ・ケラーネ中佐だ」
「よろしく」
「ほう、ケラーネ……」
あ、うん。いきなり厄介事の予感。
キシリア(年下だから呼び捨てにした)は俺の家名に反応して見る目が変わった。
どうやら俺の家を知っているようだ。そしてその目に、利用価値と嫉妬が見て取れる。
品定め……つまり利用価値を見出すだけなら別にいい……いや、それを隠せていない段階で減点といえば減点だが……嫉妬ってのはどうなんだ?ちなみに嫉妬は俺に対してではなく、ケラーネ家の子息である俺を手元に置いているギレンさんに対してのものだ。
ハァ、この年齢ならもう少し普通の価値観を持っていて欲しい……と思うのは贅沢なんだろうなぁ。
それに比べ――
「おお、お前がケラーネ家の跡取りか!いつも世話になっているな!」
とちょっと耳が痛くなるぐらいの声で豪快に感謝したのはドズル(同い年らしいから呼び捨てにした)だ。
ドズルの方はなんというか……兄貴気質な感じで悪い印象は抱かなかった。
良くも悪くも普通、人情味がありデギンさんの息子であるというのが1番しっくり来る人柄だし、顔も1番似ている。
ただ、この手の人間は俺は嫌いではない。主な理由が政争し、謀殺までしている関係でちょっと心が荒んでいる自覚があり、こういう竹を割ったような男相手は心が安らぐ。そういう意味ではギレンさんは落第点だ。むしろ追い打ち……夏休みの追試に匹敵する。まぁスペースノイドに夏休みなんて言ってもわからんだろうけどな。
とりあえずファーストコンタクトはこんな感じで悪くもなく(ドズル)良くもなく(キシリア)過ごした。
個人的にはちょっとキシリアが苦手だ。
ギレンさんもそうだがいつも相手を審査するような視線が面倒なんだよなぁ。それに加えて年下で女だろ?これが男としての審査なら別にいいんだがねぇ。使えるか使えないかで見られるのは辛い。何度も言うが年下だからな?俺のだぞ?俺、まだ未成年、しかも車の免許がやっと取れるぐらいの。あ、コロニーでは免許はもう取れるか……まるで圧迫面接をされているように精神をガリガリと削ってくる。
そういう意味ではギレンさんは節度があったな。いや、使えるかどうかの見切りが早かっただけか?
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あとがき
感想掲示板でも書きましたが、この作品ではサスロ・ザビの存在はリストラされています。
ご了承ください。