第十八話
「先日は助けていただきありがとうございました」
「いや、助けたというよりほぼ本能だな。可愛らしいお嬢さんに声を掛けないなど男が廃る」
とは言っても俺自身、他の女に声を掛けていないんだがな。
今まで好みの女がいなかったわけではない。しかし、好みであると同時に面倒だという感情の方が大きかった。
これは特殊な記憶の弊害の1つだ。
知識として女の色々を知っている故に発情期の猿……ゴホン、思春期の男としては枯れたものだった……というのは先日気づいた。
いやー、俺に見合った女がいないとか思っていたんだけどまさか枯れていただけだったとは……そういう意味ではシンシア少佐に感謝だ。枯れていた井戸は見事に水が湧き出、溢れんばかりだ。
「大佐はお上手ですね」
笑顔で応えてくれるのは嬉しいが……何処か固いな。
ちなみに俺は国家体制変更に際し、また昇進した。
もっともここから先、つまり将官への壁は厚いのでしばらくは昇進は無しだな。せいぜいが勲章が増えるぐらいだろう。
金がある俺には勲章の価値なんて装飾品でしかないんだがね。(勲章を得ると給料と年金が増額される)
「そういえばシンシア少佐はなぜ俺がここにいることを?そもそもどうやって?」
彼女がここにいるのは嬉しいがいくらかおかしい点がある。
俺が率いているこの部隊は『公式的には存在しない』、国から予算こそ出ているが実質はザビ家の私設部隊のようなものだ。
それの証拠にこの部隊には名がない。呼ぶ時はザビ家直属の部隊だがいつでも切れるように俺の名前から取り、ユーリ隊となっている。
そんな存在であるため知る者はかなり少数、にも関わらずシンシア少佐はどうやってここを知った?そしてどうやってここに異動してきた?
場合によっては部隊の解散、再編成も視野に入れなくてはいかんな。いや、俺の名前も随分と売れてしまったし、再編成もありか。
「一昨日突然サハリン家から使者が……」
……………
…………
………
……
…
なるほど?つまり――ギニアスは恋敵だということか?!
……冗談はさておき。
しかし、なるほど、この意味がわからん異動はギニアスの差配か……というかなんでギニアスが彼女を……なんてのは無粋か。
俺の様子を見れば何かあったのがいつ、どこでなどというのは調べがつくだろうし、理由も想像がついたようだな。
ただ、問題は――
「それとこちらをお渡しするようにと」
シンシア少佐が差し出したのは封書、それにはまさに俺が今危惧していた――ギレンさんの印(厳密には繋がりを隠すために偽装した印)が押されているのを確認した。
そして内容は簡単にまとめると『親愛なる親戚殿の恋を応援しよう』ということがオブラートを10枚と某大手通販会社の梱包ぐらい包んでそう書かれていた。(ただ、最近の某通販会社の梱包は袋だったりしてイマイチ信用できなくなったけど)
ギニアスよ。根回しは助かるがさすがにギレンさんには……いや、まぁこの部隊はギレンさんの直轄であるから当然なんだが、しかし、個人的な恋愛事情など知ってほしくはなかった。それにこれ非の打ち所がないほどの職権乱用だぞ?!こんな部隊を作っている段階で手遅れだけども!
なんにしても後日お礼をしておかねばならんな。
「シンシア少佐」
とりあえず姿勢を正し、彼女を呼ぶと合わせるように靴を鳴らして背筋を正す。
「ハッ」
「貴官を歓迎しよう。ようこそ、名誉無き志有る戦場へ」
「ハッ――――」
何処までもご一緒します。
その言葉があのパーティーの誘い文句への回答だと気づいたのはしばらく後だった。