第十九話
私情的には来てもらって我が世の春ではあるが、実務的にも大いに助かっている。
なにせ俺達の部隊は実働部隊が多いし、現場指揮官も多い……が、1つだけ足りないもがあった。
それは経理だ。
俺が引き抜いてきた人材の多くは今更言わなくてもわかるだろうが士官学校からなわけだが、そしてそのほとんどが貴族やそれに準ずる富豪層の者達だ。
となると起こるのが上流階級特有の金銭感覚の無さ、だ。
ギレンさん直轄であるし、成果は上げているので予算は潤沢なんだがそれを差し引いても奴らの金遣いの荒さは酷い。
まぁ諜報活動には資金が必要なのは間違いないんだが、奴らはその限度を知らない。それにちょっとでも油断すると我田引水、自身に利がある動きを見せる。それがジオン公国にとって、ザビ家にとっても利があることなら多少のことは目を瞑るし、金額が大した額でなければ小遣い稼ぎ程度でそれも目を瞑ろう。
だが、ただの横領を行うのは認められるわけにはいかない。だが相手は上流階級、経理を担当する者は生半可なものでは押されてしまう。んでそんな人材はいなかったので今までは俺が担当していたんだが、今では――
「これは経費として認められません」
「グダグダ言わずに貴様は黙って認めればいいのだ」
「これは経費として認められません」スッ(写真が1枚置かれる)
「?……貴様、何処のものだ名乗れ」(意味がわからないようだ)
「個人情報なのでお教え出来かねます」スッ(もう1枚並べる)
「?……!きょ、今日はこのあたりで失礼する」(何かが思い至ったようだ)
「これは経費として認められません。よろしいですね?」
「……うむ」
一体何があったんだろうな。俺も知らない。知りたくない……とりあえずシンシア少佐が有能で俺の仕事が減ったということだ。
「ご苦労さん。コーヒーはいるか」
とねぎらいの言葉と共にコーヒーを差し出す。
まだ短い間だが得た情報の中に、こういう面倒なやり取りをするとコーヒーを飲むことがある。ちなみに日頃は国内産とは言え割とお高い果汁100%のオレンジジュースを愛飲している。今はいいがもし懸念している戦争になった時大丈夫かねぇ?
ちなみに祝賀パーディーにいるだけあってシンシア少佐は良いところのお嬢様だ。
家格的にはサハリン家に劣り、資産的にはケラーネ家に劣るが両方バランスよく上位に食い込む家だ。
つまりシンシア少佐は士官学校卒である。
「ありがとうございます。いただきます」
「それにしても本当にそれでいいのか?」
「構いません。階級は上から見るより下から見た方がわかることが多いので査定がしやすいでしょう?」
「とはいえ中尉というのはねぇ……何かと危なそうだが……」
今、シンシア少佐の階級章は少佐のそれではなく、中尉のものとなっている。
一般的には彼女の年齢を考えれば中尉でも上等な階級ではあるが、この部隊の経理を任せるには心許ない。なにせ年齢と階級から見れば軍学校でにしか見えず、簡単に言えば見下し、その先は……誰かガードをつけるか。
正直、有象無象の上流階級よりも上の立場であるシンシア少佐なら問題はないのだが、今は中尉ということになっている。
不埒者が出ないとも……まぁ既に横領している段階で不埒者だがこの場合はシンシア少佐に手を出すという意味で……限らない。
誰か護衛をつけるか?いや、俺の推測ではシンシア少佐は表面は気にしない風でもプライドに傷がつきそうだな。できる女を体現するような仕事っぷりだし。
となればそれとなく人材を増やすか、しかしそうするとシンシア少佐を口説く時間が減ってしまう――なんて職務中に考えるようなことではないことを考えているとそこに緊急の知らせが入った。
その内容は――
『ラル家に動きあり、委細調査中』
ラル家か、このタイミングで動くということは間違いなくダイクン派としての動きだろう。
さて、どう動くか……ダイクンの遺児を担ぎ上げてザビ家に政治的に対抗か、それともクーデターか、まさかの臣従ということはないはずだが――
「他のダイクン派に動きがないか徹底的に洗い出すように指示しておくか」