第二十話
部下が優秀だと上は楽……なんだけど、これは俺には判断できかねるな。
というわけで――
「ふむ、よく気づき報告した」
直属の上司に判断を仰いだ。
大体において独自の判断が許されているがさすがにこれは俺の裁量を大幅に越えている。
「しかしダイクンの遺児を何処かに落とす……か。地球連邦の目を掻い潜れると思っているのだろうか」
落とす、つまりジオン公国から逃がすということだ。
ラル家が……ジンバ・ラルがどうしてそういう結論に至ったのかまでは判明していないが、まぁ国家体制の変更をザビ家の専横と考えてダイクンの遺児質が狙われる可能性があると考えたんだろう。
俺が知る限りではザビ家ではそんな動きはないんだがね。もちろん俺が知らないだけって可能性もあるが、ギレンさんは合理性を重視するんでそんなことしてもザビ家にメリットよりデメリット多いことを理解している。
殺るならもう少し成長してからの方がいいな。俺的には。さすがに子供を殺すのには抵抗がある……必要なら殺るが率先してやりたくはない。
「大佐、エスコートしてやれ」
「いいんですかい」
「問題ない。こちらとしても国内に居られるよりはいい……が連邦の手に落ちるのは困る」
それはそうだろうな。
ダイクンの遺児を連邦にとられたとしたらどんな犠牲を払ってでも取り返さなければならない。そうでなければザビ家は連邦ではなくジオン公国国民に追い込まれることになるだろう。
「それに万が一我々が敗北した時の新たな旗頭として必要だ」
ギレンさんが己の利で動いているという話を聞くが、それがないとは言わない。しかし、前提としてスペースノイドの未来を切り開こうとしているのだが……まぁ悪人顔だから悪く取られるんだろうな。ちなみに俺もギレンさん側だけどな!
しっかしダイクンの遺児のエスコートか~、これまた難題を押し付けられたな。
今回の情報はダイクン派の中のザビ家理解派によって齎(もたら)されたものだが、それはたまたまそいつがラル家の縁者から引っかかる話を聞いてこちらに情報を送ってくれただけでダイクン派そのものがダイクンの遺児を落とすことに合意しているわけではない……どころかラル家の独断だ。
当然だな。ダイクン派の意思を統一しようとすれば騒ぎになるのは必定、むしろダイクンの遺児を落とすのを騒ぎも起こらないなら既にクーデターが起こるかダイクン派はダイクンの意思は残らずただの派閥に成り下がっているかのどちらかだ。
そして何が難しいかというとエスコートすることはいいが、問題はその人選だ。
俺の部隊はその性質上ザビ家と繋がりが強い者が多い。そんな奴らにギレンさんの命令とはいえダイクンの遺児のエスコート?しかもダイクン派筆頭のラル家主導の?……問題が起こる未来しか見えねー。
んで反対にダイクン派ザビ家理解派の者達なら安心できるかというとそうじゃない。
絶対こっちも面倒事になるな。情報漏れからのダイクン派同士の争いに発展……ギレンさんはこれを狙っているのか?いや、それなら最初から言ってるか。
となると中立、中道派を選ばないといけないんだが……そんな奴、俺の部下にいねーんだわ。
というかジオン公国の人間ならダイクンの遺児を逃がす手伝いなんて誰もしたがらないよな!普通に考えて!面倒事過ぎる!
「というわけで親友よ。助けてくれ」
「親友ではない、腐れ縁だ」
相変わらずのツンツンなギニアスだ。
アイナが女性専用士官学校に入ってからは特にトゲ度が上がっている気がする。
「そんな事言うなよ心の友よ!!」
「その心、砕いてやりたい」
俺の友は殺意が高いすぎる!なんて冗談はさておき。
「しかし、また面倒でな任務を……実はお前、ギレン閣下に嫌われているんじゃないか?」
「そんなことはないだろ。良いように使われている可能性は否めんが」
「それはそれでどうなんだ。だが、今回のはなかなか難問だな」
「さらに言えば時間もない」
動き始めに情報を得られたのは行幸といえる。そうでなければ準備なんてする暇がなく、その場で人選しなければならないという地獄が待っていたに違いない。
「ふむ……部隊から選ぶのが難しいとなると……ノリスを使うか?」
「……それは思いつかなかった」
なるほど、ノリス中尉なら忠誠はサハリン家にあるし、変な忖度なんてすることはないだろうし、人柄も信用できる。いい人選かもしれない。
しかし――
「ギニアスを野放しにするのは危険な気も……」
「そういえば近々人体実験を行う予定があるんだが是非検体になってもらえないかな?そうか受けてくれるか」
「いや、返事も聞かずに勝手に検体にするなよ」