第二十一話
というわけでノリス中尉に任せて俺はゆっくりと……なんてできるわけもなく、まずはノリス中尉が連れてきた者達と軽く面接を行った。
幸い、ノリス中尉の人選はわかりやすいものだった。それはノリス中尉自身と似た気質を持った者達……つまり古き良き軍人気質ということだ。
そしてノリス中尉が信頼するようにその者達もノリス中尉に心服しているのが見て取れた。経歴を見れば士官学校出の佐官という名の坊っちゃん嬢ちゃん、もちろん俺も含む、とは違うベテランさを感じる。
これで1番の問題点だった人員は確保できたと思っていいだろう。
さて、次の問題はラル家の動向と地球連邦への対策だ。
ラル家の動向次第で行動も変わる。ラル家もダイクンの遺児について落ちるのか、それともダイクンの遺児だけを落とすのか、落とし先は何処なのか、妥当なのは別のサイドだが……1番有力なのは比較的経済が安定していてジオン公国寄り(立場ではなく心情的に)サイド6か?だが真っ先に調べられることはジンバ・ラルもわかっているはず……まさか地球だったりしないだろうな。もしそうならフォローするこちらとしてはかなり面倒なことになるが、さすがにそれはないと思いたい。
それと地球連邦への対策は……とりあえずダイクンの遺児が落ちた時に悟られぬように隠蔽し、囮にダイクンの遺児に似た背格好の子供を各サイドに送るのも有りか?しかし露骨過ぎる気もする。
「というか連邦の手が何処まで長いかわからんのがなんともなー」
敵を知り己を知れば百戦殆うからず、と以前言ったが改めてそのとおりだと思う。
ジオン公国内のネズミなら把握はできている。泳がしたり潰したりしているが逆に言えば、潰しても次から次へ湧いてくるほどの力が地球連邦にはあるということだ。それが他のサイドならともかく、地球から最も離れ、経済制裁中であるため物流どころか交流もかなり限られているジオン公国に、だ。……そんな状態でザビ家は留学していたんだから別の意味で凄いな。
それはともかく、そんな地球連邦を欺く……しかも巨大な爆弾を隠すとなると難易度は跳ね上がる。
「木を隠すなら森の中……か」
人を隠すなら人?いやいや、そんな当たり前のことをしても惑わされる奴らじゃないだろう。なら何か……それは――
「騒動は騒動の中に隠せばいい」
しかし生半可な騒動では目を誤魔化せない。
そして騒動は自然なものでなければならない。連邦に疑念を持たれたなら意味はない。
「…………結局ギレンさんにお願いすることになりそうだな」
騒動は騒動でも物騒な騒動はいただけない。
国家体制が変更されて間がなく、あまり物騒なことをすればザビ家の統治を疑われることとなる。それはあまり嬉しくない。
「ただの軍人が政治にまで口を出すのはお門違いだからな」
俺にも一応腹案はある……あるが、それは俺の裁量で行うことができる範疇ではないのだ。
俺自身は表で使えるほどの権力を持っていないのでなおのこと仕方ないのだが。
「この度、ジオン公国軍総帥に任命されたギレン・ザビである!亡き英雄ジオン・ズム・ダイクンの意思を背負い!偉大なる父デギン公王の期待に応え!スペースノイドの未来のために!傲慢で我々を、我々の母なる大地を蔑む地球連邦の魔の手からジオン公国を護ることをここに誓う!」
ギレンさんはとうとう名実共に閣下と呼ばれる立場となった……まぁ俺が頼んだんだけどな。
そしてダイクンの遺児達は今頃夜逃げの真っ最中だろう。
目的地は調べた限りではとりあえずグラナダ、そしてサイド6を経由して地球へと降りるらしい。
偽情報を掴まされている可能性も考慮して、地球は広大であるため難しいが他のサイドには人員を割いて監視している。
もっとも念の為であって本命はおそらく変わらんだろうと踏んでいる。
ちなみにラル家には俺が手配で念入りに整形してそっくりにしてあるダイクンの遺児の替え玉を送り込むことに成功した。これでダイクンの遺児の失踪は表沙汰になることを防ぎ、地球連邦を騙す予定だ。
実はこれが今回で1番苦労したところだったりする。
替え玉をラル家に拾わせるのになかなかに骨が折れた。
ちなみに騒動を起こすとは言ったが、ギレン閣下の総帥の昇進だけではない。
囮としては問題ないが、地球連邦の目を集中させるには足りない。なにせギレン閣下の総帥昇進は現在の追認に過ぎない。それでは効果が薄い。
そこで考えたのが――ジオン公国になって初めて行われる大規模人事だ。
これによって地球連邦は今までの繋がりなどを弱らせることができる上に人事異動ともなれば監視や追跡をする側はかなり振り舞わされることになるだろう。