第二十三話
更に半年経った宇宙世紀0070年5月。
研究開発部に俺達が回されたのは決して過労死をさせるためではなく、信任を得ているからなのだと改めて思う。
目の前にはついに完成したこれからのジオン公国を護る武となる砲台――メガ粒子砲を眺める。
それは地球連邦すらも基地規模ならともかく、艦艇規模には実用段階に及んでいないビーム兵器の砲台だ。
それだけに機密性が高いため、畑違いの俺達はそのために配属されたのだ。
実際諜報員や口が軽い兵士や科学者などが存在したので取締にはかなり力を入れた。後、ついでに暴走する科学者の沈静化もある……というかこちらの方が大変だったな。
放っておいたら砲身の口径が戦艦丸ごと入りそうなものになったり、砲身自体が戦艦の全長ほどになったり、コロニー武装化を計画したり、コロニー自体を砲身にしようとしたり、お約束のように自爆装置をつけるし、まだ百歩譲って自爆装置は機密保持のために使うかも知れないが、なぜその自爆ボタンが発射ボタンより大きいのか……ネタで作っているならいいんだが、本気なのがなんとも。
そしてその中にはもちろんギニアスの姿がある……いや、まぁギニアスはまだ真っ当な研究をしてくれているからいいんだが……顔が土色になってなければ。
…………ジオン公国の未来は大丈夫か?
「大変でしたね」
「全くだ」
シンシア少佐(内部調査より科学者共を言うことを聞かせることを優先して階級を戻している)の言葉を否定せず頷く。
しかし、そう言っている本人もかなり苦労しているのを知っている。
俺のような肉体派ばかりではないので科学者鎮圧銃というものが配備されているのだが、おそらく1番ぶっ放しているのはシンシア少佐だろうな。真顔でぶっ放すからめっちゃ怖いぞ?そんなところも可愛いんだけどな。
ちなみに何人かその道に目覚めてシンシア少佐に言い寄ろうとした奴もいたが……どうなったかは……語らないでおこう。トラウマになっても悪いしな。
「そういえば新型重巡洋艦の開発も進んでいるんだったか」
「はい。来月にチベ級重巡洋艦が就役される予定です。残念ですがメガ粒子砲は搭載予定はございませんが」
「仕方ないだろうな」
本格的に戦争を始めようというわけではない以上、こちらの切り札とも言える兵器を晒すわけにはいかない。新型艦よりも断然重要度は高いのだ。
決して苦労して作ったのにハブられていじけているわけではない。
チベ級重巡洋艦が就役した3ヶ月後にサラミス級巡洋艦、マゼラン級戦艦を発表という嫌がらせを受け……たわけではなく、地球連邦の新型艦がお披露目されるという情報を得て、それを知っているぞということを示すための行動である。
それとジオン公国民に不安を抱かさないためでもある。
後出しよりも先に公開しておいた方がインパクトを与えることができるという狙いで実際効果はあった。国民って単純だな。
さて、そこは問題なかった。
なら別に問題が有るのか?大有りだ。
優性人類生存説、これが何か知ってるか?どっかの偉い人が発表した説なんだが簡単に言うとジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプは地球から離れ、新たなる人類に至るのはもっとも地球から離れた所に住むジオン公国民であり、地球を統治するのもジオン公国であるべきだ、ということを捏ね繰り回して言ったものなんだが。
そしてそのどっかの偉い人というのが何を隠そう……ギレンさんなんだよなぁ。
ミノフスキー粒子の新たな可能性、小型核融合炉の実現に目処が立ったことで調子に乗ったんじゃないかと疑ったのは俺だけじゃないだろう。
ドズルから得た情報だとデギンさんとギレンさんがガッツリ殴り合いしたらしい。
ちょっと調子に乗りすぎじゃボケェ!
最近日和すぎなんだよクソ親父!
――的なことを言いながら。
最近のデギンさんの衰えというか活力の無さは目に余るものがある。ジオン元首相が亡くなってからその傾向はあったがそれが進んだ。
保守的な姿勢を否定はしないが、それに偏り過ぎられると革命を起こそうとしているジオン公国の元首としては問題が多い発生する。
故にギレンさんは優性人類生存説を唱えたのだということが伝わってきた。
デギンさんの求心力低下を自身が過剰までのタカ派発言……選民思想を掲げることでギレンさんは新たな求心力になろうとしている。
まぁ別の見方をするとデギンさんの権力を奪っているようにも見えてデギンさんを慕う者達の中では不快感を示す者も多い。
とはいえ、語らいには意味があったらしくデギンさんが引き、ギレンさんに権限をほとんど移譲することになった。