第二十四話
さて、ギレンさんの悪役ムーブに苦笑いを浮かべつつ、ジオン公国には新たな展開があった。
まずは良かったことだ。
それはアステロイド・ベルトにアクシズという小惑星を基地化を始めたことだ。
このアクシズ、かなり遠方で往復だけで年単位必要なほどの距離がある。
そんなところになぜ基地が必要なのかというと新型にしろ旧型にしろ核融合炉にはヘリウム3が必要で、そのヘリウム3を必要量に満たすほど埋蔵されている場所がある。木星だ。
しかし、その肝心の木星は遠い。アクシズよりも更に遠く、それ相応の準備をして片道2年、往復で4年という有る種の拷問のような道程だ。
そんな道程に中継地点を構えて少しでも負担を軽減し、そして効率よくヘリウム3を手に入れようというのが狙いなわけだ。
ついでに言えばアクシズの基地化には月を拠点とするアナハイム・エレクトロニクスと共同開発に噛ませることで地球連邦の目も誤魔化している。
アナハイム・エレクトロニクスを噛ませた副産物としてお互いの弱みを握ることになり、以前からある取引が更に増大し、ジオン公国は上昇し続ける物価が久しぶりに低下、もしくは停滞となった。
軍需は順調でだったが景気に関して今ひとつだったがこれで一息つける。
まぁアナハイムの発言力が強くなりすぎないように注意はしなくてはならんがな。
そして悪いことは――――
「ターゲット、ネズミと接触しました」
「ハァ……大人しく研究だけをしていればいいってのによぉ」
俺のところとは別の科学者なんだが亡命をするために連邦のネズミと連絡をするものが出始めた。
これはおそらくギレンさんの悪役ムーブの悪影響だろう。
悪役とは一般的にウケが良くないが、自分達の研究や開発が人殺しに使われるとなると余計にその思いは強くなるのもわからなくはない。
しかし、例え悪役ムーブがなくても所詮ジオン公国は共和国だった頃から国家反逆罪が適応されるのだから俺的には今更のことなんだが世情に疎い科学者はやっと気づいたらしい。自分等が動乱の手助けをしているのではないか、と。
まぁ、中には連邦の方が待遇が良くなる、自由に研究できるなどの甘言に唆される奴らもいるが……豊富な資源という意味では確かに連邦に負けるが、自由な研究という意味ではジオン公国の方がいいと思うがな。
「そろそろ時間か……ターゲットの様子はどうだ」
「まだ変化は…………いえ、今ありました。症状が出たということは後1分で死にます」
「よし、警察に連絡を入れろ」
「了解しました」
ネズミと会っていたターゲット……亡命をしようとする匿名希望の科学者は非常に優秀で地球連邦からも危険視され、毒殺されることとなった。
今回の俺が用意したシナリオだ。
これで多少亡命者を躊躇させることができるはず。そうすれば対処は追いつく。
さすがに次から次へと続けざまに亡命されてはこちらの手の数が足りないからな。
「今回のような替えが利く奴ならいいが……」
最近、ミノフスキー粒子を発見し、確立、新型核融合炉など功績甚だしいミノフスキー博士が不満を抱いているという情報が上がっている。
ミノフスキー博士は他の有象無象とは違う。間違いなく、ジオン公国に必要な人材で流出してしまえば打って変わって致命傷となるのは火を見るより明らかだ。
殺してしまえば最大の不安要素は取り除くことができる。しかし連邦打倒にはかなり遠回りを強いられることになるのも間違いない。
全く、才能というのは面倒だよなー。天才を用意するなんてできねーし。
「フフフ」
「どうした。シンシア少佐」
「いえ、あまりにも他人事だったので……ご自身もその1人だとご自覚があるのだろうかと」
「それなりに優秀だとは思っているが自分で言うのもなんだが天才というよりは秀才だろう」
特殊な記憶がある俺はアドバンテージを生かしてこの座についているが、本物の天才とは感性が違いすぎる。
「知らぬは本人ばかりなり、ですね」
「そこまで持ち上げてもらって悪い気はしないが……」
やはりギレンさんやギニアス、ミノフスキー博士などの本物と比べると見劣りする――
「逆説的に言えば、天才であるギレン閣下、ギニアス中佐がお認めになっているケラー……コホン、ユーリ大佐も天才と言えます」
そういうもんかねぇ。
ちなみにシンシア少佐には2人の時は名前で呼ぶようにお願いしている。
日頃から名前で呼ぶように言うは簡単だが、こういうちょっとした秘め事というのは子供は当然として大人にとっても心を擽るもの、口説くならあり……なはずなんだが……どうもリアクションがあまり変わらず口説けている気がしないが……もしかして脈なしか?いや、しかしそれならギニアスから話があったとしてもわざわざ俺の下へ異動しないだろう。断るだけの家格はシンシア少佐にはあるしな。