第二十五話
幸いなことにあれから科学者達の亡命行動は起こっていない。
亡命科学者の末路もあるだろうがギレンさんに掛け合って待遇改善を行ったのも一要因だろうな……まぁ待遇改善とは言っても研究開発の必要そうな物資を優先的に回したり、美味くてよく眠れるクス――ンンッ、サプリを導入したりな。
奴ら、働き過ぎて頭がパーになってる自覚がなさ過ぎる。ろくに鍛えてないひ弱な体が悲鳴をあげてるのに気づかないからなぁ。
一々寝かしつけるのが面倒だし、無意味に敵愾心を買うのも嫌なんで定期的にこっそり食事か何かに睡眠薬を混ぜて飲ませて寝かしつかせて体調管理をするように方向転換した。
これが思ったより効果があったのか、毎日毎日カリカリしていた科学者達もわずかではあるが和らいだような気がする。
本人達は気づいていないがストレス溜め過ぎなんだよ。
そのかいあってか新型核融合炉が性能アップした。今までは核融合炉の熱をエネルギーとして取り出せるのは一部で、大部分は無駄に垂れ流すことになる。そうなると搭載する兵器、特に機動兵器の類は冷却装置なり、熱を逃がす必要があるんでサイズの問題が出てくるんだが、それが解決……とまではいかないが緩和されたとか。
それもあって新兵器の開発は割と順調に進んでいるらしい……がギレンさんが言っていた新型兵器が人型兵器があるとは思いもしなかったな。
「そもそも宇宙で足っているかねぇ?」
コロニーや月面、地球なら百歩譲れるけど無重力戦闘においての機動力はスラスターだろ?被弾面積も広がるし、資源も余計に必要だろ。
まぁ制御系や耐久性、資源コストを考えなければ無重力空間でも陸地でも使えるから使い勝手はいいか?いや、それなら4本足とか6本足の方が姿勢制御は簡単だろ……まぁ格好はあまりよくないか?格好良さは意外と大事だからな。士気に影響する。
ちなみにこの人型機動兵器はモビルスーツと呼ばれているらしい。
そしてもう1つ新型機動兵器が開発されていてそちらはモビルアーマーと呼ばれる戦闘機と作業用ポッドを合わせたようなものを開発中なんだとか。
そしてこれらの兵器はメーカーが開発しており、モビルスーツはジオニック社、モビルアーマーはMIP社が開発しているものだ。
個人的には後者が好みなんだがなぁ。
人型機動兵器はロマンがある。がロマン重視で勝てるほど甘い相手ではないだろう。
ただ、一概に否を唱えるのも抵抗があるんだよなぁ。連邦の猿真似をしたところで勝てるのかが問題だ。
王道こそ正道、歴史という経験から生み出された兵器は正しくそれに当たるだろうな。しかしそれは弱者がそれに縋ったとして強者に勝てるものではない。
邪道こそが弱者が強者に勝つ方法だと信じている。それが修羅の道であったとしても。
そしてその観点からいえばモビルスーツの方がより邪道だ。
人型兵器なんてものは今まで存在しない。あってもモビルワーカーと呼ばれる月面開発用の作業機械があるが、あれはとても兵器と呼べるようなものではないしな。
「モビルスーツ……ねぇ」
ジオン公国の救世主になるか、それとも粗大ゴミになるか……近々コンペティションが行われるんだがギレンさんに頼んで参加させてもらうか。