第二十六話
「最初は人型兵器と聞いたときには耳を疑いましたが、この成績を見れば納得です」
つい先程行われたコンペティションの結果に肯定的な意見を述べたのはキシリア・ザビ。
「確かに画期的な兵器なのは認めるが所詮機動兵器だ。それよりも威力も射程も優れているメガ粒子砲を載せた艦を増やして艦隊戦で圧倒できれば機動戦力なんぞ少し面倒なデブリと変わらん!」
それに反対するかのような意見を言うのはドズル・ザビ。
2人の意見が噛み合わないのは仕方ない。
兄妹仲があまり良くないのもあるが、根本的な考え方が違うのだ。
ドズルの思考は軍人然としており、ベストよりベター。それ故に教本を基にしてしまう。それは現場からの目線である。
キシリアの思考は士官学校に通っていながら政治家のものであり、指揮する側からの目線である。
そしてこの違いは仲が良くない兄妹であればあるほど大きな溝を作っていき、次の段階に進めば派閥を形成へと進んでしまうだろう。
「ですが連邦の猿真似ばかりしていても勝てはすまい。国力の差はどうにもならないでしょう」
「連邦は強大だが我らとは違い、守らねばならぬ場所も多い!ならば局所的に数的優位を作り出すことは容易なはずだ!」
「そしてその後に局所的勝利を得た場所には何倍もの軍が押し寄せるだけでしょう。局所的な勝利などいくら積み重ねても決戦に負けてしまえばそれまで」
「しかし――」
「ユーリ大佐。何かあるか」
本格的な対立になる前にギレン・ザビはこの場にいる中で1番信頼するユーリ・ケラーネ大佐に水を向けて場を一時的に鎮める。
ギレンは自身の兄妹であるドズルやキシリアの能力、そして人格の評価は低い。
ドズルは頭が固く、感情を重視し、短絡なところが目立ち、ギレンのみならずデギン・ザビからも能力的、人格的は評価は低い。ただし、ギレンは嫌っているわけではなく、むしろ個人的な信頼度としてはいい方であり、現場指揮を任せることに不安はない。しかし、今回のように軍政に携わるという点には不向きだと考えているに過ぎない。ちなみにデギンのものは若かりし自分を見ているかのようでイラつかせているということもあるのでこちらはある意味どうしようもないことだ。
打って変わって能力的には評価は高くとも人格的、信頼度的に悪いのがキシリアだ。
政治的思考ができるのだが、実績も経験も足りない。にも関わらず、士官学校で行ったのは派閥の構築。
ドズルも派閥を構成しているが、それはどちらかというと同じ釜の飯を食った仲間、同好の士の集まりのようなもので自身の力で作ったものであるのに対してキシリアは畏怖と利害によって作り出したもの、それがキシリア個人によるものなら評価もしたがそれら全てザビ家の名を全面に出したものだ。
しかも本人は隠しているつもりだが、自身がギレンよりも優れていると思っており、将来ジオン公国を背負うのは自分だと自負している。もっとも経験と実績の無さは自覚しているので現状は特に問題になっていない。
そしてギレンのキシリアに対しての評価は多少能力はあっても虎の威を借る狐、世間知らずの箱入り娘というところだ。
それに比べてユーリは才能にも申し分なく、ギレンの意思を十分以上に汲み取り、無茶振りの嵐にも応え、表沙汰にはできないものがほとんどだが実績と経験が豊富で、何よりもギレンにとって忌憚ない意見が聞ける数少ない人間なのだ。
「意見を述べる前に1つ確認したいことがありますがよろしいでしょうか」
チラッとメーカー側……ジオニックとMIPの担当者を視線をやりつつ発言の許可を求める。
裏の仕事が多い上に今は研究開発部という部署であるためあまりしない他所向きの言葉遣いが日頃を知るギレンには不格好、不似合いさに内心で笑いつつも発言を認める。
「では、メーカー側の資料には書かれてはいないがパイロットの習熟期間はどれぐらいだ」
その発言に表情には出さないが焦ったのはジオニック社だ。
なぜならモビルスーツという兵器は全く新しい軸の兵器であり、ノウハウ、マニュアルなど一切ないために習熟期間はどうしても長くなってしまったのだ。
対照的にMIP社は余裕があった。
MIP社が開発した兵器はMIP-X1は新型ではあっても戦闘機の運用に類似するものがあり、パイロットの習熟期間はそれほど問題にならないと考えていたからだ。
そしてそれぞれの話を聞いたユーリの答えは――
「私はジオニック社のモビルスーツを推したいと思います」